139.令嬢対決
どのように狩猟大会で立ち回るかを考えながら紅茶を楽しんでいると、声がかかる。
話しかけてきたのはオフェリーだ。
「リゼ嬢。先日以来ですわね。今日の模擬戦、楽しみね」
「あっ、先日はありがとうございました。私も楽しみです」
「それで、今日はリゼ嬢はアンドレ王子と参加しないのですの?」
「あ、私は……今日はカルポリーニ子爵令息と参加します」
リゼの発言を周りの令嬢は聞き耳を立てて聞いていたのか、少し驚いたような声が上がった。
「あらまあ、アンドレ王子と参加されるものとばかり思っていましたわ」
心底驚いたといった雰囲気でオフェリーは大きな声を上げる。
非難めいた声音であったが、リゼ的にはエリアスと参加することを後ろめたく思ってはいない。よって、普通に返答しておくことにする。
「えっと、実は色々ありまして。令息とは友人ですし、こういうこともあります」
「あまりお聞きするのは野暮ですわね。でもあなたはアンドレ王子と結婚されるのですから、あまり他の方と参加して、彼を悲しませたらいけないですわね。それに子爵令息を選んだのかと勘違いされてしまうかもしれませんわ」
「あー……そういうものなのですね」
何が何でもアンドレ王子と結婚してほしいようだ。否定しても仕方がないため、受け流しておいた。まだ誰と婚約するのかは決めていない。考えるとしても将来的な何かを解決してからだろう。
「さてと、それではこのあと、模擬戦で宜しいですわね?」
「分かりました」
(フォンゼルさんたちに教えていただいた剣術の成果を試せる……!)
リゼは内心で心躍る。特訓の成果を試せるし、初めて戦う相手で実力が未知数だからだ。噂によれば同年代では実力者らしいというのもやる気が出てくる要因となっている。
「では狩猟大会前の余興としてギャラリーも必要かしらね」
「それはどちらでも構いません」
「それでは楽しみにしていますわ。ニ十分後に広場で」
「はい」
その様子を令嬢たちは固唾を飲んで見守っていた。オフェリーは十歳の時から剣術を学んでおり、非常に強者であると言われているためだ。そんなオフェリーと戦うなど、向こう見ず他ならないといったところだろうか。エリアナはまたもや蚊帳の外で気分を害しているが、彼女的にはオフェリーが勝つとも言い切れないというような目を向けてきていた。自分に恥をかかせたリゼがオフェリーに負けるなど許せないという感情が働いているのかもしれない。オフェリーの取り巻きたちも若干の心配をしていた。
「大丈夫なのですか、オフェリー様。あの子、ルーク様より名を授かっていましたし」
「私が負けるはずがないですわ。ミュレル侯爵家の娘よ。そこら辺の貴族令嬢に負けるわけがありませんわ」
「でも……」
「何か? 例の氷属性魔法はルールで魔法を禁じるので心配無用ですわ。スキルについても同様ですわね」
「それなら……!」
不敵に笑うオフェリーと令嬢たち。ジェレミー派の輪の中で自信満々に勝利宣言をするオフェリーであったが、リゼには聞こえていない。集中力を高めている。
それから少しして席を立った。
「フォルティア様、頑張ってください!」
一人の少女が応援してくれる。アンドレ派か中立派の貴族であろうか。リゼとしては名前の呼び方が気になるものの、「精一杯、頑張ってきます!」と告げた。
ニ十分後、広間で向き合うオフェリーとリゼの二人。周りに参加者たちが何事かと集まってきている。
その中には国王や王子たちもいる。
「リゼ嬢、先に一撃与えた方が勝ちというのはどうかしら」
「分かりました」
「模擬戦用の魔法石を残数一に調整してあります。削られたら終わりですわ」
「あの、魔法はありなのでしょうか」
「魔法やスキルはなし、剣術だけですわ。型の打ち合いもなしで、最初から自由戦闘で。ではスタートの合図をお願いしますわ」
審判を任されたのはロイドだ。美術館以来に攻略キャラを見たが状況は変わりつつあるため以前ほどの動揺はない。ロイドは仕方なしにという雰囲気で引き受けている。オフェリーは剣を鞘から出して構えた。リゼも伯爵からもらった剣を引き抜き構えることにした。あまり見ない黒色の刃を見て観戦しているギャラリーが驚きの声をあげる。
「開始!」
オフェリーは瞬時に素早く間合いをつめて来た。なかなかにスピードがある。
(さて、ブルガテド流の剣術を特訓した成果を出す時よね! まったく知らない方と戦うのは剣術大会以来。楽しみ! あ、この前にお兄様とも初めて戦ったけれど)
オフェリーは素早く剣で突き攻撃を仕掛けてくるが、リゼは体を逸らしてかわすと一歩下がり距離を保った。
「やるようですわね」
「オフェリー嬢も良い突きでした」
続いてオフェリーが横から切り付けに来るが、リゼは剣では受けずにバックステップでかわすことにした。その後、左にステップし、位置を整える。オフェリーは連続で攻撃を繰り出してくるが、攻撃をかわし続ける。
「ふーん、リゼもこれまでの期間で随分と練習を重ねたようだね〜」
ポツリとジェレミーが呟くが、その横で王妃も固唾を飲んで見守っていた。
その後もオフェリーが突き攻撃や側面からの攻撃など、攻撃の型に即した攻撃を幾度となく繰り出してきたが、剣を使わずに避けることに成功した。避けて位置を整えるという一連の流れが板についてきた証拠だ。それにフェイントが出てきた時のために、常に剣で対応できるように構えている。
(フォンゼルさんやラウル様と比べると攻撃が遅い。それに型通りの攻撃ね。良い練習になった。ありがとうございます、オフェリー嬢!)
オフェリーが下から剣で攻撃してきたため、再度かわすと、続けて横払いが迫ってくる。この一撃を剣で上方に軽く受け流し、オフェリーが体勢を整える前にすぐさま横から一閃。オフェリーに一撃をヒットさせた。
「お? リ、リゼ嬢の勝利!」
「オフェリー嬢、ありがとうございました」
「……えぇ」
リゼがお辞儀をすると、オフェリーは悔しさのあまり俯いたまま返事をした。フォンゼルやラウルの本気の攻撃をひたすら避ける練習をしてきたリゼとしては、練習通りにうまく動けたといった所だ。
それにオフェリーがどれだけ剣術の練習をしてきたのかは分からないがリゼは騎士のように毎日必ず剣術の練習をし、ダンジョンに挑み、毎日のようにモンスターを討伐し、様々な分析をしてきたのだ。リッジファンタジアの展開通りになった場合に備えて、生き残るために必死に練習をしてきており、オフェリーとは意識にだいぶ差があったようだ。ギャラリーたちが見ても明らかにオフェリーはリゼの相手にはならなかった。
明らかな実力差のある試合であったが数人が拍手したことによって、他の人たちもつられて拍手してくるのだった。エリアナと目がまたあってしまったが、瞬時に逸らされた。
試合が終わったため、エリアスと合流する。エリアスは笑顔で拍手をしてきてくれた。
「良い試合でした」
「エル、ありがとうございます。周りの友人たち以外の方と試合をしたのは剣術大会以来だったので緊張しました……でも練習したことを出せたのでよかったです」
「オフェリー嬢もなかなかでしたけど、まだまだ荒削りですし、実戦経験が足りなさそうでしたね」
「確かにそうですが、なかなかに手厳しいですね」
珍しく辛口評価をするエリアスにリゼは驚く。エリアスとしては自信があったにせよ、もう少しレベルを上げてから挑んできてくれといったところなのかもしれない。
「魔法もなしで、さらにあれでは……リゼに勝負を挑むレベルではなかったので少し辛口に評価してみました」
「ふふ、エルともまた勝負してみたいです」
「ハルバートには負けてしまいましたが、僕はオフェリー嬢みたいにはいきませんよ!」
「望むところです!」
エリアスと盛り上がっていると、背後から声がかかった。




