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137.狩猟大会前夜

 翌朝、ラウルから『狩猟大会のルールについて説明しておこう。昼過ぎにそっちに行くよ』と連絡が来たので午前中は私室の隣にある本棚を敷き詰めた部屋で古代魔法の本を読んでいた。

 するとふらっと立ち寄ったリチャードが話しかけてくる。


「それは何の本ですか?」

「リチャードも本を読みに来たのですか? これは魔法の本ですね。昔のものなのでルーン文字で書いてあります」

「はい。久々に本を読みたくなったので。勉強熱心ですね。どのような魔法ですか?」

「エアーシュートという魔法みたいです。どのような魔法か、魔術式として仕上げるための説明、使い方などが書いてあります。昔の方はまるで謎解きみたいに説明が書いてありまして……魔術式として落とし込むのが大変なのですよね……」


 説明を見て、魔術式、つまり魔法陣として仕上げる必要があるのだが、とにかく集中して読まないと理解できないためリゼとしては苦労していた。

 それから紅茶を飲んだりしながら本とにらめっこすることにしたところ、リチャードはリゼがまだ作業に着手していない別の本を読んで魔術式として書き表す手伝いをしてくれるらしく、お願いすることにした。リゼはアイテムボックスより予備のカップを取り出すと紅茶を入れてリチャードに渡す。そして二人で静かに本を読んだ。


 いつの間にか午後になる。アイシャが部屋に入ってきてラウルの来訪を伝えてくるのであった。


「お嬢様、ラウル様がお越しです。こちらにお通ししても良いでしょうか?」

「お願い!」

「分かりました。ではお呼びしますね! そういえばリアはどうしたのですか?」

「今日も北方未開地よ。泥人形を率いてモンスターを減らしに行ってくれているのよね」


 アイシャは「では私もあとで行ってみます! 宜しいですか?」と確認してきたので「もちろんよ」と返答しておいた。


(アイシャ、毎日のようにモンスターと戦っているかも。私が練習を始めなければアイシャも始めなかったでしょうし、色々影響を及ぼしてしまっている気がする。本人が喜んでくれているみたいだから良かったけれど。モンスター討伐が日常というか日課になるってすごく恵まれた環境よね。私は今日はモンスター投影石のランダムモードで練習しましょう)


 リゼはアイシャの後ろ姿を見ながらふと彼女の生活の変化について考えるのだった。


「ラウルさんも良くいらっしゃいますね。良い人なので好ましく思っていますが、リゼのことを親友だと思っているのかもしれませんよ。僕も昔、親友であるマティアス……マティアス=ヴィル・シベリウスに会いに彼の屋敷に行ったことを思い出しましたよ」

「そうですね。ラウル様とジェレミーは一緒に剣術大会に出るという目標のために頑張った仲間であり、親友だと思います。ちなみにシベリウスさんという方はどのような方だったのですか?」

「良い関係ですね。基本的には良いやつでしたよ。理想を追い求めるところがあり、たまに意見の相違による喧嘩もしましたが、最後は握手して別れました」

「海に出られたということ、ですよね。この時代に子孫の方などがいらっしゃると良いですね……!」

 

 それからしばらく話をしていると、ラウルが部屋へとやってきた。案内してきたアイシャは追加の紅茶を取りに退室していくのだった。


「やぁ、リゼ、リチャード。読書か。良いね」


 リゼたちが挨拶をすると、ラウルも空いている席についた。早速、狩猟大会の説明をしてくれるつもりらしい。


「では、狩猟大会がもう明日に迫ったし色々とおさらいしておこうか」

「是非お願いします」

「まず、基本的なルールは知ってる?」


(確か、珍しい動物を倒すか、被ったら数……だったかな)


「えっと、対象の種類と数でしたか?」


 ルールを思い出しながら答えてみた。強い動物を倒せば点数が上がるはずだ。


「あってる。基本は大型の動物などを倒したら優勝に近づくよ。熊などを倒したとしたらほぼ優勝じゃないかな。こちらへの殺傷能力が非常に高いからね。他には確か、豹とかも良いかもしれない」

「熊ですか、近づくのはモンスターよりも危険な気がするので魔法で攻撃ですね」

「そうだね。熊の場合は二人でうまく倒すしかないと思う」

「分かりました。今回はエルと二人で出るので大物を狙えると思います。熊を見つけられれば優勝に近づく感じですよね」


 どのような動物を倒すべきなのかといったところは何も考えていなかったため、とても参考になるのだった。


「そうだね。熊や豹、大きめの猪とかね。逆にうさぎとかキツネだと優勝は難しいかな」

「頑張ります」


 リゼは優勝すれば景品も出るらしく、良いアイテムかもしれないのでやる気を出す。それに、優勝すればランドル伯爵家の名も上がるだろう。


「そこでだ、リゼはここ最近、剣を避ける練習を繰り返して来たよね」

「はい」

「それが活きてくるよ。我々の王国で学ぶ剣術の型はあくまでも人が使う剣と戦う時のために作られたもので、動物みたいにイレギュラーな動きをしてくる敵には型で受けたり、受け流すよりも、かわす方が、次の動作に移りやすいから効果が出てくるよ。そういう意味でいうと、ブルガテド帝国の剣術は様々な状況に対処できるから理にかなっているよね」


 ラウルの言う通りかもしれないなとリゼは感じる。最近は剣で受けるよりも、かわした方が相手との距離も保てる上に、体や腕の自由度合いが高いと理解してきていた。今日まで攻撃をいかに避けるかというテーマで練習をしてきて、対モンスター戦を通してそれなりに仕上がってきているので、狩猟大会で動物相手にも使ってみようと心に誓うのだった。


「あの、質問宜しいでしょうか?」

「いいよ」

「ジェレミーのソードフェイカーみたいに相手の攻撃を無効化して確実に攻撃を与えるスキルは動物相手にもきくのでしょうか?」

「良い質問だね。きくよ。ジェレミーに聞いた話だとあのスキルは対象を選ばないからね」

「ありがとうございます」


(ということは燕返しも攻撃の対象を選ぶわけではないから使えそう。要するに剣で攻撃されても槍で攻撃されても動物でもモンスターでもきくのね)


 ラウルはそれからしばらく歓談すると明日の狩猟大会における持ち場の確認などが必要らしく帰っていった。ラウルの父であるドレ公爵率いる第一騎士団が厳重な体制で警護をするらしい。リチャードは離宮の採掘作業を見てくるということで北方未開地へと転移していったので、また古代魔法の本を読んだり、アイシャと雑談したりして過ごすのだった。

 その日の夕食で伯爵たちが心配そうにしていた。


「明日の狩猟大会だが、安全なんだろうな……」

「そうね……危険はないの……?」

「お父様、お母様、大丈夫です。初級ダンジョンよりも危険はないかと思います。森にはモンスターは出ないそうですし、念のため、忘れ去られた上級ダンジョンがあったりしないか確認したところありませんでした。それにエルもいますので」

「もし危険があったら例の氷魔法で足止めして逃げるんだよ」

「はい。もしもそういう事態になったとしても……日々の練習のかいもあり、アイスレイの威力や追加効果は大幅に上昇していますので、逃げ切れると思います!」


 氷の加護で複数の敵にアイスレイを発動することが出来る上に、威力も増している。それにウィンドウェアーを発動すれば移動速度も上がる。さらにインフィニティシールドもあるのだ、逃げることくらいは出来そうだ。


「くれぐれも気をつけるのよ。私たちは会場の外に用意されている広間で待っていますからね」

「ありがとうございます。参加するからには優勝賞品をもらえるように頑張りますね」


 この日は早めに寝て次の日に備えることにする。

 いよいよ狩猟大会は明日だ。

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