136.気楽な模擬戦
傭兵団を横目に見ながら会場へと入ることにした。
武器を持っていないかどうかというチェックを行われたが、何も持ってきていないため、すんなりと入場が許可された。なお、貴族であるリゼたちには護衛騎士が一名つくことが許可されたため、フォンゼルも無事に入場できた。エリアスは騎士に外で待つようにと指示していた。
護衛の騎士は武器を持っていても良いらしい。直前にフォンゼルがステータスウィンドウを共有して受付の人と話していたので、もしかすると何かを話して許可させた可能性がある。
白いテントを越えて会場に入るとなかなかの人数が武器を見ていた。興味本位で入ってみた人々が多いのかなとリゼは感じるのだった。近くで絵を描いていた画家のような人から、老夫婦まで多種多様だ。
まず武器が展示されており、試してみたいものがあったら言えば試せるらしい。ガラスケースのようなものに武器が綺麗に並べられていた。
リゼはかなり気分が高まってしまいガラスケースの前で釘付けになった。
剣に槍、斧、弓と基本的なものが多いとはいえ、大鎌、メイス、棍棒、大剣、短剣、両剣、レイピア、ハルバート、鞭、鉤爪、モーニングスターなどがある。
しばらく食い入るようにリゼが武器を見つめているため、エリアスは邪魔をしないように近くで彼女が見ている武器を一緒に見ていた。
一通り見たところでリゼが口を開いた。
「なんだかすごいイベントです! 私、槍と斧を合体させたようなこのハルバートには以前から興味がありまして」
「これですか。とてもユニークな武器ですよね。僕はそっちの両剣に興味がありますね。持ち手の左右が剣になっているんですよ」
「両剣というのですね……! この武器は初めて見ました! せっかくなので試したいですよね。私は試しにハルバートにしてみようかと思います」
「では僕は両剣でいきますね!」
二人はだいぶ心躍らせながらイベントの関係者に試したい武器を伝えるのだった。すると、裏から持ってきてくれた。
手にとっても見ると感じるがやはり剣よりも重い。
エリアスも両剣を持って形状などを眺めていた。二人は練習として使って良いと説明された場所までやってきた。剣術大会のように白いラインが引いてあり模擬戦が可能なようだ。
まずは各自で試してみて、一戦だけ模擬戦をしてみようということになった。
リゼはまず突き攻撃を試してみた。片手では重すぎるため、両手で突いた。それから横に振ってみる。なかなかに重いため、体で制御できずに少しバランスを崩してしまった。
(なるほど、重いから振り回して避けられたら隙がうまれて回避行動に移るのが難しいかもしれない。突き攻撃を主体として近くに踏み込まれたら手元に少し引きながらスライドして攻撃を当てるというのが良いかも。それとリーチが長いのはかなりのアドバンテージね)
色々と考えながら、振ったり突いたりを繰り返してみた。そのぎこちなさに剣術を始めたときのことを思い出す。見様見真似で剣を振っていたあの頃だ。
ふとエルを見るとかなり扱いづらそうにしていた。だが、回転させて突くなどの動作を試しているようだが、様になっているなとリゼとしては感じるのだった。
周りを見るとランドル子爵家の騎士たちが町の人々に扮して練習をしつつ、周辺を警戒しているようで驚いてしまった。リゼたちが練習しているところの周囲はもはや騎士たちしかいない。
三十分ほど練習を行い魔法石をつけると早速試してみることにした。お試し武器のお試し模擬戦であるため、気分はかなり気楽なものだ。
「ではリゼ、試してみましょう!」
「そうですね。やりましょう!」
二人は向かい合った。エリアスが「開始!」と合図をし、模擬戦のスタートだ。二人とも慎重にじわじわと距離を詰める。相手の武器の動きを予測できないため、様子をうかがうといったところだ。リゼとしてはリーチが長い分、有利であると考えしばらく見合った後に瞬時に距離を詰めると突き攻撃を繰り出してみた。エリアスは剣を受け流しながら回転すると、反対側の剣で切り裂いてくる。
回転している分、速度が上がっているが、リゼはハルバートを手前に引き寄せてなんとか剣を受け止めた。受け止めた後に素早くバックステップで距離を取った。こういうところは剣術と同じで受け流すか距離を整えるかだ。
今度は横からスライドしてみる。しかし、エリアスは身軽に後方にジャンプすると攻撃をかわし、素早く間合いに入ると切り裂きに来た。リゼはこれを予測して軽めにスライドしていたため、間合いに詰めてきたエリアスに向けて強めに側面からハルバートを叩きつけにいく。エリアスはなんとか受け止めたが、ハルバートの予想外の威力に両剣は手から離れて地面に突き刺さった。
「負けです。わざと弱めにフェイントを掛けて、その後にぶつけてくる作戦でしたか。予測できませんでした……」
「さっきちょっと練習してみたのです。もっと使いこなせるように頑張ってみますが、今の私の身長では実戦で使うのは難しいかなと感じました。思い切り振ると体が言うことを利かず、振り抜いた後に隙が出来てしまいますし」
「僕もせっかくなので試してみます。片手剣では気づくことが出来ない何かが見えてくるかもしれませんしね!」
その後、他にも短剣やレイピアなどを試してみた。短剣は両手で一本ずつ持つと、なかなか素早く動けるし良いかとも思えたが、リーチが短いため、相手が槍のようにリーチが長い武器だと対処が大変であると感じるのだった。レイピアはいつもの剣と近しい動きになるが、攻撃力が足りないと実感した。
(やっぱり、私は双剣が良いかな。とはいえ、ハルバートなどは練習してみましょう!)
それから弓も試してみたが、なかなか的に当てるのは難しかった。エリアスも試していたが、リゼよりはうまかった。他にも鞭やモーニングスターなどを試してみたが、あまりにもうまくいかずにエリアスと笑い合ってしまった。
気づけば夕方になっており、会場から外に出ようとすると、責任者が出てきた。
「ランドル子爵様、それからゼフティア王国カルポリーニ子爵令息様、ハルバートと両剣ですが是非お土産にお持ち帰りください」
「え、良いのでしょうか……」
「もちろんでございます。わたくし、ルーク様を深く信仰しておりまして、まさかランドル子爵様のような方にお越しいただけるとは思ってもおらず、非常に感動いたしました。武器商人として聖遺物なども取り扱っておりますので、もしご興味があれば連絡をいただけますと幸いでございます」
リゼは驚いてしまうが、どうしてももらってほしいということらしく、受け取るのだった。エリアスも同様だ。武器商人から連絡先を書いた紙を受け取ったリゼはエリアスと顔を見合わせると屋敷に戻ることにした。
そしてエリアスはリゼを屋敷まで送り届けてくれると、夕食を食べてから宿泊先へと向かっていった。
リゼとしてはなかなか充実した日になった。ハルバートは部屋に飾ろうかとも考えたが、アイテムボックスへしまうことにした。いつでも練習出来るようにだ。
いよいよ明後日は狩猟大会である。
万全の体調で挑めるように、明日は日課は行うが古代魔法の本でも読んでゆっくりすることにしようと考えるのだった。
これまで北方未開地での出来事やダンジョン攻略、リチャード関連や神器など、色々と非日常的な出来事が多く起こってきた。そのおかげもあって人と共に戦う際の距離感であったり、意思疎通といったところはだいぶ板についてきたと思うリゼなのであった。




