127.建国記念パーティーへ
そして、ついに建国記念パーティーが近づいていた。二日後だ。
久々にジェレミーと顔を合わせることになりそうで、それも楽しみになってきていた。だが、アンドレいわく欠席したがっているとのことである。
「ご主人様、何かあったときのために、建国記念パーティーはついていっても良い?」
「そうね。透明になって、来ている人が何を話しているのか聞いてほしいかも。とくにケラヴノス帝国の人たちね」
「分かった。誰か分からないから念話で教えてほしい」
リゼも冷静に考えるとケラヴノス帝国の人を見分けられる自信がないため、ヘルマンに聞くしかないとふと思うのであった。
(誰が敵なのかとか分かれば良いのだけれど……!)
確実に味方といえるのは、ジェレミーおよびアンドレの王子二人、そして三大貴族であるラウルだ。そしてヘルマンも会場にいる。
それ以外の来賓は敵か味方か分からない人たちしかいない。なんとかリアに情報収集してもらったほうが良いだろうと考え、依頼しておいた。
そして朝食を済ませて、廊下を歩いていると建国記念パーティーの話になる。
「僕は基本的にリゼの横にいようと思っていますが、まず初めにゼフティアの王子と踊るのでしたか。それまではブットシュテット大公のところにいようかと思います」
「あ、そうですね。踊り終えて、アンドレが他の人たちとの挨拶に行かれたら合流しますね」
「何か話しかけられたら余計なことを言わないようにしないといけないですね。ということで話してはいけないことリストを作ったので見ていただけませんか?」
「分かりました。すぐに見ましょう」
それからリチャードが使っている部屋を訪れると机の上の紙にルーン文字で何かが書かれていた。確認することにする。
「えっと、言ってはいけないこと……魔法帝国の過去といま、硬貨、氷属性、雷属性、試練の神、ニーズヘッグ、神器。良いと思います。うーん、他には……あれ、案外ないかもしれません。これさえ気をつけておけば問題ないですね。あ、二枚目は……現在の文字で書かれてみたのですね。えっと……全部正しく書けています!」
この短期間でいま使われている文字をかなり覚えたことに驚くリゼだ。ルーン文字の方が難解であるが、単純に今の文字に変換できないような単語などもある。リチャードの頭の良さに感嘆した。
「安心しました。ちょっと自信がなかったので。文字を書くようなタイミングはないと思いますが、残された時間で出来る限り練習しておきますね」
「素晴らしいです!」
そしていつも通りの日常を過ごし、ついにパーティー当日になった。開始は夕方であるが、午前中にお城に来るようにとのことで、馬車で向かっていた。
「確か、入場の仕方の説明などがあるのでしたよね」
「そうみたい。あとは段取りとか」
「頑張ってくださいね。私は昼過ぎまでは使用人用の控室で待つことになるそうですので、応援していますね!」
「ありがとう、アイシャ」
程なくして王宮の少し手前まで来る。通行人より熱烈に歓迎を受けた。馬車のドアについているランドル伯爵家の紋章と窓から見える姿で神から名を授かったフォルティアであると判別したのだろう。何事かと思うが神官らしき人物が一人混ざっていたため、大地の神ルークを信仰する人々だと思い、心の中で溜息をつきつつも愛想笑いを浮かべながら馬車で通り過ぎた。
王宮内に入ると出迎えがあり、応接室へと案内された。しばらく待っているとエリアナも案内されてきたのでつい立ち上がってしまった。エリアナはルイの相手を務めるわけだが、まさかこんな場所で再会するとは思わなかったため驚きしかない。エリアナは取り巻きがおらず、いつもよりも弱々しく見えた。
一応、「エリアナ様、ごきげんよう」と話しかけてみたが無視された。リゼを無視して一番離れた席につくとそっぽを向いた。
(まあ、当然こうなってしまうかな。もう今となってはエリアナに命令をされたりしても自分でなんとかできる力を身に着けつつあると思う。怯える必要はない……!)
リゼは暇であるため、ポイントを稼ぐことにする。インフィニティシールドを無詠唱で展開して消してを繰り返すことにした。エリアナが醸し出す冷たい空気感の中、何度も魔法を詠唱してみたりして過ごすのだった。
すると、もう一人案内されてきた。部屋へと入ってきた少女はエリアナをチラ見しつつ、リゼのことを真っ直ぐに見つめてきた。
「バルニエ公爵令嬢、ごきげんよう。お久しぶりですわね」
「そうですわね。オフェリー嬢」
短い挨拶を済ませるとリゼのところへとまっすぐ歩いてきた。ちょうど結界を置いていたところに向けて歩いてきたため、ぶつからないように急いで消滅させると立ち上がって挨拶をすることにした。
「はじめまして、リゼ=プリムローズ・ランドルです。宜しくお願いします」
「あら、お噂はかねがね。オフェリー=ルセ・ミュレルですわ。お見知りおきを」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
リゼはジェレミーとリッジファンタジアで婚約していたオフェリーだと認識したが、とくに会話することもないため、どうしようかと考えてしまう。
「ところでブルガテド帝国ランドル子爵、あなた様のことはなんとお呼びすれば宜しいですの?」
「普通にリゼ嬢で大丈夫です……」
「そう、私のこともそのように呼んでいただいて構いませんわ」
「分かりました、オフェリー嬢」
呼び方も定まったところでオフェリーは席についた。一人で立っていても仕方がないため、リゼも座ることにする。リゼが着席するとまた話しかけてきた。
「リゼ嬢は剣術などを練習されているとお聞きしましたわ。実は私もそれなりに嗜んでおりまして、いままで同性の方には負けたことがありませんの。是非、リゼ嬢とも戦ってみたいですわね。そうですわ、狩猟大会の当日に、大会が始まる前に一戦いかが?」
唐突に模擬戦の申込みをされてしまったが、そういうことなら受けるしかない。戦ったことがない人物との戦闘は実力を試すのに申し分ない。
「分かりました。是非、お願いします」
「私と戦えるとはリゼ嬢も運が良いですわね。胸を借りるつもりで準備されると宜しいかと思いますわ」
「そうですね。楽しみです」
オフェリーは相当な自信があるのか、得意げな表情だ。
その直後、王妃付きの侍女がやってきて、当日の段取りの説明が行われた。昼食後に控室へと向かい、夕方前辺りにドレスに着替えて、そのまま待機するらしい。王子が迎えに来て会場入り口へ向かい、その後に国王などと入場するといった流れのようだ。
そして実際に会場の入口へと向かい、入場後のダンスの立ち位置などについての説明が行われた。
説明が完了したところで先程の応接室へと戻ると、昼食などが用意されていた。
侍女もいなくなってしまい気まずい雰囲気が再び訪れる。
静かに用意された前食を食べ、メインディッシュの肉を切り、口に運んだところでオフェリーが話しかけてきた。
「ところでリゼ嬢、あなたはアンドレ王子と結婚されたら、最低限帝国の大公の伴侶という地位を得られるのですわよね。すごいですわ。是非、アンドレ王子と仲良くされてくださいな」
唐突に話しかけられたので意味を考える。料理が口に入っているため、オフェリーに目を向けつつ、手で口を抑えて食べているアピールをした。飲み込むまでの時間が勝負だ。
(何かな? アンドレと結婚しなさいね、ということ? あ! 自分はジェレミーと結婚するから邪魔をするなという意味があるのかも。これはあれね、私の家にジェレミーが頻繁に訪れていたということを知っているのね。ここは問題にならないように無難な対応が必要)
料理を飲み込むと、水を一口いただいて返答する。




