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126.家族との模擬戦

 リゼは泥人形にインク入れを持ってもらい、リチャードの話を本にメモする。どうやら金の取り出しには鉛が必要らしいが、方鉛鉱は大量に城に備蓄されているらしいため、問題ない。仮になくなったとしても他の鉱山で取れるとのことだ。

 そして泥人形はリチャードに言われたとおりに作業を開始した。


 いつの間にか夕方になっていたため、全員が合流したのち、屋敷へと転移した。

 ほどなくして夕食となった。昨日と同じように兄のせいで騒がしくなったが、なんだかんだ楽しんだ面々だ。

 談話室でゆっくりと紅茶をいただく。伯爵たちはお酒を追加して飲んでいる。


「またリゼと会えなくなると思うとさみしさしかないな……一緒に来るか、妹よ」

「あー、それは……やめておきますね!」

「そうか……まだ学園入学まで三年もあるのだぞ」


 どうやら兄は明日には領地へと戻るらしく、意気消沈モードであった。

 一緒に行ってあげたいような気もするが、三年間は今後に備えた準備などを頑張る必要があるため、紅茶に目を落とした。

 

「そうだ、リゼ。試しに一戦、明日の朝にどうかな? 中級ダンジョンをクリアしたのであれば、それなりに戦えるはずだろう?」

「お兄様と模擬戦ですか……やってみたい気もします」

「そうか! ではやろう。魔法石をつけてやれば怪我もしないしな」

「是非お願いします!」


 ルールは武器の種類は自由、武器の数も自由、魔法なし、スキルなし、先に一撃を与えたほうが勝ちという決闘ルールが採用された。制限時間は五分だ。リゼはこのルールで戦ったことはないが、要するに剣術だけで勝負ということだ。

 眠りはじめた兄を横目にリチャードと話をする。


「リゼ的に勝算はどれくらいありますか?」 

「そうですね……自信ありです! フォンゼルさんにも色々と教えてもらいましたし」

「頼もしいですね。応援しています」


 その後、他愛無い雑談を楽しみ、部屋の前でリチャードと別れると机の前に座った。


(さて、お兄様はきっとゼフティアの学園で教わる基本的なパターンの盾と剣を使ってくるはず。私は……)


 久々に戦ったことがない相手との模擬戦だ。楽しみで仕方がない。リゼは作戦を立てるとお風呂を楽しみ、眠りにつくことにした。


 翌朝、朝早く起きると少し素振りを行った。


「お兄様は武器はどうするのかな。聖遺物を使うかも? 私はレーシアとブリュンヒルデでいってよい? きっと我が家に伝わる聖遺物で来るはずよね。多分加護つきの。それならブリュンヒルデと神器でいこうかな」


 剣を振りながら独り言を呟いてしまった。それから朝食を食べると、練習場へと向かう。

 兄は普通に模擬戦用の剣や体全体を包み込むくらいの大きさの盾を持ってきていたため、リゼも同じように模擬戦用の剣を使うことにした。盾が想像していたよりも格段に大きいのは予想外であった。そしてギャラリーはというと、伯爵たちはもちろんのこと、騎士の一部まで噂を聞きつけて観戦に来ている有様だ。


(ギャラリーがすごいことになってしまった……)


 若干の緊張感をいだきつつも剣を構える。


「ほう……これまた独特なスタイルだね。双剣か」

「はい。片手剣だけですと隙が出来すぎてしまうので」

「そうか。剣術を極めたり、ダンジョン攻略をしているだけのことはある」


 兄は盾を構え、剣先をリゼに向けて少し腰を低く体勢を取った。あまり見たことがないフォームであるが、左手の剣を横に構え、右手の剣はおろして合図を待つ。

 審判をつとめるアイシャが「開始!」と合図をした。すると、兄がすぐさま前進してきた。

 そして、剣で突いてくる。リゼは左側へと身を翻して剣を避けると、右手に持つ剣で相手の剣を打ち上げて、左手の剣を用いて側面を切りつけようとする。兄は盾で攻撃を防ぐと、上方から剣を振り下ろしてきた。

 素早くバックステップでかわすと、また剣を構え直した。

 兄はさらに盾で前面をガードしつつ前進してくる。盾を体にぶつけてバランスを崩させようという魂胆があると察したリゼは右方向へジャンプでかわすと左手に持つ剣をスライドさせて切りつけた。しかし、兄もまた体の向きを瞬時に整え、盾で防いできた。


(この盾、だいぶ厄介ね……魔法が使えたら簡単なのだけれど、剣術だけでこの大きな盾を抜いて攻撃をあてるのは大変かも)


 そして攻防が続く中、じりじりとフィールドの端へと誘導されかけていることに気づいたリゼは剣で数回切りつけて盾で防がせる。その瞬間を狙ってサイドステップを駆使し、地の利を得た。


「すごいな、リゼ。いつの間にか本気で戦ってしまっていたよ」

「お兄様! 最初から本気で来てください!」

「ごめんごめん、小手調べではなくもう本気さ」


 彼は相変わらず盾で前面を完全にガードしながら前進してくる。


(避けてばっかりではこのタイプとは埒が明かない。攻めに出ないと!)


 突き攻撃を繰り出してきたので今回は避けずに剣術の型で受けると、少し受け流しつつ、右手に持つ剣でリゼも突き攻撃を仕掛けた。盾でガードされるが、これは予想通りだ。突き攻撃は軽めのモーションにしておいて、そのまま剣を斜めにスライドして兄の剣を持つ右手を狙う。受け流されていて隙がある。一発でも当たれば勝ちだ。しかし、兄は冷静に右手を引きつつ、バックステップで状況を整えた。


「そこまで!」


 これからというところでアイシャが制限時間の宣告を行った。いつの間にか五分も経っていたのかとリゼは驚いてしまうが兄の方を向いて「お兄様、ありがとうございました」と伝えたところ笑顔で頷いてきた。


「このスタイルは剣にめっぽう強い。盾がなければ負けていたよ」

「攻撃が通る気がしませんでした」

「まだ背の違いもあるし、リゼがもう少し大きくなったらきっとヒットさせられるはずだよ」


 こうして兄との模擬戦は終わりを告げ、彼は領地へと戻っていった。伯爵より、兄は領地のならず者を相手に戦うことが多いため、実戦を通して随分と成長したと教えてくれた。


 庭園のベンチで溜息をつく。リゼは前に立っているアイシャに向けて呟いた。


「勝つつもりで頑張ったのだけれど、全然だめだった。でも勉強になったと思う。現状、大きい盾で防がれるとどうしようもないかな……スキルや魔法が使えないと……なす術無しね」

「リゼ、思うにレベルが上って相手の剣を強く打ち返せるようになったら状況が変わってくると思いますよ。今日の試合は惜しかったです」


 アイシャが口を開く前にリチャードが励ましてくれた。リチャードに同意なのか、アイシャはリゼに頷いてくるのみであった。


「日々、勉強ですね。予想外のパターンでしたので対応策がないか振り返ってみます!」

「あのように大きな盾を持つ場合、盾の影から攻撃する関係で手の可動域などが制限されて、単調な攻撃になりやすい反面、防御力は桁違いです。なので、わざと隙を作って相手から少し大胆な攻撃をさせるのが良いかと。その隙を狙って攻撃を一気に繰り出すのが良いですね」

 

 具体的なアドバイスを得て、確かにとリゼは内心で思うのであった。もう少し視野や判断能力を向上させていこうと自身を奮い立たせた。それからアドバイスのお礼を伝え、日課を行うのだった。

 リアにはフォンゼルが剣術を教えており、まだまだ動きに甘さがあるものの、それなりに成長を見せていた。アイシャも同様にゼフティアの剣術を基本として、グレンコ帝国の戦い方などを自己流で学んでおり、フォンゼルからアドバイスをもらったりしている。ブルガテド帝国とグレンコ帝国は仲が良いため、フォンゼルはあちらの剣術をある程度は理解しているようで、アイシャにとっても良い剣術の教師となっていた。


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