124.授業とモンスター狩り
そして部屋の前でリチャードと別れることにする。
「それではおやすみなさい。今日はなんだか兄が騒がしくて申し訳ありませんでした」
「とても楽しかったです。ではおやすみなさい」
部屋に入るとリアがソファの上で寝ていた。猫の状態でかぶることがある帽子を顔の上に乗せている。
「お嬢様、なんだかすごい寝相ですね……リア……」
「そうね……片足が落ちてしまっているし……」
リアの足をソファに乗せたリゼはお風呂に入ることにした。湯船に浸かりながら交換画面を見ている。属性が追加されないかなと毎日見ているがなかなか変化はなかった。
「そういえばアイシャ、もし土属性魔法以外で属性を覚えられるとしたら何を使えるようになりたい? 氷属性などもありとしたら」
「ふむふむ。私は火属性でしょうか。母親が火属性でグレンコ帝国からゼフティアに来るまでの旅の途中で火を起こしたりして便利だったと話していたんですよ。そのイメージもあり、何となく好きなんです」
「火属性ね。フォンゼルさんにも教えてもらえるし、アイシャなら使えこなせそうよね」
火属性がラインナップに追加されたら付与してあげようと考えるのだった。
(そういえば、眠らされるとまずいかなと考えていたけれど、睡眠耐性スキルをリチャードからコピーさせてもらえば解決なのでは……! 確かリッジファンタジアではレアスキルだったはず。上級ダンジョンには眠らせてくるボスモンスターがいて、なぜかそのモンスターが睡眠耐性を持っていたのよね。きっと、リチャードが倒したのはそのモンスターであるはず)
交換画面を閉じながらそんなことを思うのであった。それからお風呂から上がると窓辺で涼んで日記をつけてベッドに入る。
「今日はお兄様がリチャードに絡んで迷惑をかけてしまった……でもあんまり気にしないでくれていて良かったかな。明日は大丈夫だと良いのだけれど……。とにかくもう遅いし、寝ましょう!」
いつの間にか深い眠りに落ちていた。
次の日はキュリー夫人がやってくることになっており、その話をするとリチャードが是非会いたいということで、共に教室で待っているとキュリー夫人が入室してきた。
キュリー夫人はリチャードのことを見て一瞬目を丸くしたが、すぐに落ち着いて挨拶をしてくる。
「セーデルリンド公爵様、伯爵夫人から話は伺っております。グラース=ローレ・キュリーと申します。夫はゼフティアの伯爵家です。リゼさんもおはようございます」
「はじめまして、僕のことはリチャードで大丈夫です。リゼから魔法にお詳しい方と聞いておりますので、お話することを楽しみにしていました」
「キュリー先生、おはようございます。本日も宜しくお願いします」
キュリー夫人はリチャードの要望を受け入れたがリチャード殿下と呼ぶことにしたようでそのように返事をしていた。今日の授業はゼフティアの歴史であり、黒板の内容を読めないリチャードは必死に書き写しつつ、キュリー夫人が話している内容についても必死にルーン文字でメモを取っていた。ゼフティアの歴史といってもまだ独立する前の帝国時代の歴史であり、元々は東方面からの侵略に備えて小国国家が強力しあっていく中で一つの帝国になったというような話であった。それなりに本を読むリゼであるが、歴史関連はあまり読んでおらず、知らない話であったので勉強になった。
そして恒例の質問タイムになる。
「それでは僕から先生に質問させていただいても良いでしょうか?」
「もちろんです、リチャード殿下」
「疑似無詠唱というものをよく発見されましたね。どういう経緯で発見したのか教えていただきたいです」
キュリー夫人は疑似無詠唱を新発見だと考えているようで、少し得意げに語りだした。
「きっとリゼさんから聞いた話ですね。実は魔法ではなくスキルの研究をしていた時期もあったのですが、その際にマナに干渉するスキルがあったのです。それにアクセス・マナという文字列が入っていました。そして、古い闇属性魔法に物質の状態に影響を与える魔法がありまして、それがコンバートという文字列があったのです。その流れで、試しに脳内で単語を繋げていったところ、うまくいってしまったという経緯がありました。部屋の中で中級の水属性魔法を詠唱したため、部屋がめちゃくちゃになってしまったという逸話もあります」
「それは大変でしたね……それにしてもかなり理論に基づいていらっしゃるというか、似たようなところから言葉の意味を推察して発見されたとは。その熱意、尊敬します。魔法の開発などはされていますか?」
「魔法は未だに一つも作れずです。ルーン文字を読めないのが痛いですね。勉強してみたのですが、なかなか難しく。リゼさんは古代の魔法書の解読に成功して古代魔法を一つ明らかにしてくれたので画期的だと考えています」
そういえばなぜリゼはルーン文字を読めるのだろうかという目線をリチャードが向けてきたので、意味ありげに見返しておいた。リゼも質問してみることにする。
「キュリー先生はダンジョン攻略はどれくらいされたのですか?」
「そうですね。それなりには攻略しているかと。昔、ブルガテドに研究で訪れていたときには、交流のある貴族に協力したり、冒険者と共に挑んだり、時にはソロで挑んだりと良い日々でした。ゼフティアではたまたま見つけたダンジョンを申請後に許可されていくつか。上級ダンジョンも数回はありますね。暗視スキルを中級ダンジョンの宝箱より手に入れることが出来ていたので挑戦できました。質問してきたということはダンジョン攻略に興味があるのですね? 準備を万端にしていくのが大事です。もし、上級ダンジョンに挑みたいということでしたら、また詳細をその時が来たらお伝えしましょう」
「ありがとうございます!! キュリー先生は戦闘もお詳しそうだと思っていましたので、納得しました」
以前、剣術大会のときにアドバイスしてくれたため、もしかしたらと思っていたがやはり戦闘経験が豊富だったらしい。ソロでダンジョンへ挑むなど正気の沙汰でないが、熟練者であることを証明している。キュリー夫人から何か戦闘技術を学べれば良いなとリゼは思うのであった。
その後、少しお茶をしてキュリー夫人は帰っていった。
リゼたちは北方未開地へ転移し、モンスター討伐を行うことにする。
先に転移していたリアが合流し、状況を説明してくれた。
「一応、ある程度の数を誘導してきている。私を見失って土の壁の付近でウロウロしている」
「そう。ありがとう。ではやりましょうか」
「はい! お嬢様!」
リチャードは壁の上から魔法で攻撃してくれるようであるが、リアのレベル上げやアイシャ、リゼの戦闘経験値をあげるということを考慮してわざと弱い魔法で攻撃してトドメをさせるようにしてくれるらしい。そのリチャードの提案を聞いてフォンゼルは頷いていた。彼もそのつもりで動いてくれるのだろう。
離宮の窓を覆っていた鉄板を土の壁にはめ込んで扉の代わりにしているため、少し開いて隙間から外を眺めてみる。
(なるほど……スケルトンナイトが沢山いる感じね。もう何度か戦っているけれど、ノーマルスケルトンと比べると上半身に鎧をつけていて剣を持っているだけ。さて、いきますか)
リゼは後ろで控える面々に頷くと鉄板を開けて外に出た。そしてすぐにアイスレイを発動し、大きめの結界を展開して十体程度を隔離した。
「ウィンドウェアー!」
素早さを上げると足を切り裂いていく。そしてアイシャやリアが何度か攻撃してとどめを刺すという戦法だ。リチャードは結界外にいるスケルトンナイトに魔法で攻撃しており、倒さない程度の攻撃にしてくれている。フォンゼルは土の壁から外に飛び降り、同じように結界外のスケルトンナイトにダメージを与えていく。
リゼは自分のレベル上げもあるため二体だけ倒しておいた。戦闘ウィンドウで念のためスケルトンナイトの情報を確認したがスキルなどもなく、アイシャやリアが倒していくのを見守るのだった。




