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123.家族のお祝い

 そして日課をこなしているとあっという間に夕食の時間になる。


「さて、それではリゼの躍進を祝って。僭越(せんえつ)ながら兄である僕がスピーチをしよう。あれはそう、僕が7歳の頃だった。程よく暑くなってきた頃合いだったかな。リゼが誕生したんだよね。見た瞬間に可愛すぎて眩暈(めまい)がしてきたのを鮮明に覚えている。そしてだ。その後、二年後の話だ。庭園での出来事なんだが」


 それから兄は数分ほど語り尽くし、「乾杯!!」と声をあげた。グラスを持ち上げて乾杯したリゼはリチャードと目があってしまったので苦笑いした。この兄、いまだに婚約していないのだが、リゼの肖像画を婚約候補に見せて満足する反応を得られたら婚約を進めるということにしているらしい。リゼからすると正気の沙汰ではない。


「リゼ、本当にすごいことになってきたな。いつも驚いてしまうよ」

「お父様……いつも申し訳ないです……」

「気にしなくて良い。自分でも驚いてしまうのだが、それでも最近は少し慣れてきているんだ」

「そうよね……あなた。私も最近この子が剣を振り回していても日常と感じてしまっていて自分でも驚くばかりよ」


 伯爵や伯爵夫人はしんみりと自分たちも変わってきていると感じているのだった。


「お母様、ちなみに剣術は身を守るためにも使えますし、学んでおいて損はないのでこれからも頑張ろうかと……!」

「えぇ、そうすると良いと思います。魔法を発動して裏の広場に氷の剣のようなものを沢山突き刺したり、透明の壁? のようなものを出して喜んだり、会話の内容が剣の話ばかりだったとしても慣れましたし、それにだんだん話がわかってきてしまいました」

「あー、良かったです……! でもたまには観劇などもしてみますね!」


 観劇と聞いて母である伯爵夫人は嬉しいのか笑顔で頷いていた。

 そして兄はと言うとリゼの相手に対して望んでいることがあるそうで酔っ払いながらリチャードに絡んでいた。


「公爵は結婚相手とどのような関係性を築きたいのですか??」

「結婚相手ですか。お互いを尊重しあっていければ良いなと考えておりますね」

「違う!!! 従うのです!!!」

「えっ……?」


 いきなり意味のわからないことを言われて困惑するリチャードだ。リゼは好物のサーモンのパイ包み焼きが久々であるため自分の世界に入っており聞いていなかった。リチャードが助けてくれと目配せしてきていたのだが料理を堪能していた。

 見かねた伯爵が口を開きかけたが、リチャードは少し続きが気になるのか頷いて大丈夫だと合図をした。

 

「例えばこのリゼが公爵と結婚したとしましょう! どう思いますか?!」

「仮の話ですよね? それはとても光栄かと思います」

「で、何かしらのお願いをされたらどうしますか??」

「それは……話の内容にもよりますが大抵のことは叶えてあげるかと思います」


 兄は「そういうことです!」と言い放つとリチャードに握手を求めた。リチャードは訳のわからないまま握手に応じる他ない。


「お願いは出来る限り聞く! 自分のこだわりは捨てる! こうるさいことを要望しない! これにつきますよ、リゼの相手は。とにかく少しでも嫌な思いをして欲しくないというのが個人的な要望なので覚えておいてくださいね。ちなみに僕は結婚相手に従います」

「とてもリゼのことを大切にされているのだなということが分かりましたよ。従うといいますか、尊重しあえばおそらくは良い関係が築けるのではないかとも思っています」


 そして兄は今度はリゼに向き直ってきた。


「それでリゼよ。(ちまた)の噂ではアンドレ王子の相手として見られているようだがそれで良いのか? 気になる人はいないのか?」


 唐突に話しかけられたリゼは「?」という気持ちで兄を見た。


「そうか。リゼがその気ならまあ……構わんが、王子には一度会ってみたくはあるな! 先程のポイントを確認しなければならないからな」


 一人で盛り上がる兄を横目にリチャードにこっそりと話しかける。


「何の話ですか?」

「だいぶ大事にされていますね、リゼは。そういった気持ちの部分を表明されていましたよ」

「そうですか……ご迷惑をおかけしてしまいましたよね。申し訳ないです。兄のことは気にしないでくださいね、いつもよく分からないことを口にしているので……」


 いつものことかとリゼは気にしないことにした。そしてリチャードにもその旨を伝えておいた。


「あなたは合格です! 公爵!」


 今度は何かと思い呆れて顔を向けると酔っ払って眠りについており、寝言のようだ。


「リゼが絡まない事柄であれば頼りになるやつなのですが、申し訳ありません。公爵……」

「私からも息子がとんだ失礼を。お詫びいたします」

「何も気にしていませんし、楽しかったので大丈夫です」


 伯爵たちが公爵に謝罪をし、リチャードは何も気にしていないという形でおさまった。

 それから部屋へと運ばれていった兄をのぞいたメンバーは談話室に移動した。リチャードが当時の帝国について話をしてくれて皆で聞き入るのだった。


「なぜ比較的強力な氷属性魔法を帝国民のほとんどが使えたかというと、諸説ありますが神による祝福だと言われています。元々は氷属性など存在しなかったのですが、あるタイミングから帝国内で広がったのだそうです。そのタイミングとは、ある神託を受けた帝国民が大地の神ルーク様の教会を作ったのです。おそらくこの世界においては初めてだったのではないかと。よって、リゼももしかしたら何かの行いによって神の祝福を得られたのかもしれませんね」

「あはは……そうかもしれませんね……」


 あながち間違いではないわけだが、笑って誤魔化した。といっても何か行動したわけではなく一方的に色々と授けてもらってしまったわけで少し異なるパターンかとも考える。

 なお、リゼとしてはリチャードの話を興味深いと感じていた。本などでも知ることが出来ない話であるし、他にも話を色々と聞きたいと感じるのであった。


「実はこの子なのですが、ルーク様から名前をいただきまして。神の祝福についてですが、あり得る話かもしれません」


 リゼがまだ話していなかったことを伯爵がリチャードに教えた。自分から話すのもどうかなと考えていたため、ちょうど良かった。


「なんと……そのようなことが。神から名を授かるなど聞いたことがありません。驚いてしまいました」

「フォルティアという名前を授かったのです。親としては嬉しいことですが、危険な人物に狙われないか心配です」


 伯爵は心底心配そうに呟いた。

 危険な人物の件はいつも気をつけているが、襲われたパターンを想像してしまうリゼだ。


(もし危険な人物に狙われたらインフィニティシールドの結界に閉じ込めてそのまま逃げましょう。アイスレイで足止めするのもありかも。それか銀糸もありよね。いまの私はダンジョン転移事件の時よりも強くなっているから色々対処可能ね。数人なら相手にできるはず!)


 リゼは対応方法を脳内で妄想していたのだが、リチャードが口を開いた。


「そこは友人として排除しますよ。そんなときくらいしかスキルを使うタイミングもありませんが、お任せください」

「おお! 頼もしいです。是非お願いします!」


 伯爵たちは盛り上がりを見せているが、リゼは継続して考え事をしていた。


(危険というとリッジファンダジアでは何が起きたっけ。えっと、まず毒殺は毒耐性スキルで回避できる。階段からの突き落としも……衝撃耐性があるから大丈夫。いきなり剣で攻撃された場合は前や側面からなら回避か結界展開、後ろからの攻撃は加護で防げて……。弓矢で上から狙い撃ちされたらきついかも。見晴らしが良くない場所では攻撃されることを考慮して上に結界を張っておくとか……かな。首締めは結界展開で強制的に対処可能。気絶させられたり、眠らされて誘拐などは……まずいかな……どうしよう。仮に誘拐されても手錠やら鎖などは結界で破壊できるしどうにかなるけれど、眠らされて殺されたらおしまいね。対策が必要。転移系はマジックキャンセルで消せるから問題なし。オオカミなどの猛獣をけしかけられても対処可能ね。よし、眠らされてしまったらどうするかは対策が必要だけれど、常に結界を張れるように意識していれば、寝る前に結界を展開できるはず!)


 脳内シミュレーションを終える。大体の状況には対処できそうであるため、安堵した。

 伯爵たちの話もちょうど良いタイミングで終わったのかお開きということになり、途中までリチャードと廊下を歩く。


「随分と盛り上がっていらっしゃいましたね?」

「リゼのご家族は温かいですね。最後に家族だと思って接していただければという話になりました。身寄りがない身ですし、とても嬉しかったです」

「ふふ、私のことも家族だと思って接していただければと思います。それに一緒に住んでいますし、完全にもう家族です! 恐らく……これからきっと何か起きると思いますけれど、前向きに楽しくいきましょう!」

「嬉しいです。是非。何か……というのは神託などがあったのでしょうか?」

 

 歩きながら話すような内容でもないので、また落ち着いて話そうと思ったリゼは「おそらく……また話しましょう!」と伝えるのだった。


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