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117.城の内部へ

 机の上においた手紙に描かれている絵を見たアイシャが同情してくれた。


「お嬢様も大変ですね……」

「困る……でももう教会のことはあまり気にしないようにしましょう……」


 とはいえ一応、「止めてほしいです」と返事を書いておくことにはした。送っても聞いてくれなさそうではあるが。

 そしてリゼは少しずつ描いていた一つの絵を仕上げた。北方未開地を描いた絵だ。一面雪の中に建つ離宮を描いてみたのだ。遠くの方に氷の壁も忠実に再現しておいた。なかなかの力作である。これは部屋に飾ることにした。

 その後、ベッドに寝転んで交換画面を見ているとリアが話しかけてくる。


「今日は離宮の地下から城を目指してみた。城まで辿り着けずに途中で崩落していた。あと城の中に侵入してほとんどの土を除去した」

「ありがとう。たぶん大賢者が地上に出るために破壊したから崩落していまは土で詰まっていたのだと思う。それなら城に入りましょうか。あと、大賢者エーベルハルド・ヴォーリーンのお墓を作りましょう。禁書庫に居た方ね。オーダーしていた棺が届いたから。明日、私も北方未開地に行って穴を掘るね。確か皇帝のお墓もあったのよね? その近くにお墓を作りましょう」

「少し離れたところにあった。分かった。私も手伝う」


 ラウルにメッセージを送ると是非行きたいとのことで、朝に集合することにした。

 この日はスコップなどを用意してアイテムボックスに入れ、お風呂に入り眠りにつくことにした。


 翌日、北方未開地へと向かう。

 離宮の大広間へと転移した。窓の外についていた鉄板のようなものを外したため、陽も入りだいぶ明るい印象になった感じだ。


「私、リアと一緒に土を掘ってきますね。ラウル様とフォンゼルさんで大賢者をお連れしてきていただきたいです!」

「任せて。丁重にお連れするよ」


 ラウルとフォンゼルは顔を見合わせて地下へと向かっていった。その後ろ姿を見守りつつ、リゼたちは外に出た。そして皇帝の墓地があるところまでリアに案内してもらった。墓地は離宮の裏手にあった。アイテムボックスより大きめのスコップを取り出すとひたすら掘っていく。アイシャやリアにも手伝ってもらう。


「お嬢様、穴を掘るのってこんなに大変なことだったんですね」

「そうね。土が硬くて大変。腕と腰にくるかも。ソードゲネシス!」


 スキルを発動すると、リゼの左右に紫色の剣が出現し、地面に突き刺さった。そして剣は消える。何度か繰り返すと土がだいぶ柔らかくなり、掘り起こせるようになったのでなんとかスキルの発動を繰り返しながら掘り進めてみた。ある程度掘ったところで、そういえばこの場所をラウルたちが分かるわけがないということをふと思い、リアにはラウルたちの迎えに行ってもらった。

 その後、しばらくしてラウルたちが合流した。

 そして棺をアイテムボックスより取り出すと、骸骨になった大賢者エーベルハルド・ヴォーリーンを棺に寝かせた。

 そしてフォンゼルやラウルと共に穴に降りて地道に土を袋に詰めてアイシャに渡してという重労働を繰り返すとなんとか棺を入れられるだけの穴が出来上がったのであった。

 穴から出ると棺にロープをつけて、下ろしていく。


(あなたと皇子の力によってニーズヘッグを抑えられたのだと思います。安らかにお眠りください)


 それぞれが無言で目を瞑っていたが、顔を見合わせると土をかけていく。そして、オーダーしていた墓石を置いて完了だ。

 少しばかりしんみりしてしまったが、気を取り直して離宮へと戻ることにした。


「ご主人様、せっかくだからいまから城に行ってみるのはどう?」

「そうね。行ってみましょうか。中に入ってみましょうという話をしていたものね」


 転移石で移動すると採掘作業が急ピッチで行われたのか、城がそれなりに露出してきており、ニーズヘッグについても姿を表していた。念のため戦闘ウィンドウで確認してみたが、反応はなかった。


「ニーズヘッグは完全に倒れているみたいね」

「こんなのが生きていたらひとたまりもないですよ、お嬢様」


 アイシャは固唾を飲んで緊張していた。


「これは……」


 そしてフォンゼルが驚いたように声を漏らした。ラウルも呆然と眺めている。巨大な黒い禍々しい竜だ。尻尾は蛇になっている。

 倒しておいてくれてよかったと思わざるを得ない。きっとこの北方未開地で倒しきれなかったら南下してゼフティアなどがある大陸を蹂躙していたことだろう。

 城に目を向けると離宮と異なりとにかく損傷が激しいことがわかる。ニーズヘッグが暴れたこと、皇子が城の内部で魔法を発動させたことなどが影響していそうだ。

 城の内部から直線上に氷がニーズヘッグに伸びている。


「お嬢様、見てください。ここから中に入れそうですよ」

「あー、そうね! では入りましょうか」


 アイシャが手招きしてきたので少し坂になった地面を登って近づいてみると二階の窓から中に入れそうだ。せっかくなので入ってみることにした。

 

「確か宝物庫があったはずですね。そこも見てみたいのですが、まずはあの魔法を発動した皇子を確認します。お墓を作りましょう。そのために棺なども用意しておいたのです」


 特に異論がある者はいないため、城に入ると城の図面を参考にしつつ地下を目指す。しばらく歩いているとニーズヘッグへと伸びる氷を見つけた。これを辿っていけば皇子の元へとたどり着けるだろう。そして地下へとやってきたリゼたちは廊下を進む。廊下全体が凍っているわけではなく、廊下の真ん中を氷がニーズヘッグに向かって進んでおり、廊下の左右を使い目的地を目指す。そして遂に魔法が発動されたらしき部屋へとやってきた。扉は吹き飛ばされており、中へ入ると部屋の奥で皇子が凍結されていた。


(本には葬って欲しいと書いてあった。もう一度、読んでみましょうか。えっと、『僕のマナが枯渇されない限りは凍結され続けると思う。きっとニーズヘッグもひとたまりがないはずだ。これも恥ずかしながら聖遺物の力を借りようと思う。いずれマナが枯渇して解けるだろうからそうしたら埋葬してくれるとありがたい』ね……)


 皇子の胸には赤い宝石がついたペンダントらしきものが二つぶら下がっている。リゼはペンダントが聖遺物だろうと判断した。

 目を瞑り凍結された皇子を前に誰も言葉を発するものはいなかった。


(それにしてもマナが枯渇したら氷が溶けると書いてあるけれど、まだ溶けてないのよね。マナが枯渇していないということ?)


 リゼは皇子の前まで近寄るが、どのように皇子を中から出せば良いのか分からないため、悩む。


(どうしましょう。剣で叩いてもたぶん壊れない気がする。きっとニーズヘッグも凍結されながら暴れようとしたのでしょうし、そんな力を押さえつけて凍結させてしまう氷だものね……きっとすごく強力な魔法なのだと思う。でも念のため)


 ブリュンヒルデを取り出すと、氷の端に切りつけてみた。


「ダメですね……」

「確かに……」


 ラウルも突いてみたが傷さえもつかなかった。

 そういえばと禁書庫での本棚が触れたら消えたことを思い出し、氷に触れてみた。すると、ピシピシと音がして氷が崩れ始める。


「えっ、あれ!? 成功!?」


 氷が割れると皇子が放り出される形となったのでリゼはなんとか受け止めた。


「あー、まさかこんなに簡単に溶けるとは思っていなかったので驚きです」

「お嬢様が氷属性だからかもしれませんね!」

「そうね……! ちょっと驚いてしまって腰が抜けてしまったかも……」


 皇子を受け止めたことでリゼは座り込んでしまった。皇子はリゼに力なく寄りかかっている。なんとか立ち上がって離宮に戻りお墓を作らなければと考えていたリゼは(ん?)と思うところがある。そしてアイシャのことを振り返り話しかけようとしたところで皇子が首から下げているペンダント型の聖遺物がちょうど粉々に砕け散った。


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― 新着の感想 ―
[一言] マナが枯渇していないと言うことは、皇子も生きている可能性があるのだろうか、コールドスリープ的な感じで。 今後読んでいけば分かるでしょうし、楽しみに読ませていただきます。
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