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115.王宮で待つ者

 アンドレの相手として出席するようにとのことで、もちろんそのつもりであったが、念のため伯爵に伝えておくことにした。


『お父様、王宮より招待状が届きました。私にはアンドレ王子の相手をするようにとのことです。お受けするつもりです。建国記念パーティーは二つの会場で行われるようでして、国内貴族向けの会場と来賓もいらっしゃる会場ですね。私だけ後者の会場みたいです……』


 すぐに返事が来た。


『大変だが、頑張るしかないようだね。こちらは難民の対応がある程度済んだから近いうちに戻ることにするよ。難民の方々は王都へと連れていって、王族もしくは上級貴族で面倒を見ることになるかな。働き先の斡旋であったり、国民として迎え入れる手続きをするはずだ。デイラ聖教国は教会がなかなか国民に対して以前よりも重い税を強いたりと大変らしい』

『分かりました、お父様。重い税ということは財政が厳しいのでしょうか』

『かもしれないね。そうすると、不満をためる国民の目を外に向けようと小競り合いが起こりやすくなるから状況を注視しなければならない。私も領地で暮らす時間が増えそうだ』

『そうですね……』


 よくない話を聞いてしまったが、すぐに戦争になったりすることはないとリゼは感じた。なぜならリッジファンタジアでは戦争をしている、もしくはしていたという描写がなかったからだ。しかし、裏では小競り合いが起きていたのかもしれない。とはいえ、大地の神ルークの神託によって状況が少し変わってきてしまっているという可能性は否定できない。


(お父様が領地に行かれた場合、お母様も領地に行くのよね? 私はどうなるのかな)


 仮に領地で住むことになる場合、学園入学までの二年ちょっとは暮らすことになりそうだ。そうなるとジェレミーやラウル、アンドレなどは気軽に訪ねてくることができなくなるが、彼らはどのように感じるのだろうか。帝国貴族としての身分をもつリゼはゼフティア王国のランドル伯爵領に行く意味合いはあまりないため、自分の領地で暮らすという選択肢もあるだろうか。二年という貴重な時間をどのように使うかは考えなければならない。

 どうなるか分からないが、近い将来で何かしら状況に変化があるかもしれないとリゼは頭に入れておくのだった。


 次の日、アデールが屋敷を訪ねてきた。事前に来ることが知らされていたため、特に驚きはなく、応接室へと案内した。


「リゼ嬢、ふっふっふ。なかなか良いものができましたよ!」

「ついに出来たのですね!」


 銀糸を使った衣服である。アデールは早速箱から取り出すとリゼに渡してきた。


「きっとお似合いになると思います!」

「えっと、これは……ドレスのようですね。水色が綺麗です。着てきますね!」


 せっかくなので試着してみることにした。部屋に戻り着替えるとすぐに応接室へと向かう。

 ドレスを着た姿を見たアデールはとても喜んでいた。


「おお! リゼ嬢の髪色に似合うと思っていましたが、とてもお似合いですね。この糸ですが、着色すると良い感じに馴染みまして、とてもエレガントな仕上がりになるんですよね。あと、肌触りが素晴らしいのです」

「確かに色合いがなんていうか、綺麗ですね。それに肌触りは……とても心地よいかもしれません」

「そして白と水色の中間くらいの色に着色したこの手袋をつけてみてください」


 肘よりも少し長い手袋をつけてみた。とても肌触りが良く、気に入ってしまった。


「すごく良いですね。今度の建国記念パーティーで着てみようと思います! あ、でも先日いただいたドレスでいった方が良いですかね。アンドレに聞いてみないといけませんね……」

「是非着ていただきたいとは思いますが、アンドレ王子からいただいたドレスを着るのが良いかと! ひとまず服を作って売りに出そうと思います。アルベール商会とは話がつきまして、お互いに競合しないエリアで売ろうということになりました。これは大ヒット間違いなしです!」


 きっと、ゼフティアではアデールの家で、ブルガテドではアルベール商会が売るのだろう。おそらくブルガテドへの参入度合いはアルベール商会の方が優れているため、アデールの家としてもその方が良いと判断した可能性がある。

 銀糸の仕入れ価格については今度話し合うことになった。アラクネの糸を出せるのはおそらくリゼしかこの世界ではいないだろうし、アラクネを捕まえて糸を出させることなど困難だ。よってとても貴重な糸ということになり、そこそこな値段で買ってくれそうだ。リゼは日課として銀糸を発動して出荷するだけで、エレス、つまりお金が手に入ることになる。それをポイントに変換すれば様々なものに役立つだろう。


 その後、アデールも魔法の練習をしているということで、少し練習を共にした。彼女も風魔法の使い手らしいが、エアースピアしか使えないということを嘆いていた。どういう場面で使えるのかをリゼは丁寧に説明し、継続して練習をし、属性の習熟度をあげていく大切さについても語った。聖遺物の本を頼る以外では基本的に新しい魔法を覚えるにはそれしかない。

 アデールが帰宅すると日課をこなしてベッドでくつろぎながら交換画面を眺めていた。するとリアが戻ってきた。


「ニーズヘッグの頭が見えてきた」

「凍っているのよね? かなり順調に掘り進んでいるみたいね」

「凍っているし、生命活動は停止している。あと、城も一部の窓から中に侵入できる状態になりつつある。でも離宮と違って損傷が激しい。城の中にも土が入ってる」

「ありがとう、リア。狩猟大会が終わったらゆっくり探索しましょう!」


 その翌日、伯爵たちが帰ってきた。だいぶ疲れているようだが、出迎えると喜んでくれた。

 そして、この日はアンドレを尋ねる日だ。せっかくなのでアデールに作ってもらったドレスを着て行くことにする。ドレスに着替え、鏡の前に立ってみるがなかなか似合っていると感じた。


 馬車に乗り込み屋敷を出る。護衛は多めだ。門を出ると近くにいた平民たちが頭を下げてくるのが見えてしまった。


(はぁ……困る……)


 リゼは困ってしまうがアイシャから話を振られて我に返る。


「最近、アンドレ様もお忙しそうでしたから久々ですよね?」

「そうね。今日はお茶にしましょうということになっているのよね。建国記念パーティーについて色々と確認しないと」

「お嬢様は来賓のいらっしゃる会場なのですよね? グレンコ帝国からは誰か来るのですか?」

「うん。立ち居振る舞いに気をつけないと。グレンコ帝国……は、どうなのかな。ブルガテド帝国とは仲良しの帝国だけれど、ゼフティアとは敵でも味方でもなくといったところだし。アンドレにきいてみるね。アイシャのお祖父様がグレンコ帝国にいらっしゃるのよね?」


 以前にアイシャがそういえばそのような話をしていたとリゼは思い出す。戦い方もあちらの本を読んでいたのと、そもそもアイシャという名前もゼフティア風ではないため気になっていたリゼは追加で質問してみることにした。


「あ、あとグレンコ帝国はアイシャにとって故郷みたいなもの?」

「そうですね〜。祖父は住んでいますよ。私はゼフティアで生まれ育ったので故郷感がないですけど、両親にとっては故郷ですかね。伯父さんが亡くなってしまい子供がいなかったので私だけが唯一の孫ということで、会いたがっているみたいです」

「そうだったのね……それは顔をお見せした方が良いのではない?」

「そうですね。いずれは。ただ……またお話ししますね! 王宮が見えてきましたよ!」


 気づけば王宮が見えてきた。ほどなくして門より玄関口に到着した。今日はアンドレだけではなく、テレーゼに加えて王妃までいた。テレーゼと王妃は仲良しらしいからついてきたのかもしれない。


「王妃様、テレーゼさ…様、アンドレ王子殿下、お出迎えありがとうございます。リゼ=プリムローズ・ランドル、ただいま参上いたしました」


 リゼは礼儀正しく挨拶をした。じっと見つめていた王妃が最初に話しかけてきた。


「久しぶりね、リゼ嬢。式典以来かしら」

「はい、左様でございます」

「この後、ちょっと良いかしら?」


 リゼは動揺しながら「はい」と答えるがテレーゼたちの方をチラッと見た。二人は頷いてきたが、リゼは緊張しかない。何事だろうか。


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