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111.神託調査

 アイシャがふとひらめいたかのように目を輝かせた。


「お嬢様って、もしかしたらその帝国の生き残りの子孫かもしれませんよ! 氷属性を使えますし」

「あー、それはないと思う。例えば私の場合、お祖父様が火属性、お父様が風属性、お母様が水属性なのだけれど、風属性か水属性にしかなり得ないのよね。二世代前の火属性は遺伝しないというか」

「そういえばそうでしたね……お嬢様の場合、色々と特殊なので会得しちゃったのかもですね!」


 リゼは曖昧に笑ってごまかした。

 そして皆と共に転移することにする。転移すると驚いてしまったのだが、離宮はかなりの領域で土が取り除かれて建物の本来の姿がある程度は見えるようになっていた。泥人形たちが仕事をしてくれた成果だ。


「これはすごいな。もうだいぶ見えるようになっているね」

「そうですね……! 皆さん、休憩しながら進めて下さって大丈夫です!」


 泥人形たちは頭を横に振った。休憩など不要らしい。

 離宮は城を囲むように城壁があったようで、一部は長い年月の末、壊れてしまっていた。しかし、まだ壁としての役割を保っている部分もある。完全に掘り起こすことが目標であるため、継続して作業をしてもらうしかない。

 この日は泥人形たちを出しながら帝国の本拠地である城に向かうことにした。なお、離宮の作業はリアが監督してくれるらしい。

 向かう先にある城も土で埋まっていると思われるのでとにかく除去作業が必要だ。歩くこと二時間、城の真上あたりに到着した。少しだけ塔の先がはみ出ている。辺りを見渡す限りニーズヘッグの姿が見えないため、土に埋まっているのだろう。

 ここに着くまでに相当数の泥人形を出したため、発掘作業に取り掛かってもらうことにした。


「それにしても八つの神器についてだけど、聞いたことがないな」

「ですよね……ルーク様の神託ということは全国各地に教会があるはずなのでどういうことなのでしょうね……」

「密かに調査してみるよ。あと、これプレゼント。家から転移石を持ってきたんだ。離宮の大広間の奥のスペースに置いてきたからこっちにも置いておこう」

「ありがとうございます!」


 ラウルから貰った転移石は少し離れたところにある木にぶら下げておいた。

 これで離宮との行き来のために二時間歩かなくて済むようになった。


「こっちの城はほぼ埋まってしまっているし、土を除去するのに時間がかかりそうだ」

「そうですね。離宮はそんなに埋まっていなかったのですがこちらは……かなりですよね。これは一筋縄ではいかなさそうです」


 リゼはさらに泥人形たちを出して作業をお願いすると、離宮に戻ることにした。

 ラウルから貰った転移石で瞬時に離宮へと戻り、外に出るとリアに話しかける。


「リア、状況はどう?」

「えっと……」


 リアが気まずそうにしており、ここでハッとした。ラウルと面識がないことを失念していた。


「あー、ラウル様。こちらリアです」

「リアです。よろしくお願いします」

「僕はラウル=ロタール・ドレ。宜しく。それでリゼ、リアさんとはどういう関係なのかな? さっきランドル伯爵邸から転移したときには居なかったようだけど」

「リアは……」


 リゼはフォンゼルを見た。彼が頷いてきたので真実を話すことにする。


「リアはアルプという初級ダンジョンにおけるボスモンスターなのですが、私がテイムしたのです。お父様たちからも認められていまして」

「そんなことが可能なのか……。聞いたことがないため、驚きだよ。しかし、リアさんは人間そのものみたいな姿をしていて言われなければ分からないな」


 リアは羽を出して見せた。いつも冷静なラウルが驚いて目を見開いている。


「なるほどね。リゼにはいつも驚かされるよ。それにしてもテイムって魔法? スキル? 聞いたことがないな」

「それは私が説明しましょう。ブルガテドの飛地がグレンコ帝国と隣接しておりまして、中間地点にちょうど古代の遺跡があって、グレンコ帝国からの調査依頼により探索をしているときにモンスターテイムというスキルの本を見つけたのです。あまりに危険であるため、後世に残さないようにと考え、一部の人間が習得してスキルの本を消滅させたのです。一冊は行方不明ですがね……」


 ラウルは納得したようだ。フォンゼルが見つけたスキルの本をリゼが貰って会得したと判断したのかそれ以上の質問はなかった。ふとフォンゼルに聞いていなかったと思い神器について聞いてみることにした。


「そういえば、フォンゼルさん。八つの神器についてご存知ですか? 遥か昔にルーク様の神託でそのような話があったようでして」

「その話ですが、今朝お聞きして驚きました。私も知らない情報です。超上級ダンジョンはブルガテドには存在せず、おそらくその神器というものは帝国の宝物庫にも存在しないのではないかと考えていました」

「ありがとうございます。おそらく真実だとは思うのですが神託の記録を確認しないと真実だとは言い切れませんので、もしかしたらという形で頭の隅においていただければと思います」


 それからリゼは泥人形をさらに出してみた。ダンジョンから出てきているモンスターが近くにいないか確認してもらうためである。今日はリアとラウルが夜まで残って監督してくれるそうなので、リゼたちは一足先に屋敷へと戻ってきた。

 

 そしてすぐに大地の神ルークの教会へと向かった。神器について確認するためだ。

 神官が出迎えてくれたが、熱烈な歓迎を受けた。


「フォルティア様、わざわざお越しいただきましてありがとうございます! 私は各教会を統括する大神官です。あなた様にお会いできるとはとても幸運です……。この時代に生きることが出来てよかったと心の底から考えておりまして、フォルティア様のことを考えない日は神官一同ありません。さて、今日はどのようなご用件でしょうか。何なりとお申し付けくださいませ、フォルティア様」

「あっ……実は神託の記録を見てみたくなりまして、可能でしょうか?」


 あまりにも熱意を込めて話しかけてきたので面食らってしまったリゼであるが、要件を伝えた。

 おそらく機密事項のため、ダメ元のお願いだ。


「もちろん可能でございます。神託の確認はフォルティア様のみが可能となっておりますので、護衛の方とメイドの方はこちらでお待ちください」

「ありがとうございます!」


 この機会を無駄にせず全てを確認しようと意気込んだ。

 リゼは大神官に続いて地下室へと続く螺旋階段を降りる。蝋燭(ろうそく)が定期的においてあるがなかなかに薄暗い。

 そして大神官は鍵を開けると部屋に案内してくれた。


「こちらが過去の啓示石板に記載されていた内容となります。啓示石板が用いられるようになる前の記録は残念ながらありません。それまではフォルティア様のように一部の特別な方にのみ、神託が伝えられていたと言われています。啓示石板を使うようにったのも神託によってです。特殊な石板に必要な加工を施して啓示石板として完成させるようにという神託があったのです」

「なるほど……ありがとうございます。そのような経緯があったのですね」


 気を取り直して記録というものを見てみることにした。最新は先日の神託だ。それから遡ること千年前の神託はこうだ。


『歴史は伝説となり、伝説は神話となった。そしてその神話もいつしか忘れ去られ語られなくなった。六つの希望はいまも土に眠り、二つの希望はその時を待つ』


 リゼはなんだか大袈裟な言い回しだがいままでの経験上、なんのことなのか少し分かってしまう気がした。神器のことだろう。


「えっと、この六つの希望と二つの希望って何でしょうか? 合計すると八つの希望ということになるようですが……」

「それは我々も分からないのです。太古の昔に何か作られて地面に埋まっているのではないかという結論をつけて、神託の解釈については完了となされたのです。その頃はゼフティアやブルガテドなどが周辺国と戦争を行っていた時代で暗黒期と呼ばれておりまして、神託の解釈を落ち着いて行うことが出来なかったのです」

「そうなのですね……」


(これって超上級ダンジョンの八つの神器のことだと思うのだけれど……二つの希望はその時を待つ……一つは大賢者が持っていた本、よね。そして、他にも神器を手に入れた人がいて亡くなってしまい人知れずに眠っているということなのかも。それが分かっただけでも収穫よ)


 それから、他の神々の神託についても一応、メモしてあるとのことで、見せてもらった。

 武の神ラグナルによるブルガテド帝国への神託を見つけた。三百年前らしい


『三つの玉をやろう。それぞれ使えばわかるだろう。一つは闘技場で使うと良い』


 なんだかんだいって、武の神ラグナルはいつでも大盤振る舞いなのかもしれないとリゼは感じた。

 神託の内容も分かりやすい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 『二つの希望はその時を待つ……一つは大賢者が持っていた本、よね。そして、他にも神器を手に入れた人がいて亡くなってしまい人知れずに眠っているということなのかも。』 王子が氷漬けにする為にマナ…
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