107.決戦、クイーン
そしていよいよボス部屋前へとやってきた。灰色の扉はアンドレとの初めてダンジョンの時以来に見る。中級ダンジョンである証だ。
あの時は突然に転移させられた挙げ句、入口も破壊されていたため、必死だった。前回と比べると今回は入口に戻ることも出来るし、転移石もある。よって少しばかり余裕はあるのだが、リゼは気を引き締めることにした。
(警戒しないと。中級ダンジョンということでメリサンドのように強いはず。少なくともゴーレムのように単純ではないはず。フォンゼルさんの話では定期的にお供のソルアントを出現させるのよね。恐らくそれがスキルなのは間違いないけれど、他にスキルがあるか否かで脅威度が変わってくる。とにかく石板から出てきた瞬間に襲ってくるわけではないから、その間に戦闘ウィンドウで確認しないと)
リゼは警戒心をとにかく高めた。作戦を話すことにする。
「まずはアイスレイで足止めします。お供のソルアントを確実に倒して、ボスを攻撃しましょう。お供がまた呼び出されたら私かアイシャがボスを足止めして、ソルアントをまず倒して……という、繰り返しでお願いします」
「私はどうする?」
「リアは出来れば睡眠魔法を相手にかけて欲しいかな。それで遠距離から魔法で攻撃ね!」
「分かった」
作戦は決まった。
リゼはブリュンヒルデをアイテムボックスより取り出した。今回は双剣で行くつもりだ。
前回のダンジョンでアラクネ相手になかなか有効であったため、より攻撃力の高い装備でいくことにした。
アイシャたちに向けて頷くと、扉を開けて中に入る。それから四人は距離を空けながら中央へと向かうが、石板をよくよく眺めるとクイーンらしきモンスターが描かれていた。巨大な蟻の左右にソルアントが描かれている。ちょうど広間の真ん中に差し掛かったところで石板が割れてボスモンスターが姿を現した。
姿を現したモンスターは石板に描かれていた通り、ソルアントよりも大きい蟻の姿をしており、お腹の部分が長く、鋭い牙を持っている。
フォンゼルから聞いていた通り、同時にソルアントが左右に一匹ずつ現れた。
素早く戦闘ウィンドウで確認する。
【名前】アントクイーン
【レベル】20
【ヒットポイント】560/560
【加護】なし
【スキル】ベアアント
【武器】なし
【魔法】ウィンドカッター、ストーンブラスト、ロックレイン
リゼは戦闘ウィンドウで素早く確認するが、魔法を色々と覚えているようだ。
「アイスレイ!」
まずは定石通りモンスターを足止めする。アントクイーンたちは突然の事に足を引っ張り、氷から抜け出そうとジタバタとするが、簡単には抜け出せない。
「魔法を色々覚えています! ロックレインというのは土属性の上級魔法です!」
リゼはアイシャたちに叫ぶとソルアントへと魔法を詠唱する。
「アイスランス!」
「ロックニードル!」
アイシャも同時に攻撃したため、氷の槍と岩の針があたりソルアント一体を倒した。もう一体のソルアントはフォンゼルの担当だが青白い炎に包まれて即座に倒れた。無詠唱魔法で火属性魔法を発動したようだ。
リゼたちはすぐにアントクイーンに攻撃することにする。
「ウィンドウェアー!」
素早さを上げると懐に入りレーシアとブリュンヒルデで切りつけた。そしてバックステップで距離を取りスキルを発動する。
「ソードゲネシス!」
リゼの左右に紫色の剣が出現し、アントクイーンへと突き刺さる。アイシャやフォンゼルも切りつけた。
さらにリゼは「セイクリッドスフィア!」と叫び、輝く球を繰り出した。複数の玉がアントクイーンに向けて聖なる浄化の輝きを放ちダメージを与えていく。アントクイーンはなんとかアイスレイの拘束から抜け出すと大きくジャンプしてリゼから離れた。だいぶセイクリッドスフィアを嫌がっているようだ。すると、風の刃が出現してリゼに向けて放たれた。
「ウィンドプロテクション!」
風の刃の軌道を逸らしてアントクイーンへと向けて前進する。アイシャたちもアントクイーンへと走り出した。
アントクイーンは近づかれないようにロックショットを発動し、岩を射出しようとする。アントクイーンの目の前に結界の壁を出現させると、跳ね返ったアントクイーンに岩が当たった。
するとアントクイーンはもう一度素早くジャンプした。インフィニティシールドの壁を警戒しているらしい。
『私の魔法はかわされた』
『動きが素早いからリアも実体化して剣で戦える? 魔法は当たりにくいかも!』
『分かった』
リゼはアントクイーンを目指しながらリアに指示した。リアは人間の姿になると、距離を詰めに行く。
「クレイバウンド!」
アイシャの魔法で地面が歪み、アントクイーンはその場から動けなくなった。アントクイーンはリゼに近づかれるのを極端に嫌がってジタバタしようとする。セイクリッドスフィアの輝きがとにかく嫌なようだ。
「銀糸! ウィンドカッター!」
リゼは銀糸を出してアントクイーンの二本の足を糸でがんじがらめにした。アントクイーンは身動きが取りにくくなり、さらに風の刃が命中して絶叫した。
すると青白い炎がアントクイーンを包み込む。フォンゼルの魔法だろう。戦闘ウィンドウで確認すると、みるみるヒットポイントが減っていく。
アントクイーンの目が赤く光った。これは上級魔法の前触れだ。
(ロックレインと言えば、頭上から岩を雨のように降らせる魔法。事前にわかっていればなんとかなる!)
リゼがそう思うと同時に頭上に沢山の岩が出現し、降り注いできた。
(インフィニティシールド!)
大きめの結界を二枚、頭上に展開した。結界に岩が降り注ぎ振動する。岩が砕け、結界の外縁から地面へと降り注ぐ。砂嵐のようになり視界が悪くなった。結界は念の為、二枚展開したのだが、壊れることはなかったので耐え抜くことに成功した。しかし、とにかく視界が悪い。それにそろそろソルアントを召喚するはずだ。
「一度、離れましょう!」
いつの間にか壁際にアントクイーンを追い詰めていたようだが、視界が悪すぎるため、一度広間の中央へと後退した。
「エアースピア!」
砂埃を突風でかき消していく。円を描くように風を操り砂埃を吹き飛ばし、アントクイーンを確認すると二体のソルアントが出現していた。アイスレイを放ち、身動きができなくなったソルアントを二体倒し、アントクイーンへと攻撃しようとしたところでリアが念話してきた。
『何か来る。警戒して!』
『えっ!?』
リゼが何事かと考える間もなく扉が破壊され大量のソルアントが広間へと侵入してきた。
そしてアントクイーンを守るように立ち塞がった。
ソルアントの物量に圧倒されてしまう。三十体はいるだろうか。
「お、お嬢様! どうしますか!?」
「これは……足止めしてあれを放つしかない……!」
「リゼ様、微力ながら私も上級魔法で攻撃させていただきます」
「お願いします! アイスレイ!」
リゼはアイスレイを詠唱し。ブリュンヒルデをしまい、マナ回復薬を手に持った。
「アブソリュートゼロ!」
ソルアントたちは猛烈な吹雪に見舞われた。そして大量の氷の刃がモンスターたちに向けて射出される。ギィィィィという悲鳴のようなものが広間に響き渡るが、リゼは素早くマナ回復薬を飲んだ。詠唱した直後はふらふらとした感覚があったのだが、一瞬で回復した。
「少し下がりましょう」
フォンゼルにそう言われて後退する一同。
アブソリュートゼロによってかなりの数のソルアントが地面に横たわっているが、おそらく味方モンスターが盾になって氷の刃が当たらなかったのか、まだ十匹程度は残っていそうだ。
ここでセイクリッドスフィアの応用機能を使うことにした。任意に聖なる球から、輝きを射出することができるのだ。
意識してソルアントに向けて聖なる輝きを射出した。白く細い光がそれぞれの球から放たれソルアントは倒れていく。
「それでは私も。インフェルノ」
フォンゼルが魔法を詠唱すると、リゼたちを目指して突き進んでいたソルアントたちが炎に包まれた。ソルアントたちはなんとか炎から逃げようともがくが炎は意思があるかのようにソルアントに絡みつき倒すのだった。するとアントクイーンは扉の方へと逃げようとする。ダンジョン内を逃げ回りつつ、スキルでソルアントを大量に出現させて形勢を逆転させようとしているのだろう。
「ウィンドウェアー! 銀糸!」
リゼは素早さをあげるとジャンプして糸をアントクイーンの足に絡ませた。
動きが遅くなるがなんとか破壊された広間の入り口の方へと向かうアントクイーンだ。リゼはアントクイーンの行き先に結界を展開した。アントクイーンはそれなりのスピードで結界に激突すると、反動で押し戻された。
「ソードゲネシス!」
左右に剣が出現するとすぐに射出される。アントクイーンにヒットし、のたうち回るが突然静かになった。
「眠らせた」
「ナイスよ、リア! よし、決めましょう!」
リゼはアイシャやリアと頷きあうと突き攻撃を同時にヒットさせアントクイーンを倒すのであった。フォンゼルは剣をしまいながら拍手してきた。
「お嬢様、やりましたね!」
「うん!」
「これがダンジョン攻略。テイムされて良かった」
喜ぶアイシャやリアに笑いかけつつも、少しだけ物思いに耽る。
(よし、なんとか倒せた! 色々とイレギュラーはあったけれど、これでこのダンジョンは消滅するはずよね。落ち着いて離宮を探索できる! あとセイクリッドスフィア、やっぱり強すぎよね。聖なる球から光線のようなものを意識して射出できるというあれ……今回は一度しか使わなかったけれど、連続して打てると感じた……つまり球体が消えるまで遠距離からひたすら攻撃し続けられるということに。聖属性については日々研究していかないと)
セイクリッドスフィアの強さに驚くしかないリゼであった。




