105.ダンジョン探索
階段を降りてまっすぐに大広間へと向かう。とくにモンスターは入って来ていなさそうだ。
黒い布で覆っておいたからかもしれない。机などのバリケードを元の場所に戻し、ダンジョンマップウィンドウを開きつつ、ダンジョンの通路へと入る。
そしてボス部屋までの順路と宝箱部屋を確認していく。その間、アイシャたちが周りを警戒してくれていた。
『リア、レベル上げのためにもどんどん倒してね!』
『分かった』
リゼの予想だとボス部屋まで最短距離で一時間、宝箱部屋を二つ通ると二時間半で到達といったところだ。今回はせっかくなので宝箱部屋を経由することにする。奇跡的に片方の宝箱部屋は罠がない。
「それにしても、冒険者などを気にせずに挑戦できるこの環境は素晴らしいですな。冒険者は襲いかかってくることもありますから」
「そうですね……本来はダンジョン攻略は領地に出現しない限りは挑戦できませんものね。上級ダンジョンはゼフティアでは攻略できずに多くが残っているみたいですが、なかなか挑戦することが出来ません。でもこの北方未開地にはいくつかあるみたいなので、いずれは挑戦したいですね」
「ゼフティアが上級ダンジョンを攻略していないという話は噂程度に聞いておりましたが、そうでしたか。ブルガテドでは上級ダンジョンも攻略しています。なぜなら、何かの拍子にモンスターが湧き出してくると悲惨なことになるためです。とは言え、攻略の度にかなりの犠牲者が出ているのも事実です。上級ダンジョンには討伐隊が各貴族から編成されて、皇帝陛下主導のもと、攻略が行われます」
基本的にブルガテドは合理的である。そして、上級ダンジョンも残さずに確実に潰すようだ。戦いの経験値が蓄積され、今の強さへと結びついているのかもしれない。
ゼフティアは近ごろは戦闘を避け、芸術を楽しむという文化であるため、上級ダンジョンを攻略できるような騎士が育っていない可能性がある。
(そう考えると、ブルガテドの教育というか方針のほうが国は安全よね。いきなり上級ダンジョンからモンスターが出てきて襲ってくるというようなことが起こらないから。それに強い人が沢山いそう。来たるべき時のために仲間を集めないとだから、今度訪れたときにそういう意味でもブルガテドの人と仲良くなれるとよいかも!)
雑談をしながら歩いていると、ダンジョンマップウィンドウで敵を確認した。曲がり角を曲がってすぐのところで微動だにせずにいる。一体だ。
『リア、こっそり見てこれる?』
『任せて』
透明状態であるため、リゼ自身も見えないが偵察に行ってくれた。しばらくすると戻ってきたようで念話で話しかけてくる。
『人間がつける甲冑を着た石みたいなのがいた』
『石……銅像ってことかな。でも、モンスターなのよね?』
『うん』
『見れば分かるかも』
ひとまず素早くはないだろうということでスノースピアを正面に打って動き出すか見てみることにする。
「スノースピア!」
氷の粒が噴射されて壁に当たった。すると、ゴゴゴゴという音がして、モンスターが動き出した。ダンジョンマップウィンドウを確認するといまにも角を曲がりそうだ。
リゼは少し後退するように合図をして戦闘ウィンドウを開く。
【名前】ガットレンデス
【レベル】15
【ヒットポイント】210/210
【加護】なし
【スキル】ソードゲネシス
【武器】ガットレンデスの剣
【魔法】ロックショット
リアの言う通り、確かに甲冑のようなものをつけた石像だ。剣は紫色に光っており、妙に目立つ。
「インフィニティシールド!」
リゼが結界で壁を作った瞬間に、ガットレンデスの左右に紫色の剣が出現して射出された。壁に当たって剣が落ち、剣は消滅した。
「お嬢様!? いまのは一体?」
「スキルかも。魔法はロックショット、初級ダンジョンで戦ったゴーレムが使っていた魔法を覚えているみたい!」
「分かりました! どうしますか?」
こうして話している間にもガットレンデスは少しずつ距離をつめてくる。
「スキルかどうか見極めたいからアイスレイで止めてもう一度壁を張ってみる!」
リゼは結界を消滅させると、すぐさまアイスレイで動きを止めてまた壁を展開した。
するとまた左右に剣が出現して壁に当たる。
(なるほど。結構使えるスキルかも、奪っておきましょうか)
結界の壁を消滅させて魔法を詠唱することにした。
「スキルアブソーブ! ソードゲネシス!」
すると魔法がモンスターに当たって消滅した。おそらく成功だろう。
リゼは合図をするとすぐさま前進する。ガットレンデスの周りに岩が漂い始める。岩はアイシャに向けて発射された。アイシャはサンドシールドで防ぐ。リゼは素早く背後に回って切りつけた。フォンゼルも側面を駆け抜けながら一撃を加える。するとまた左右に剣が出現してフォンゼルへと射出されるが、リゼは彼の前に壁を作って攻撃を防ぎ切った。
すかさずアイスランスを発動し、氷の槍でガットレンデスを撃ち抜いた。モンスターは壁に激突したがまだ倒しきれない。リゼは素早く銀糸で動きを止めるとリアにレーシアを投げ渡す。リアは瞬時に人間の姿になると、素早く突き攻撃をしかけ、剣を引き抜くとガットレンデスは動かなくなった。
リアはモンスターを倒せたことを確認し、レーシアを渡しながら頷いてきた。満足なようだ。
(この敵のスキル、攻撃力がだいぶ高い。アンドレと二人のときにこういうモンスターと出くわさなくてよかった……。そしてこのモンスターはリッジファンタジアで何度か倒したことがあったっけ。ソードゲネシスなんてスキルは見たことがないから、きっとスキルを使ってくる前に中級魔法の全体攻撃で殲滅したのね。それにしても、なかなか使えるスキルじゃない)
リゼは素早くガットレンデスをアイテムボックスへと収納した。
先を目指すことにする。
「お嬢様、スキルはコピーできましたか?」
「えっと、そうね。出来たみたい。あとで試してみましょうか。あ、リア。さっきのモンスターから奪ったこの紫色の剣、急所へのダメージを与えやすいらしいからリアの武器にすると良いかも」
「ありがとう、ご主人様」
剣をリアに渡すのだった。
それから久々に数体のキメラ・ウォーリアーに遭遇したが冷静に倒して先に進む。
アンドレと共にキメラ・ウォーリアーと戦ったが、色々あったせいで随分と前のように感じていた。
その後、一時間程度は探索をしているだろうか、宝箱部屋を目指して歩いていると非常に大きな空間が少し先にあるようだ。
(えっと、随分とモンスターがいるようね。その数、三十体以上よ。迂回した方がいいよね……)
リゼがそんなことを考えると背後から何かがこちらに向かって近づいてくる音が聞こえてきた。どうやら大きな空間を目指しているらしい。隠れるところなどないため、戦うしかない。
むしろ、広間がわりと近いため、少しでも離れるために近づいてくるモンスター目掛けて走ることにした。戦う音を聞かれたらまずいからだ。
数秒後、大人の人間くらいの大きさがある蟻のようなモンスターに遭遇した。大きな牙があり、キメラ・ウォーリアーの死骸を咥えて引きずってくる。しかし、リゼたちに気づくとモンスターを離し、牙をカチカチさせながら攻撃体勢を取った。リゼは素早くアイスレイを発動したが、何かを察知したのかジャンプしてかわすと、突進してくる。狭い通路であるためかわすのは難しそうだ。まだ距離があるため、魔法で攻撃する。
「アイスランス!」
「ロックニードル!」
二本の氷の槍と岩の針がモンスター目掛けて射出された。魔法があたり怯むモンスターにフォンゼルが素早く距離を詰めると二度三度と切りつけた。
【名前】ソルアント
【レベル】15
【ヒットポイント】43/173
【加護】なし
【スキル】なし
【武器】なし
【魔法】なし
すぐに詳細を確認するが思ったよりもダメージを受けている。
キメラ・ウォーリアーと戦って元々傷ついていたのかもしれない。




