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104.ダンジョンと法律

 セイクリッドスフィアについて理解を深めるため、その後も何度かノーマルスケルトンを投影して色々と試してみる。

 分かったことは時間経過では消えず、ちょうど二十体を倒したところで聖なる球が消滅した。

 一定の魔力を溜め込んでいて、全て使うと消えるらしい。


「お嬢様、この魔法は一体? どの属性ですか?」

「地味だけれど、確実に相手にダメージを与えられる魔法ね。HPが低いモンスターなら近づく前に倒せてしまえるかも。一応、聖属性というかなんというか……」


 属性については小声で呟いてはぐらかした。

 

「明るいから闇を照らすのにも良いのでは? ご主人様」

「そうね。時間経過で消えるわけではないから展開しておけば明かりの代わりにもなるかも。よし、二人とも、明日また北方未開地に行きましょう!」


 明かりとしても代用出来るため、この球体をまといながら例の離宮を調査してみることにした。


(聖属性魔法、他の魔法とはやはり少し異なる感じね。無属性魔法も特殊だけれど、同じような感じで特殊な気がする。セイクリッドスフィアを相手が使ってきた場合、対処するには遠距離攻撃しかないけれど、基本属性はすべて無効化するのが聖女。つまり、魔法攻撃は効かないはず。仕方ないからと近距離攻撃を仕掛けたら球体によってダメージが蓄積される。聖女って近距離でも遠距離でも強すぎない? とはいえ、私には氷属性がある。アイスランスやアブソリュートゼロで攻撃すれば、有効なはず。防御系魔法がなければの話だけれど……うーん、きっとあるよね……)


 対処方法について考えを巡らせるが、聖属性を得た聖女の弱点のなさに舌を巻くしかない。

 とはいえ、セイクリッドスフィアは特殊上級魔法であるため、通常の方法で覚えられるのかは不明だ。

 夕食を終え、談話室のソファでまったりとしつつ、ラウルにメッセージを送っておく。


『ラウル様、明日また例の場所に行こうと思いますがどうされますか? 明後日も行くと思います』


 するとすぐに返信が来た。


『明日はすまない。用事があって行けないが、明後日なら行けるからご一緒させてもらおうかな』


 リゼは『分かりました!』と返事を打つと明日の探索エリアを考える。メンバーはリゼ、アイシャ、リア、フォンゼルの四人となるため、ダンジョン攻略をすることにした。アイシャがフォンゼルを呼んできてくれたため、ダンジョン攻略を行うということを伝えるのだった。そこで一つ気になっていたことを確認しておく。


「フォンゼルさんがテイムしたモンスターってどういうモンスターなのですか?」

「しいて言うのであれば、リア殿のようなコミュニケーション可能な知能が高いタイプというよりは、忠実に命令を遂行するタイプのモンスターです。いずれお見せしましょう」

「ありがとうございます。もし危なくなったら助太刀をお願いしたいです」


 ということで、明日はダンジョンで確定だ。あのダンジョンを消滅させておけば、離宮を安全に調査できるからだ。いつモンスターが突入してくるか分からない状態では不安感しかない。午前中はキュリー夫人の授業を受けて、午後から転移だ。


 次の朝、朝食を食べているとふと昨日の出来事を振り返っていた。


(一つ分かったことは、ラグナル様の加護で得た魔法はマナの欠乏症にならないのよね。本来は自分が到達していないレベルの魔法は体内のマナを消費してしまいマナが枯渇して欠乏症になるのに。アブソリュートゼロでふらふらしてしまうのはまだ初級魔法レベルなのに上級魔法を発動しようとしているから。でも、おそらく上級魔法のセイクリッドスフィアでふらふらとしないのは、ラグナル様の加護で習得した魔法は例外で大気中のマナを使ってくれるのかも)


 そのラグナルの加護で覚えられる魔法はまだあと四枠もある。神々に感謝するリゼであった。

 午前中、キュリー夫人が屋敷を訪れていた。


「リゼさん、質問はありますか。何でも良いですよ」


 授業が一段落したところで質問タイムになる。


「ダンジョンの管理についてお聞きしたいです。本を読んだところ、王家直轄領の場合、見つけたものに挑戦権が得られ、貴族の領地に出来た場合はその貴族が攻略しないといけないのですよね。冒険者に無断で攻略されてしまった場合は、何か処置はあるのでしょうか?」

「よく勉強していますね。ただ、ゼフティアでは各貴族はダンジョンを攻略しなければならないという決まりはありません。聖遺物目的の冒険者が仮に王家直轄領以外のダンジョンを無断で攻略した場合、当然罪に問われますが、貴族としては面倒なダンジョン攻略など、出来れば避けたいのでスルーすることが多いですね。むしろ消えてくれてよかったと考える家柄がほとんどかもしれません。これは暗黙のルールです。逆に戦闘好きの貴族は自らが軍を編成して攻略したりもします。その昔、王国が戦争を仕掛けたのも、領土を広げてダンジョンを沢山攻略して聖遺物をかき集めるという目的もあったようですよ。昔は貴族の領地のダンジョンで入手された聖遺物も王族が没収していたようですから、相当に聖遺物への思い入れが強かったのかもしれません。とはいっても最近はダンジョンは放置されることが多くなりましたね。とくに上級ダンジョンなどは完全放置です。ご存知かもしれませんがダンジョンの扉周辺が観光スポットなどにもなっています」

「そうなのですね……ということは北方未開地や南方未開地のダンジョンはどういう扱いなのですか?」


 それとなく未開地について質問をしてみたリゼだ。


「北方未開地はそもそも訪れるのが難しいので、南方未開地に限った話をしますが、デイラ聖教国、ゼフティア王国、デルナリ国が海岸線沿いを開拓して一部を領土化しています。しかし、さらに先までの探索は出来ていないようですね。広大な砂漠地帯が広がっていますし、砂漠の先にはダンジョンから溢れ出てきたモンスターが沢山いるようですから。ノーマルスケルトンですら大量にいるせいで脅威になっているようです。ただ、秘密主義のデルナリ国は噂によればある程度奥まで探索しているようですね。モンスターを調教して売買しているという噂まであります。あまり良い噂をきかない国ですね。そもそも首都が南方未開地にあるという珍しい国です。話を戻して、未開地のダンジョンを攻略する権利は誰にでもあります。不可侵条約などもありません。よって、南方未開地は先程の三つの国が進出しているわけです。聖遺物は強力ですから、沢山入手しようと考えたのでしょうね。なお、デルナリ国ははるか東の方から流れに流れてやってきた遊牧民が作った国と言われています」


 どうやら未開地のダンジョンは好きに攻略して良いらしい。つまり、北方未開地のダンジョンをどれだけ攻略しても誰にも文句は言われないということだ。リゼはひょんなことからとてもよい環境を手に入れてしまったのかもしれない。南方未開地は地図を見たことがあるのだが、かなり広い。しかし、危険であるため、海岸線を開拓して領地にしている程度のことらしい。


「ありがとうございます。北方未開地でも南方未開地でもはるか昔に国があって、遺跡などがあったとしたらどういう扱いになるのでしょうか?」

「特に決まっていません。もしそういう遺跡があって何か見つかれば、手に入れても良いかもしれませんね。開拓して領地だと主張すれば通るかもしれません。しかし、そういうつもりで北方未開地へと向かったブルガテドの船団が帰ってこなかったという歴史もあります」


 リゼはキュリー夫人に感謝した。この日の授業は終了だ。


(未開地については特に法律でルールが決まっているわけではないのね。それは良かったかも。さて、午後は北方未開地へ行きましょう!)


 準備を整えて練習場へ集合する。少し遅めにと伝えておいた夕食を考えると探索には七時間ほど使えそうだ。中級ダンジョンは二度目であるが、前回は二人、今回は四人だ。

 大人であるフォンゼルもいるため、なんとかクリアできるだろうと考えていた。

 ボス戦においてもある程度は余裕を持って戦えるはずだ。

 転移石で転移する。目を開けると塔の近くだ。


「さて、ダンジョンを攻略して、離宮を安全に探索出来るようにしましょう!」


 リゼは意気込む。

 アイシャは前回来れなかったこともあってだいぶ興奮しているようだ。

 塔へとはしごを使って入ることにした。


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