102.地下での発見
広間の少し先には黒い何かが動いている。暗くて判別はできない。
(アクセス・マナ・コンバート・アイスレイ)
リゼの魔法によりモンスターは氷漬けになったようだ。
すぐさま戦闘ウィンドウで確認する。
【名前】ミーミン
【レベル】15
【ヒットポイント】169/169
【加護】なし
【スキル】なし
【武器】なし
【魔法】なし
(ミーミン。姿は見えないけれど、確か巨大な二足歩行の牛で、薄茶色の包帯でぐるぐる巻きにされたモンスターよね。目が六つあって、攻撃方法は腕で殴りつけてくるはず)
「アイスランス! ウィンドカッター!」
リゼは戦闘ウィンドウで反応があった方向に向けて連続して魔法を繰り出した。ヒットしたのか「グギャァ!!」という叫び声が響き渡る。他のモンスターを誘き寄せたらまずいため、早く倒すしかない。しかし、姿が見えないと始まらない。リゼは刻印をなぞりながら魔法石を部屋に投げていく。ラウルたちも同様に魔法石を沢山投げた。
すると、モンスターの姿が見えるようになってきた。リゼの予想通りの姿であり、アイスレイの効果で動くことが出来ず、めちゃくちゃに腕を振り回している。
「腕に気をつけてください! 一人一体を相手しましょう!!」
リゼはそう叫ぶと左手にいるミーミンに向かう。ラウルやフォンゼルも敵に向かっていった。アイスレイが破られるのも時間の問題だ。
「ウィンドウェアー!」
リゼは速度を上げると素早く間合いに入り切りつけた。そしてジャンプして背後に回るとさらに連続して切り付ける。ミーミンは細い尻尾で横から払いにくるがバックステップでかわすのだった。アイスレイの氷が破壊されて、ミーミンはリゼの方を向き直る。他のみんなはどうかとチラ見をするとラウルは氷の槍が突き刺さったミーミンを相手に翻弄していた。フォンゼルは余裕なのか、相手の攻撃をかわすと剣の持ち手で頭を殴りつけて地面に倒したところだ。
ミーミンがリゼに向かって突進してくるが、アイスレイの効果でスピードが遅い。逆にリゼは速度が上がっているため、冷静に攻撃をかわすと側面から切りつけつつ、ステップで距離を置くとアイスランスでトドメを刺した。
ほぼ同時に他の二人も仕留めたようだ。
「お二人とも、流石です」
「リゼの魔法で深手を負っていたから苦労はなかったよ」
「広い場所で良かったかもしれません。狭い通路で密集されると何かの間違いであの腕の攻撃が当たる可能性がありました」
「おっしゃる通りですね……」
フォンゼルの意見に同意する。以前、ダンジョンでコボルトに殴りつけられた時は狭いところでうまく避けきれなかったことが原因だからだ。
すると魔法石で照らしきれていない暗闇からミーミンが二体飛び出してきた。フォンゼルに向かっている。リゼは反射的にインフィニティシールドを展開すると、ミーミンたちは壁に当たり体勢を崩した。
リゼとラウルは同時に動いた。ウィンドカッターとライトスラッシュを命中させ、連続して切りつける。腕で殴りつけようとしてきたところは体を引いてかわし、突き攻撃でとどめを刺した。
「もう、いないですよね……」
「これを投げて……うん、居ないみたいだ」
追加で魔法石を投げたラウルが呟いた。
「申し訳ないです。私の魔力感知は三十メートルが限度で、それよりも遠くにいると感知出来ないのです。不覚です。常時発動するわけではなく、スキルを発動したときに敵の位置を捕捉できますので、気づくのが遅れてしまいました」
「大丈夫です。こういう時のためのパーティーですから」
「それに、ミーミンが飛び出してきたときにはすでに剣を向けていらした。流石ですね」
リゼは辺りを見渡す。壁が崩落しており、ダンジョンの通路と繋がっていた。壁に向かうと、顔を突き出して通路の左右を確認する。少し先には明かりが灯っていた。ダンジョンマップウィンドウで確認するとなかなかに巨大なダンジョンのようだ。これは別の日に攻略した方が良さそうだと考える。
一旦、壁に結界を張り、モンスターが入らないようにして広間を探索してみる。ダンスパーティーで使われていたのだろうか、立食用のテーブルがいくつか鎮座していた。
「リゼ、あれを」
「ラウル様? あっ、これは……」
肖像画だろうか。男性と女性、二人の女の子と一人の男の子が描いてある。家族かもしれない。
「どなたなのでしょう……」
「それは他の部屋を調べれば分かるかもしれない。どうやらここは城のようだね」
「そうですね。もしかしたらここはかつて存在した魔法帝国なのかもしれません」
氷属性魔法の説明欄に書いてあったことを思い返しつつ、そんなことを言ってみた。何のことか分からないラウルたちは頷くのみであった。
それから大広間から元の広間に戻るともう一つの扉を開けてみた。すると通路のようになっていた。
しばらく進むと玄関ホールのような場所へと到達した。玄関である大きな扉はまったく開きそうになかった。どうやら向こう側には土が積もってしまっているのだろう。その他には騎士の詰め所や厨房があり、これといって物珍しいものはなく、広間に戻った。広間にはよくよく見ると地下へ降りる階段があった。降りてみると廊下に繋がっている。廊下には赤い絨毯が敷いてあり、甲冑などが置いてある。雰囲気がある場所だ。
「見たことがない形の甲冑だね。興味深いよ」
「そうですね。頭の部分にある突起物と言いますか、ツノのようなものがついていて驚いてしまいました」
「だよね。これを見れただけでも来てよかったよ。剣の形も少しカーブしている」
「美しい剣ですね」
リゼとラウルは甲冑や武器の話で盛り上がりつつあった。すると、リアが話しかけてくる。
『突き当たりには本が置いてあるみたい。沢山ある』
『リア、ありがとう』
『少し探索してくる』
『気をつけてね。出来れば城の構造を把握したいのよね。家に戻って見取り図にして欲しいのだけれど、お願いできる?』
リアは『任せて』と言い残すとリゼの背中から飛び降りて散策しに行った。ひとまず本が置いてある部屋に向かうと本棚にはびっしりと本が並べられている。本棚は薄い溶けない氷で覆われている。本が痛むのを防いでいるのかもしれない。リゼが一つの本棚を覆っている氷に触れると薄い氷の壁は消滅した。
「流石は氷属性の持ち主だね」
「あー、溶けたのは何かそれが関係しているんですかね……」
「えっと、何だこれは。ルーン文字で書かれてる」
「ですね……」
ラウルが一つの本を手にとって首を傾げたので、リゼも本を手に取り少し目を通してみた。
(これは……魔法の研究についてみたいね。あと、この国の歴史書もあるみたい)
アイテムボックスに入れていくことにする。本棚は全部で十本あるため、千冊以上はありそうだ。すると、フォンゼルが剣を抜いた。何事かとリゼも警戒する。
「どうやら亡くなられた方のようです」
フォンゼルが照らすと骸骨が椅子に座っていた。もうだいぶ時が経っているため蜘蛛の巣が張られている。手に持つ本は朽ち果ててしまっており、今にも崩れ落ちそうだ。
「何かが起きて本棚に氷属性魔法を施し、ここで何かを書き続けたのでしょう」
「そうみたいですね……何かわかるかもしれません。この本は回収させていただきましょう」
リゼは慎重に本を取ると、(所有権を登録)と脳内に声のようなものが響き渡った気がするが、気のせいかと首を振りアイテムボックスに収納した。なお、本のタイトルはなかった。日記などかもしれない。
「この方は高位の魔術師だったかもしれないね。ほら、傷んでしまっているが、着ている服がとても高価そうだ」
改めて注目すると確かにそれらしき雰囲気を感じる。
「途中でベッドがある部屋があった。そこに寝かせておいてあげよう」
ラウルは骸骨を背負うと寝かせにいくのだった。リゼはその間に本を全てアイテムボックスに収納すると、フォンゼルと共にラウルがいる部屋へと向かう。
どうやら蜘蛛の巣などを払い、ベッドに寝かせたらしい。部屋にはラウルが置いたのか魔法石がいくつか置いてあり、ある程度の明るさを保っていた。
「どうか、安らかに」
ラウルが骸骨にシーツを被せた。リゼとフォンゼルも目を瞑り大地の神ルークへの祈りを捧げるのだった。しばらく部屋で三人は無言でいた。みんな思い思い、この城やこの骸骨について考えているのだろう。




