27.幸福の在りか
セリカは驚いているけれど、予想できなかったのだろうか?
反対の立場なら誰でもわかるはずだ。
さんざん馬鹿にして、邪魔だからとポイ捨てした癖に、後になってからやっぱり戻ってきてほしい?
そんな理由で私が従うとでも思ったの?
本気で頷くと思っていたのなら、セリカも両親も……本当に馬鹿だ。
「今まで酷い扱いをして捨てた癖に、私がそんな場所に未練を持っているとでも思ったの?」
「……今までのことなら心配いりません。今のお姉様なら、きっとお父様とお母様も相応の態度を示すと思いますよ」
「相応の態度って何?」
「それはもちろん、家族として接してくれます。私も、戻ってきてくれるならそうしますわ」
「……家族?」
馬鹿馬鹿しくて笑ってしまう。
あまりに滑稽だ。
私は確かに家族を欲している。
本物の家族を……本物とは血のつながりではなく、心が通じ合っていることだ。
「ブシーロ家は家族にはなれないよ」
あの場所に、繋がりなんてない。
本物の両親を失ったその日から、私だけが孤独だった。
誰一人、私と真摯にかかわろうとはしなかった。
そんな間柄に家族の絆なんて存在しない。
今さら生まれることもない。
偽物だ。
「私は戻る気なんてない。話は終わりだから、もう行くね」
「……いいんですか? そんな態度で」
立ち去ろうとする私に、セリカは冷たい視線を向ける。
「いくら英雄様に認められても、お姉様は所詮は平民です。平民一人くらい、私たちなら簡単につぶせるんですよ?」
「セリカ……」
ようやく、本性を出したみたいだ。
私のことをあざ笑うように。
あの日、私をブシーロ家から追い出した時と同じ表情をしている。
やっぱりこうなるんだ。
仮に私が頷いても、結局扱いは変わらない。
本当に幸せは手に入らない。
断ったことが何より正しい。
「そんな脅しに屈しないよ。私は……自分の居場所は自分で作るし、自分で守る。今までそうしてきたように、これからも変わらない!」
「お姉様の癖に……」
「――よく言った。それでこそ俺が見惚れた女だ」
視線で火花を散らす私たちの前に、豪快なセリフを口にして彼が現れる。
私以上にセリカが驚いていた。
「フレン……レイバーン公爵様」
「フレン様!」
「遅いから心配になって様子を見に来たよ、オルトリア」
彼は太陽のような笑顔を見せる。
そのままセリカの横を通り、私の隣に歩み寄る。
「いい啖呵だったよ」
「あ、ありがとうございます」
少し恥ずかしいけど、彼に褒められるのは嬉しい。
フレン様はセリカに視線を向ける。
「こうして顔を合わせるのは初めてかな? セリカ・ブシーロさん」
「……はい。お会いできて光栄です。フレン公爵様」
セリカは令嬢らしく丁寧にあいさつをする。
笑顔も作り直し、ニッコリ笑う。
「話は大体聞かせてもらったよ。悪いけど、彼女を引き込もうとするなら、まず俺に話を通してもらいたいな」
「……なぜですか? フレン公爵はあくまで職場での関係に過ぎないはずです。これは家族の問題です。他人が口出しするのは、少々無粋ではありませんか?」
フレン様相手にもセリカは引かない。
こういう度胸は素直に見習いたいと思ってしまう。
すでに話を聞かれ、本性を見せてしまったから開き直っているだけかもしれないけど。
「一時でもお姉様はブシーロ家に名を刻んだ人間です。平民となった今のお姉様なら、私たちの一存でブシーロ家に戻すこともできます」
「そんな! 私は――」
「他人じゃなければいいんだな?」
「え?」
「はい?」
唐突に、フレン様は私の肩に手を回し、ぐっと引き寄せる。
私の身体はフレン様の大きく広い胸にすっぽりはまる。
「フレン様?」
彼は微笑む。
甘く、綺麗な瞳で見つめて。
「オルトリア、俺の妻になってくれないか?」
「――!」
「な、何を考えているのですか!」
セリカが声を荒げる。
そんな言葉など聞こえないほど、私の頭の中では今のセリフが響く。
「妻……?」
「ああ、まずは婚約者からだが、オルトリアには俺の傍にいてほしい」
「正気ですか? フレン公爵!」
「言っておくが思い付きやその場しのぎで出た言葉じゃないぞ? 俺は最初から、彼女の笑顔に惹かれていた。今ではその心に、魂にも惹かれている。誰より素敵な笑顔を見せてくれる彼女を……ずっと傍に置きたい。だから俺は彼女をヴァルハラに誘ったんだ」
確かにそう言っていたことを思い出す。
けれどあれは、ただ私の笑顔が気に入ってくれただけだと……。
「ほ、本当に……?」
「ああ、俺は本気だ。本気で……君と家族になりたいと思っているよ」
「家族に……」
ぎゅっと、フレン様の手が強く私の肩を包む。
「俺たちは……同じ痛みを知っている。大切な人との別れを経験している。だから知っているんだ。繋がりの大切さを、愛おしさを。そんな君となら、本物の家族になれると思う。他人の思い出ですら、本気で守ろうとしてくれる君となら」
「フレン様……」
「オルトリア、俺は君の家族になりたい」
「――!」
心に突き刺さるようだ。
けれど痛みはない。
激しい衝撃が全身に響き渡る。
血のつながりなんてない。
出会ってから時間は、まだ数えられるほど短い。
それなのに、根拠なんてないはずなのに……。
この人となら、本物の家族になれる気がした。
「……はい。私なんかでよければ……フレン様の家族になりたいです」
「ああ、君がいい。君しかいない」
彼に抱き寄せられ、胸の中で彼の両腕に包まれる。
温かさが、心が伝わる。
ジーンと、胸の奥から熱くなる。
「……後悔、しますよ?」
「しないさ。もし俺が後悔するとしたら、彼女の笑顔を誰かに奪われてしまった時だ」
「……そうですか」
セリカは悔しそうに去って行く。
私はもう、彼女のことなんて気にならない。
ブシーロ家のことも、頭から消えていた。
過去は消えない。
辛かったことも、苦しかったことも、永遠に残り続ける。
それでも笑顔を作った。
笑っていればいつか必ず、本当の幸せが手に入ると信じて。
ねぇ、お母さん。
「私……今とっても幸せです!」
この笑顔が、天国まで届くように。
幸せを嚙みしめて、最高の笑顔を彼に見せた。
これにて本作は完結となります!
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タイトルは――
『姉の身代わりで縁談に参加した愚妹、お相手は変装した隣国の王子様でめでたく婚約しました……え、なんで?』
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