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新人魔法使いオルトリアは人並みの幸福がほしい ~婚約破棄に追放されても知っていたので平気ですよ!~  作者: 日之影ソラ


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24.眠れない夜

「その後は運がよかった。偶然近くで遠征をしていた当時の騎士団が火の手に気付いてくれて。連れ去られる前に俺とサクラは助かったんだ」

「……ぅ」

「オルトリア?」

「ごめん……なさい……」


 あまりにも悲しい話に、私は耐えられなかった。

 あふれ出る涙を袖で拭う。

 拭っても拭っても、涙は止まらない。

 

「ありがとう。泣いてくれるんだな」

「……だって、こんなの……ひどすぎるじゃないですか」


 二人は何も悪くない。

 ご両親だって、領民に慕われた素敵な人たちだった。

 仲睦まじく幸せな家庭に、悪人たちは牙を向いた。

 理不尽すぎる。

 悲しさと、盗賊たちに怒りを覚える。

 ふと、プエリ村でのフレン様を思い出す。

 盗賊を相手にする時、その爪痕を見るときの瞳は、とても険しく怖かった。

 当然だ。

 彼にとって盗賊は、一生許せない存在なのだろう。


「俺は盗賊が許せなかった。けど一番腹が立ったのは自分だ。何もできなかった。俺がもっと強ければ、二人は死なずに済んだかもしれない。そう考えると……自分の無力さに苛立つんだ」

「フレン様……」


 まだ子供だったのだから仕方がない。

 なんて言葉を、フレン様にはかけられない。

 自分が同じ状況で、同じ経験をしたらどうだろう。

 きっと、今のフレン様のように無力さを呪ったはずだ。

 語られた悲惨な過去こそ、彼が英雄と呼ばれるように至った原点だった。

 

「だから、騎士になったんですね」

「ああ」


 悪逆非道の限りを尽くす者たちを許せない。

 自分と同じように苦しむ人が一人でも減ってほしい。

 そして決定的だったのは……。


「俺たちの家を襲ったのは、ユニオンの連中だった」

「――! ユニオン」


 世界各国で暴れる強大な盗賊組織。

 彼らは十二年も前から活動し、フレン様の家族を奪ったのか。

 フレン様は……。


「大丈夫だ。復讐したいとは、思っていないよ」

「フレン様……」


 彼は笑顔を見せる。


「父さんと母さんが望んでいるのは、俺たちの幸せだ。だから復讐なんて望んでいない。そういう人たちだった」

「……」


 フレン様の隣で、サクラがぎゅっと拳を握りしめる。

 悔しさがにじみ出ている。

 きっと彼女も、フレン様と同じ気持ちだったのだろう。


「でも俺は知った。世の中にはどうしようもない悪がいる。知ってしまったなら、見て見ぬふりなんてできない。俺の願いは……この世界から一つでも不幸をなくしたいんだ」

「……私も、お手伝いします!」

「――オルトリア」


 手が震える。

 様々な感情が沸き上がり、言葉が上手く出せない。

 それでも一つ、確かに思う。

 私も知ってしまったから。

 彼らの過去を、決意を……だから――


「私も、見て見ぬふりなんてできません!」

「……君ならそう言うと思った。だから紹介したかったんだ」


 フレン様は微笑み、お墓に向かって語り掛ける。


「父さん、母さん、素敵な仲間が加わったよ。彼女と一緒ならきっと、たくさんの人たちを笑顔にできる。そう信じてる」

「頑張ります!」


 フレン様の期待は、決して軽いものじゃない。

 亡くなられた両親の思いも詰まっている。

 だからこそ応えたい。

 大切な思い出を話してくれた信頼に、私の精一杯を見せたいと思った。


 思い出を知り、お参りをして。

 気づけば夕方になっていた。

 西の空に夕日が沈む。

 吹き抜ける風も、少し冷たく感じる。


「そろそろ戻ろうか」

「はい」

「……」


 フレン様に続いて私が立ち去ろうとする。

 だけど一人、サクラはまだお墓を見ている。


「サクラ」

「……うん」


 フレン様に呼ばれて、ようやくこちらに歩いてくる。

 初めて見る。

 サクラの……あんなに悲しそうな顔は。


  ◇◇◇


 屋敷に戻り、夕食を一緒に摂る。

 フレン様と一緒に食事をするのは初めてで、普段ならドキドキしていたかもしれない。

 大切な話を聞いた後だから、自然と会話も少なかった。

 命日であることを、この場のみんなが意識しているせいだ。

 別に悪いことじゃない。

 今日くらい、しんみり時間を過ごすのもいいことだ。


 夜も更けて、お風呂も頂いてから私は部屋へ案内された。

 大きな一部屋を貸していただいて、ベッドも大きくてふかふかだ。

 寝心地はよさそうなのに、全然眠れない。

 あの花畑で聞いた話がリフレインされる。

 

「……」


 どうせ眠れないならと、私はベッドから出る。

 みんな寝静まっている時間だ。

 起こさないように静かに、私は部屋を出て行く。

 眠れない時は無理に寝ようとしない。

 大抵こういう時は、夜風にでも当たると気分が晴れてくる。

 私は屋敷の庭にベンチがあることを思い出して、そこへと足を向ける。

 そこには、先客がいた。


「お父さん……お母さん……」

「サクラさん?」

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