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新人魔法使いオルトリアは人並みの幸福がほしい ~婚約破棄に追放されても知っていたので平気ですよ!~  作者: 日之影ソラ


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22/27

22.フレン様の故郷

 レイバーン公爵家。

 王都でも有名な名家とされているが、その名が多く広まったのは最近のことだった。

 王国最強の騎士、英雄の誕生。

 当時は辺境の伯爵家でしかなかったレイバーン家は、フレン様の活躍によって大成し、貴族の位で最高位の公爵を与えられた。

 だから王都で名が広まっていても、治めている領地は辺境のままだ。

 レイバーン公爵領までは馬車で丸二日かかる。 

 私たちは一日に一本しか出ていない定期便の馬車に乗り、揺られながら移動する。


「悪いな。急に誘ってしまって」

「いえ、私は特にやることもありませんから」


 突然お誘いされた時は盛大に驚いたけど。

 フレン様の領地がどんな場所か興味があるし、何よりフレン様から直接のお誘いだ。

 断る理由なんてない。

 ただ、若干名不満げな人もいるみたいだけど。


「……」


 サクラはフレン様の隣に座り、ムスッとしていた。

 ユーリさんの言葉を思い出す。

 お兄ちゃん子だから、大好きな兄を取られて嫉妬している。

 本当のことだったのかもしれない。

 だとしたら邪魔してしまって申し訳ない気分だ。


「毎年この時期になると、必ず帰る様にしてるんだ。本当は領主が長く空けるなんてよくないんだが、騎士団の仕事から抜け出せなくてな。一応、領主としての仕事は王都でもできるが」

「領主のお仕事もされていたんですね」


 道理で毎日忙しくされているわけだ。

 仕事が終わらず休日に一人で働いていたのも、騎士団以外のお仕事があったからなのか。

 けれどそれくらい、領地にいる人に任せればいいのに。

 実際の領主はフレン様ではなく、彼のご両親のはずだし。

 疑問はあるけど、それ以上に緊張する。

 彼の領地に行けば、必ずご両親と対面する。

 別にやましいことはないし、ただ挨拶するだけだとわかっていても……。


「緊張する」

「……」


 この時の私は知らなかった。

 彼が私を招待してくれた意味を。

 浮かれるような気分でいることが、どれだけ失礼か。


  ◇◇◇


 二日かけ、私たちは到着する。

 馬車から降りた先で広がるのは、広大な自然の中に作られた集落。

 村よりは広く、街と呼ぶには少し小さい。

 私がイメージする辺境の領地とピッタリ重なる光景に、思わず感動する。


「ようこそ、ここが俺たちの領地だ」


 レイバーン公爵領。

 公爵という位には不釣り合いなほど僻地にある普通の領地だ。

 並ぶ建物も質素で、賑わってはいるけど人は多くない。

 王都の喧騒に慣れてしまった私には、静かに感じられるほどだ。


「屋敷までは少し歩く」

「はい!」


 私はフレン様の後に続き、領地の中を歩く。

 整備された道を進んでいくと、領民がフレン様に気付く。


「領主様! 戻られたのですね!」

「ああ、三日ほど滞在するよ」

「それは嬉しい限りです。皆もきっと喜びます」

「ありがとう」


 フレン様を見るや否や、たくさんの人たちが集まってきた。

 みんな彼のことを慕っているのがわかる。

 実績はもちろん人柄も、フレン様は素晴らしい人だから当然だろう。

 なんだか一緒にいる私まで誇らしくなる。


「そうだ。花畑は変わらずか?」

「はい。今年もよい花が咲いております」

「……そうか」


 花畑?

 フレン様は領民と会話しながら、嬉しそうに笑う。

 だけどほんの少し、寂しさも込められた笑顔だと気付く。

 フレン様はお花が好きなのだろうか?

 そういう雰囲気には、見えなかった。


 一通り領民たちと話を終え、私たちは屋敷にたどり着く。

 すぐ目の前に見えていたのに遠く感じたのは、フレン様の人気が凄まじかったからだ。

 ちょっぴりサクラも疲れ気味に見える。

 屋敷に入ると、執事さんが出迎えてくれた。


「ただいま」

「お帰りなさいませ、フレン様、サクラ様。荷物をお預かりいたします」

「ああ、頼むよ。彼女の分も」

「かしこまりました」


 私の分の荷物も執事に預ける。

 使用人の姿はチラホラ見えるけど、ご両親は未だ現れない。

 フレン様の屋敷だと意識してソワソワする。


「この後はどうされますか?」

「先に挨拶へ行く」

「かしこまりました。お気をつけて」

「ああ。オルトリア、すまないがもう少し歩くよ」

「はい。えっと、どこへ行くんですか?」


 私は疑問をそのまま尋ねた。

 するとフレン様は優しく、寂しそうな表情で言う。


「会わせたい人がいるんだ」


 その表情が印象的で、私はこれ以上質問できなかった。

 言われるがまま、流されるようにフレン様の後に続く。

 向かったのは屋敷の裏。

 小高い山があって、木々が生い茂る古い道を進む。

 そうして山道を歩いた先に、開けた丘にたどり着く。

 

「わぁ」


 思わず声に出る。

 そこには一面の花畑があった。

 黄色い花が咲いている。

 右から左へ視線を流しても、視界のほとんどを黄色い花が埋め尽くす。

 まさに絶景、素敵な光景だ。

 だからこそ目立つ。

 花畑の真ん中に、石で作られた人工物があることが。

 その形が……お墓にしか見えないことも。


「フレン様……」

「紹介するよ。俺の父さんと母さんだ」


 お墓には二人の両親の名前が刻まれていた。

 ここでハッキリと理解する。

 両親が故人であることを。

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