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新人魔法使いオルトリアは人並みの幸福がほしい ~婚約破棄に追放されても知っていたので平気ですよ!~  作者: 日之影ソラ


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20/27

20.素敵な場所

 プエリ村でのお仕事から帰還した私たちは、一日休暇を頂いた。

 長旅での疲れを癒すため、遠方での依頼が終わった後は必ず休日を入れるようにしている。

 フレン様がそう言っていた。

 今日は休みだとわかっているのに、身体はいつも通りの時間に目覚める。


「……まだ寝てても……」


 誰も怒らない。

 けれどなんとなく、もう一度眠れる気がしなかった。

 私はいつも通りの時間に目覚め、朝の仕度をする。

 仕事はなくても宮廷の服装に着替えて、特に理由もなく部屋を出た。

 私が暮らしている寮は宮廷のすぐ隣だ。

 ヴァルハラに所属しても生活する場所は変わらない。

 王城の敷地内にある寮の外を歩くなら、適当な服装では笑われてしまう。

 名のある令嬢みたいに素敵なドレスでもあれば別だったかもしれない。

 私にはきっと似合わないけれど。


「どうしようかな……」


 こんなに朝早くに目覚めても、特にやることがない。

 仕事がない日。

 予定がまっさらな休日なんて久しぶりだ。

 いつも終わらなかった仕事を休日に持ち込んでいたから。

 そういう生活に慣れてしまったせいで、逆に暇な時間の過ごし方を忘れている。

 趣味でもあったらよかった。

 生憎私は、魔法を学ぶことしかやってきていない。

 そうこうしているうちに、私は騎士団隊舎の前にたどり着いていた。


「あー……あははっ」


 困ったな。

 休みだとわかっているのに、身体は仕事する気でいるみたいだ。

 私は呆れて笑いながら中に入る。

 ヴァルハラの皆さんも休みだから、行ったところで誰もいないだろうけど。

 どうせ来てしまったんだ。

 何か仕事でも見つけて、明日のみんなが楽をできるように。

 

 ガチャリと扉を開ける。

 そして私は驚いた。

 誰もいないと思っていた部屋に、一人だけ座っていた。


「フレン様?」

「ん? オルトリア」


 フレン様が自分の椅子に座り、書類を右手に眺めている。

 一目見てわかった。

 彼は休日にも関わらず仕事をしているのだと。


「どうしてフレン様が?」

「それはこっちのセリフだぞ? 今日はみんな非番になっているはずなんだが? 寝ぼけて来ちゃったのか?」

「ち、違います! お休みなのはわかっていたんですが、早く目が覚めて、なんとなく歩いていたらここに」

「なんとなく? 寮からここはそれなりに離れている気がするけど」


 フレン様は鋭いところをつく。

 言われてみればその通りで、私にとって馴染みが深いと言ったら宮廷のほうだ。

 無意識に歩いてたどり着いたというのは首を傾げる。

 自分もわからない。

 もしかすると、多少なりと期待していたのかもしれない。

 休日でも誰か、たとえばフレン様に会えるかもしれないと。

 こうして偶然にも顔を合わせて、私の心は満足していたから。


「フレン様はお休みじゃなかったんですか?」

「休みだよ。けど仕事が溜まっていてね。まぁ気にせず君はゆっくり休むといい」


 そう言って彼はニコリと微笑む。

 強がりには見えない純粋な笑顔は、私に心から気にするなと言ってくれている。

 フレン様の優しさが伝わってほっこりする。

 一方で、ちょっぴり嫌だった。


「お手伝いします」

「え?」

「どうせやることもありません。書類仕事も宮廷でいっぱいしてましたから平気ですよ」

「いや、でも君は休みで」

「フレン様もです」


 私はフレン様の横に歩み寄り、積み上がった書類に軽く目を通す。

 騎士団関係の書類だけど、形式は宮廷で扱っていたものと同じ。

 これなら私でも役に立てそうだと、残っている書類を半分貰い、自分の席へ移動する。


「君は特に疲れているんだ。ちゃんと休んだほうがいい」

「それはフレン様も同じです。フレン様が仕事をしているのを見たのに、私だけ休むなんてできませんから」

「……まったく、意外と頑固なんだな、君は」

「そうみたいです」


 自分でもちょっぴり驚く。

 私は、正直に言うと仕事は好きじゃない。

 宮廷でも無理やり与えられて、終わるまで帰れない。

 そんな状況が続いて、好きになるほうが不自然だと納得している。

 けれど今は、こうして一緒に仕事ができることを誇らしく思っている。

 不思議な感覚だ。

 場所が、人が変わるだけで、こんなにも気持ちは変化するのか。


「悪いな、手伝って貰って」

「いえ、これくらい当然ですから」


 私を劣悪な環境から救い上げてくれた。

 大切な恩人が困っているなら、私は誰よりも早く助けたいと思う。


「手が足りない時はいつでも声をかけてください。こう見えて私、魔法以外のお仕事もやっていたので」

「ああ、知っているよ。他の課に駆り出されていたんだろ?」

「はい。おかげでいろんな知識と経験は身につきました」


 大変だったけど、無駄ではなかった。

 今はある意味よかったと思える。

 

「だから遠慮しないでくださいね? 一人より、二人のほうが早く終わりますから」

「――そうだな」


 フレン様は呆れたように笑う。

 何を当たり前なことを、と思っているのだろうか?

 そう、当たり前のことだ。

 だけど私は、それが当り前じゃない環境にいた。

 なんでも一人で頑張らなきゃいけない。

 周りの誰も助けてはくれない。

 そういう場所で戦っていたからこそ、ここは天国のようだ。


「オルトリア」

「なんですか?」

「やっていけそうか? ここで」

「はい!」


 私は迷わず答えられる。

 偽りない笑顔で、本心から。


「ここは素敵な場所です!」

 

 そう思える。

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