18.逃げ場はありません
大空を飛ぶ鷹。
その眼は地上を見渡し、人の足跡すら見逃さない。
「――見つけた」
「よし、行くぞ」
フレン様の妹サクラは、動物と視界をつなげる加護を持っている。
その力で鷹と視界を繋ぎ、鷹の目を通してアジトの場所を見つけ出した。
急いで現場に向かう。
洞窟の入り口には見張りの盗賊が数名立っていた。
「――ん? なんだてめ、ぐえ!」
「て、敵襲、ぶお!」
「う、うわああああああああ」
「っと、一人逃げたな」
誰よりも早く殴りかかったのはライオネスさんだった。
見張りの三人のうち二人は昏倒し、一人は泣きながら中に逃げてしまう。
「ちょっとライオネス君、勝手に飛び出しちゃだめじゃないか」
「あー悪い、ついな」
「無鉄砲。これで中に知られた」
「なんだサクラ、お前はビビってるのか?」
「そういうことじゃないから」
「喧嘩するな。バレたなら仕方ない。早急に終わらせよう」
フレン様を先頭に、私たちは洞窟の中へと進む。
洞窟内は入り組んではいるが道は少なく、ほぼ一直線だった。
そうしてたどり着いた広い空間に、捕まっている村人たちを発見する。
今にも殺されそうな子供を見て、最初に飛び出したのはライオネスさんではなく、フレン様だった。
「もう大丈夫です」
「フレン・レイバーン様? あの王国の英雄?」
「馬鹿な! なんでてめぇらがこんな辺境にいやがる!」
「そいつはなぁー!」
盗賊の一人をライオネスさんが殴り飛ばす。
彼は拳を握り、笑みを浮かべる。
「てめぇらみてーのがいるからだ! ボケが!」
ここで広い空間に繋がる三つの道から増援がかけつける。
彼らが着るローブには、報告通り赤い渦を巻いた蛇、ウロボロスのマークが描かれている。
それを見つけたフレン様は険しい表情を見せる。
「やはりユニオン……奴らを捕らえるぞ!」
「おうよ!」
ライオネスさんが豪快に殴り掛かる。
拳の一撃で地面がお菓子みたいに粉々に砕かれる。
彼は全身に魔力を纏い、身体能力を引き上げ硬度を上げている。
自らの肉体で戦う魔闘士だった。
鍛え抜かれた筋肉と、あふれんばかりの魔力で敵を殴り倒していく。
その床を風のように駆け抜けたのは、双剣を握るユーリさんだった。
「こいつ!」
「遅いですよ」
彼は目にもとまらぬ速さで盗賊たちを切り捨てる。
フレン様曰く、ユーリさんは騎士団随一の双剣使いで、その速度は自身に並ぶという。
最強の騎士がフレン様なら、ユーリさんは最速の騎士だ。
「く、くそっ、なんだこいつら化け物かよ! ――! 女もいるじゃねーか! ちょうどいい、てめぇを捕まえて人質に」
盗賊の一人がサクラに気付き、襲い掛かろうとする。
しかし動こうと思っても前に出ない。
彼は気づく。
自身の下半身が凍結していることに。
「な、なんだこりゃ?」
「アイシクルアロー」
仕掛けたのはサクラだった。
彼女は弓に魔法を付与することで、射った矢は盗賊の足元に突き刺さり周囲を凍結する。
彼女は優秀な弓使いであり、付与魔法を得意としている。
「すごい……」
全員が個性を活かした戦闘方法を身に着け、他を引き寄せない戦いを披露する。
魔法使いである私は全体を俯瞰して見ている。
思わず見惚れそうになる。
「くそが! こうなったら逃げるしかねぇ! 他の通路から逃げるぞ!」
「無駄だぞ」
逃げようとした盗賊を追って、フレン様が迫る。
盗賊は恐怖で震えている?
「フレン・レイバーン……」
「お前たちはユニオンだな? 何が目的でこんなことをしている?」
「はっ! んなもん、楽して生きるために決まってんだろうが!」
男は何かを地面にたたきつける。
そこからモクモクと煙が発生し、周囲の視界を奪う。
「煙玉か」
その隙に逃げようと駆け出す盗賊の男。
この洞窟は山を通して複数の出入り口が繋がっている。
一か所を封じられても、他の出口から逃げれることができる。
ただしそれは、出口が開いていればの話だ。
「なっ……」
「無駄だと言っただろう?」
盗賊が逃げ込んだ出口は氷の壁に覆われていた。
その後をゆっくりとフレン様が追い詰める。
「新人の魔法使いは優秀なんだ」
「氷? だったら他の――」
「同じだ」
「は?」
そう、他の出口も同じ。
全ての出入り口は凍結されている。
出入り口が複数あることは事前にわかっていた。
だから最初に入る前に、私は――
「山全体を凍らせてくれたんだよ」
「なっ……そんなことが……」
「終わりだ。お前たちは不当に弱者から全てを奪う。抵抗できないことをいいことに、好き勝手に暴れる。それは自由とは呼ばない。そんなものを、俺が認めない」
「く、くそがあああああああああああああああああ!」






