15.後悔と嫉妬が渦巻く
ルペルリナ王国。
私たちが暮らす王国は、四方を複数の小国に囲まれた大国。
これまで多くの戦争を経て、今の領土に落ち着き平和が続いている。
しかし現在も国同士の対立が残っているところもある。
他にも、王国内で不穏な動きをする者たちがいた。
そのうちの一つが、世界各国で名を馳せる大盗賊団ユニオン。
彼らはルペルリナ王国だけでなく、世界中で窃盗や誘拐、人身売買など非道を尽くす悪の集団である。
警戒すべきは、数多に存在する反王国組織の中で唯一、単独で王国と同等の戦力を有しているということ。
彼らがその気になれば、ルペルリナ王国周囲にある小国など容易く蹂躙できてしまう。
それ故に、ルペルリナ王国と隣接する小国は、私たちの国と友好的な関係を築いている国が多い。
大国の後ろ盾を得て、自国を守るために。
「今回の依頼は、世界各地に散在するユニオンの拠点、その一つを壊滅させることだ」
最初の部屋に戻り、フレン様がテーブルの上で地図を広げる。
王都を中心とした地図だ。
北側の山岳地帯の奥地に、赤い印がすでにされている。
ライオネスさんが印を見ながら呟く。
「ここか。よく見つけたな」
「まだ確定じゃない。民間の目撃情報からの推測だ。だから俺たちが行くんだ」
「なるほどな」
フレン様の話によると、今回は陛下からの命令ではなく民間からの依頼らしい。
印がある周辺の村々からの依頼。
騎士団は宮廷と違い、民間からの相談事も請け負っている。
今回はその一つだけど、目撃情報からユニオンの拠点である可能性が浮上した。
もしも彼らの拠点であれば、早急に対処が必要だ。
ただし不確定な情報故に、騎士団を大きく動かせない。
「こういう時こそ、僕たちの出番なんだよ」
「だな。自由に動ける特権を活かそうぜ」
「好き勝手暴れたいだけでしょ?」
「そうとも言うな! なんだオレのことわかってんなぁ、サクラ!」
「うざい……」
笑うライオネスさんと、ムスッとするサクラ。
独特な距離感で投げ合う会話は、見ていて少し面白い。
私は地図のしるしを見つめる。
「盗賊団……」
つまり相手は、人。
もしかして――
「だからさっき、私に言ってくれたんですね」
サクラの言葉を思い出す。
人と戦う覚悟がないなら、ヴァルハラではやっていけない。
厳しい言葉の意味は、この後の依頼に関係していたのかも。
私がサクラを見ると、彼女をぷいっとそっぽを向く。
「別に、足手まといはいらないと思っただけ」
「素直じゃないな~」
「うるさいですよ。糸目の変人は黙っていてください」
「相変わらず攻撃的だな~」
サクラはユーリさんに対しても毒舌だ。
言葉はきついけど、悪意がこもっているわけじゃない。
打ち解けている証拠なのだろう。
私に対しても、ちゃんと心配してくれていたのだとわかったから。
「ありがとうございます!」
感謝を口にしよう。
チラッと彼女は私を見て、すぐに視線を逸らす。
みんなのように打ち解けるのはまだ先になりそうだ。
だけど、仲良くできそうな予感はしている。
快く思われていなさそうではあるけれど、嫌われているわけじゃなさそうだ。
「それじゃ準備を進めるぞ。出発は今日の夜、最短でも二日と半日かかる。長旅は覚悟しておいてくれ」
「おう!」
「了解しましたー」
「わかってる」
三人とも返事をする。
続けてフレン様は私に視線を向ける。
「オルトリアもいいか?」
「はい! こう見えて体力には自信があるんです!」
「そうか。頼もしいな」
ヴァルハラに入って初めての依頼。
意識しなくても気合が入る。
認めてくれた人たちにガッカリされないように、精一杯頑張ろう。
そう思って拳を握る。
◇◇◇
ブシーロ家本宅。
当主とその妻に加え、唯一の娘となったセリカ。
三人は夕食を摂っていた。
「セリカ」
「なんでしょう? お父様」
「オルトリアがヴァルハラの一員になったと聞いたが、事実なのか?」
「――!」
唐突な話題に、セリカはびくりと身体を震わせる。
すぐに返答しない彼女に、父は催促する。
「どうなんだ?」
「……どうやら本当のことみたいです」
「そうか。単なる噂ではなかったのか」
「驚きましたわね~ まさかあの子がフレン・レイバーン公爵の傘下に入ってしまうなんて」
彼女を追放したブシーロ家にとって、それは予想外の出来事だった。
当然、セリカにとっても。
愚かな平民の娘でしかなかった彼女が、英雄と呼ばれる人物に認められた。
その事実に苛立ちを感じている。
「経緯はどうなんだ? 何か聞いていないか?」
「いえ……何も。ですがきっと何かの間違いです。お姉さ……いえ、オルトリアがフレン公爵様に認められるなんてありえません」
「私もそう思っていた。だがもし、事実なら……」
「ええ、考え直さないといけないわね」
姉を追放した両親が、わずかに姉を認めつつある。
正確には娘としてではなく、ブシーロ家に残したほうが有益だと思っている。
しかし、そんな細かな理由はどうでもよかった。
セリカにとって一度見下した相手が、わずかでも認められることは屈辱だった。
「近いうちに依頼の一つも受けるだろう。その結果次第では……」
「ええ」
「……」
失敗してしまえ。
セリカは心の中でそう呟く。
彼女は認めない。
オルトリアが姉だということも、彼女が優れた人材だということも。
本日ラストの更新です!
ストレートにお願いします!
評価ください!!
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。
現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください。
よろしくお願いします!!






