マモノンGo!
「おそらく、この異変を引き起こした犯人は、メタリオム――だと思います!!」
多人数の目にさらされながら、アゼルははっきりとそういった――
「「「メタリオム?」」」
そして、ほぼ全員が聞き返す――だって、知らない名前だから――
「確か、魔法学院の生徒の一人だ。ただし、もともとこの国の生まれではなく、エルライア師やヴェルバーン嬢とともに異国から来た客人と言う話だ――」
「え!? あの二人と!?」
俺は、自らを魔王と名乗ったヴェルバーンとその仲間だと言うエルライア師匠を思い浮かべた――
「ちなみに今、自分の体はそのメタリオムの物らしいです……」
「――? どういうことかな? お嬢ちゃん?」
事情を知らない、ハヤトはアゼルを女の子と見ているらしい。
だが、同じ境遇――男なのに女の体に閉じ込められていると言う俺は、同士だと思っている――
「でも、なんか同士が増えまくっているんだが……」
俺は横目でドレッグ王子の体のトウカ、ウルマ嬢の体のムヴエ、町娘の体のドレッグ王子、こずるそうな男のウルマ嬢など……
って、いうか、その一番の境遇である俺がそれに慣れてきているのが悲しい……
「ちょっと……あんた、私の体を返しなさいよ……!」
魔法学院の学生服をまとった男が町娘の体のドレッグ王子に迫っている――どうやら、この男は今ドレッグ王子が使っている町娘の体の本当の持ち主らしい――
「すげーややこしいけどね……」
「カズサ……自分の――このアゼルの顔で、ジト目をするのはやめてくれないか」
「……アゼルがなして私よりかわいくなってんのよ……」
カズサ――おそらくそれがアゼルの体に閉じ込められている精神の名前なのだろう――は、アゼルが閉じ込められているメタリオムの物らしい肉体に食ってかかる――それは見ようによってはアゼルとその女の子がいちゃついてるようにしか見えない――
「そういえば……今、エルライア師匠とヴェルバーンはどこにいるんだ?」
とりあえず俺は、いまだ絶賛混乱中の精神交換者をおいて、身も心も同一な兄弟にかたりかける。
「あの二人は今、王都にはいない。門番の話では、お前たちが聖女の神殿に向かった直後、同じように王都から出ていたらしい。ただし、そちらは馬車で向こうは徒歩だったから目的地は別だと思われている――」
「いや、あの二人の正体を考えればそんなことはないと思うけど――」
魔王の行動範囲がどれほどのものか――
あっけらかんと、ついてきました――なんていわれても納得してしまう……
「ヴェルバーンって……なんか女神の神殿に現れたあの女の事?」
何かを思い出したように語り出すハヤト――
「女神の神殿? いや、俺達が行ってきたのは聖女の神殿だけど?」
「いや、この世界に来る前になんか女神がいる神殿に行ったんだが、そこでカリオペって名前の女神とそのヴェルバーンって名前の女ともめていたんだけど……」
「かりおぺ?」
「ああ、この子だ!」
ハヤトは、ヴェルバーンが使っていたのと同じ石板――確かスマヴォとか言っていた物を取り出し、指で叩く――
「見てくれ! この子」
どういう仕組みになっているのかわからないが、石板の表面に色鮮やかな絵が浮かび上がる――
「――綺麗な人……」
アーニャがそこに映った人物に感嘆の声を上げる――
「あ、ちょっとだけど動画もあるよ」
「動画?」
すると絵の中の女性が動き出し、同じく映ったヴェルバーンと戦い始める!!
「な、なんかすごいねーこんな小さな板に、どれだけの魔法が込められているんだろ?」
「これって、ヴェルバーンさんの所で見たテレビって言うと同じ物?」
何人かが物珍しさも加わって、ハヤトに群がっていく――
「これって、メタリオムが持っていたパットとか言う奴と同じもの?」
アゼルも近づいてきて覗き込む――
「うわぁ、女の子に囲まれて嬉しいな」
……中身は完全な女の子なのはアーニャだけで、後は中身男なんだけどな……
そんな時だった――
ブヴヴヴヴヴ――
ハヤトが持っていたスマヴォが激しく振動しだしたのは……
「――!? なんだこれ? マモノンスポット?」
そう言ってハヤトはスマヴォをゆっくりと動かす――
「何をやっているんだ?」
「あ、いや、『マモノンGo!』っていうアプリゲームがあってそれに出てくるマモノンが出てくるマモノンスポットが近い時にこういう風に振動して伝えてくれるんだけど……ここ、異世界だよな?」
ハヤトはスマヴォというものを指で叩き、またはなぞるように動かしながら困惑した表情で言う。
「マモノンスポットなんてあるはずが……」
そう言って今度はスマヴォを持った手を前に突出してゆっくりと動かしていく――
「でも、確か『マモノンGo!』って、GPSで位置情報を確認してそこにスポットを設置してマモノンを出現させてるんじゃなかったっけかな? この世界にGPS用の人工衛星なんてあるのか?」
いぶかしげな表情をしたハヤトは俺に顔を向けて聞く。
「ねえ、エルトちゃん。この世界って空飛ぶ乗り物って何かある?」
「は? 空飛ぶ乗り物? ……飛龍とかの飛行騎獣のことか? それとも魔法気球とか魔導飛行船とかの魔法で空を飛ぶ乗り物の事か?」
「魔導飛行船なら一機王宮にあるが……リューフェス兄貴が無理言って作らせたものが……」
俺たちの話を聞いていたクイエト王子が口を挟む。
「え? 飛行船があるんですか!?」
アーニャが目を輝かせていう――
「……飛行船に興味あるのか?」
「うん、お父さんの所に来るの飛行船に乗ったことがあるって言う戦士さんに聞いて一回乗ってみたいと思ってたんだ!!」
そういうアーニャの表情は年相応の女の子のものだ――
「あれか……上空からの敵国視察や空爆のために作らせたが、目立ちすぎる上に1回飛ばすに必要な魔法石が尋常じゃなくかかるんだよなぁ……」
「シュレア、子どもの夢を壊そうとするじゃない」
「最近じゃあ、親父参加の式典くらいでしか使ってないな」
「国王陛下の参加される式典……ものすごい豪勢だって聞いたことがあります!」
「まあ、周辺国へ威圧する意味合いもあるからね」
「シュレア、だから子どもの夢を壊そうとするじゃない!」
飛行船や式典の話題に目を輝かせるアーニャ。それに対し現実的な答えを返すシュレア王子、それに突っ込みを入れるクイエト王子――
武道派の兄、クイエト王子と魔法学に精通する弟、シュレア王子――世間一般のイメージでは突っ込み役はシュレア王子のように感じるが、現実にはクイエト王子がシュレア王子に突っ込んでいる――
「つまり、空飛ぶ乗り物はあるけど成層圏まで行ような乗り物はないと言うことか……」
よく意味のわからない言葉を言って、何かに納得したような表情を見せたハヤトは、再びスマヴォ片手にあたりを見始める。
「そんな平民の小僧や小娘の言葉にいちいち反応していないで、俺が元に戻る方法を考えてくれよ!!」
そしてその兄弟王子の弟、ドレッグ王子――に体を使われているカズサの体が抗議の声を上げる。が、
「ドレッグ、お前は今自分がその娘の体という事を忘れるな!」
「そうだぞ、第一まだ手がかりが少ないんだ。口を挟むくらいならもう少し何か考えろ」
そして、末っ子に対しては兄二人とも突っ込みである。
「ひいいい……」
「ちょっと! 私の体でそんな情けない行動しないで!!」
男三人――まあ、内一人は中身女だが――に詰め寄られ、カズサの体のドレッグ王子は後ずさり、
ドン!
「あ、ごめん――!」
「うわっ、とっとっと!」
あちこちをうろうろしていたハヤトとドレッグ王子がぶつかる!
そして、
ドンガラガッシャ~~ン!!
「うわぁ……」
「きゃっ!」
「おいおい……」
「だいじょぶか? ドレッグ……」
どこをどういう風に倒れればそうなのだろうか?
ドレッグ王子――カズサの体――とハヤトの体がもつれあい、ハヤトの右手がドレッグ王子の左胸に、そして左手はもっと際どいところにいっている――さらには……二人の唇が……
「ちょっと!! 私の体になにしてくれるのよ!!」
もう数ミリで二人の唇がくっつきそうになった時に、カズサが駆け寄り引き離す――!!
「何って……? ただのラッキースケベじゃないか! 日本じゃこれくらい当たり前だよ」
ハヤトは訳のわからない事を喋る――
「日本って……どういうところだ?」
「多分、魔界のどこかだよ」
自分の体を押し倒されて怒り狂うカズサ、ラッキースケベだとかトラブルは日常茶飯事だとかよくわからない言い訳をしている――
「これ、落ちましたよ――」
カズサにつかみかかられたハヤトが落としたスマヴォを、ウルマ嬢の体のムヴエが拾い上げたその時――!!
「キャ――!?」
ブヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!!
「「「―――!?」」」」
一段と激しくスマヴォが振動し、そして激しく光り輝く――
「なんだこれ!? あのスマヴォってやつ、こんな風にもなるのか!?」
「いや、スマヴォにこんな効果は無い!?」
「じゃあなんだ!?」
光は、一瞬だった――しかしその光がおさまった後には――!!
「何だあれは……」
俺を含め、誰もがそう思ったに違いない――
そこには、見たこともない魔物が出現しており、
「な、何をなさるんですか!?」
ウルマ嬢の体のムヴエが囚われの身になっていた!!




