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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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ヒャッハ~~!!-2

 神殿の周りで、まともに動いているのは騎士たちと俺たち、そして目の前にいる魔力を持たない男だけのようだ――


 ヒャッハ~~集団……いや違う、魔女ハピレアによって洗脳されたイタンモンメの王女、ジェシカ姫が率いる兵士たち……それがこの聖女の神殿にやってきた――


 もともとジェシカ姫の目的は観光だろう。が、彼女は今ハピレアの魔法によって洗脳され自分を盗賊団の首領だと思い込んでいる――


 そしてその兵士たちも、自分たちは盗賊団の一員だと思い込んでるのだ。

 それが、この神殿に迫ってきているヒャッハ~~集団なのである。




「ヒャッハ~~!! 見ろよ! あれが聖女の神殿だ!!」

「ヒャッハ~~!! 宝物がたくさんありそうだぜ!!」

「ヒャッハ~~!! お宝! お宝ぁ!!」

「ヒャッハ~~!! 俺たち盗賊がすべて奪ってやるで!!」

「ヒャッハ~~!! ヒャッハ~~!!」




「…………?」


 何なんだろうか? 見た目は普通の兵士達なのに全員が盗賊のような粗暴な言い方をしている。しかも何で言葉の始めにどいつもこいつも『ヒャッハ~~!!』ってつけるのだろうか?


「ねぇ、イタンモンメじゃ盗賊は全員ああ言う風にヒャッハ~~っていうの?」

 同じような疑問を抱いたのだろう。アーニャがホリアにそう聞いている。

「多分あれは、イタンモンメで大人気の演劇『北東の犬』に登場する『モッヒカーン盗賊団』の特徴だと思う――兵士たちの間でも『北東の犬』は大人気だったから……」

「どういう話なんだ? 『北東の犬』って……」


 タイトルを聞く限り、犬が出てることは間違いないだろうが、その犬が出てくる演劇に盗賊団がどう関わってくるのか……謎だ。


「確か、滅びた王家の生き残りの王女と一人の少年が一匹の犬に助けられて王家復興の旅を続けるって話なんだけど……敵として出てくるのがほとんどヒャッハヒッハ言っているモッヒカーン盗賊団なの」


「みたいようなみたくないような……」

「すごく面白いよ。主役の犬なんだけど、途中で生き別れの兄弟がモッヒカーン盗賊団の首領をやってるってわかって苦悩するところとか……」

「犬に支配された盗賊団と、お姫様に率いられる盗賊団、どっちがマシかな?」

 問題は、この神殿に迫ってきているのが、犬に支配された盗賊団ではなく、魔女によって支配された隣国の姫に率いられた盗賊団ということだ。




「殺してしまったりしたら国際問題になってしまう可能性があるな……」


 クイエト王子がそう言う。


「仕方がない、捕縛魔法を中心として極力相手を傷つけないように戦うんだ!」


「王子、ちょと待ってくれ!」

 俺はクイエト王子を呼び止める。ホリアの話を聞いた時から少し考えていたことがあった。


「あいつらは、盗賊と聞いて演劇の盗賊を思い浮かべている――だったら……」

 考えろ、考えるんだ――

「彼らは、皆その演劇を知っているんだよな? ジェシカ姫も……?」


「ジェシカ姫? 姫はやんちゃ方ですから、公邸から抜け出し演劇を見に行くなんて日常茶飯事でしたけど?」


 ホリアの口調にはどこかあきらめたような響きがある。


「お姫様ってそんなにすごい人だったの?」

 アーニャがなぜか目をキラキラさせて聞いている。彼女はお姫様に興味があるようだ。

「つまり、イタンモンメの盗賊のイメージはそういう訳だね。それを詳しく教えてくれないか?」

 俺はホリアにその演劇の事を詳しく聞き始める――

 イタンモンメの兵士たちをどうにかする方法はそこにある――俺はそう思った――


 盗賊にされてしまったお姫様がやってくるまでもう、そんなに時間は無い――




「「「「ヒャッハ~~!!」」」」


 普通の盗賊たちとは違い、本来教育の行き届いた兵士たちは街道からまっすぐ神殿を目指してくる――本当に彼らは盗賊なのだろうか? まるで、出来のいいお芝居を見ているような感覚だった――


「そしてこの俺もお芝居の役者の一人と言う訳か……」


 もしそこにあのヴェルがいたらどういう風な感想を俺にだすだろう?


 今まで無理やりにこういう格好をさせられたことがあったが、自分の意思でこんな姿になるのは初めてだ――


 俺は今、かわいらしいフリフリの――魔法少女とか言われるタイプの服を自らの意思で袖を通している。


 笑いたければ笑え!!


 必要だと思うからこそこういう格好してるわけだ!!


「魔女ハピレアに洗脳された人間は、今は全く変わった人間があるわけじゃない――それになるからと言って、本人は全く知らないものに変わるわけじゃないんだ――」


 トウカは、男の人格にされた――髪を短くし、言葉遣いや立ち振る舞いも本当に男の様になってしまったが完全に男では無い――あれは、トウカの中にある男のイメージを演じてるだけだ。トウカの遺志には全く関係なく――


 ムヴエは女の人格された――それはもちろん、ムヴエの中にある女のイメージのだろう――実際あいつは女の知らなすぎる――子供好きで優しい女。ムヴエが知る数少ない女……どちらかといえば、トウカをモデルにしているような感じがある。


 カシムの持つ子供のイメージ……うるさいけれど大人の言うことをよく聞く……あいつを持っている子供のイメージというのはかなり貧弱なんだな。


「さて、彼らイタンモンメの兵士たちが持つ盗賊のイメージが本当に演劇に出てくる盗賊そのものだとしたら……」


「ヒャッハ~~!! 可愛い女の子がいるぜ!!」

「ヒャッハ~~!! 本当だ! 俺好み!!」

「ヒャッハ~~!! 何かのサービスかぁ!?」

「ヒャッハ~~!! 可愛い服を着てるじゃないか!」

「ヒャッハ~~!! 泣かしちゃいそうだな!!」


 口々にそういう兵士たち――まるで出来すぎた芝居を見ているよう――


 そう、これは芝居なのかもしれない――だからこそ、俺は叫ぶ!!



「かかってくるがいい盗賊ども!! 俺はこの舞台の主役エルトだ!!」

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