王宮の隅っこの出会い
鎧が変形し飾りとなる――それが、小型の馬車にくっつくことによってしゃれた飾りの付いた馬車、というような感じなる――
「本当は、馬車が変形してリビングメイルになるって言う風な感じが良かったんだけどね」
「ヴェルバーン様、なんやすごい無茶振りを言うな……」
リビングメイルの憑依を解いたミレーニアがそう言う。
「いくら小型やゆうたかて、馬車が変形するリビングメイルって、どれほどの大きさになんねん?」
「でも、ゴーレムなら、どんな巨大なものでも精霊さえ取り付いてたら動かせるんじゃないの?」
「精霊理力が全く足りひんようになるわ! いくらうちが虹の精霊やゆうたかて限界があるで!!」
ミレーニアの絶叫が響く――
「そもそも、ゴーレムやリビングメイルなどに取り付く言うんは、精霊にとっちゃえらいストレスになんねんで! 一回何かにとりついてるうちと入れ替わってみたらようわかると思うけどなぁ!!」
「私の体になってあなたの魂は耐えられるかしら?」
「無理やな」
「こいつらに引かせても、大丈夫なんだろうな? あまり重いとこいつらが可哀想だぞ」
俺は、馬車を引く二頭の馬を撫でながら聞く。
「大丈夫やろあのリビングメイル、見た目より重くはないから馬車の飾りに変わってもそんなに苦痛にはならへんやろ」
「ヒヒーン」
馬たちは何も答えずただ、いななくだけだった。
「……もう一頭くらい、仲間が欲しいか?」
もちろん、馬が答えてくれる事はなかった。
「……でっか~~い!!」
「イタンモンメの公王城も大きくて美しいですよ――今度来てくれたら案内します。アーニャさん」
ホリアとアーニャが王宮を見上げてそう言う。
「こちらへ来て下さい、まもなくクイエト王子がまいられます」
俺達をここまで案内してくれたのはこの王都まで護衛してくれていた騎士の一人だ。
俺たちは魔女ハピレア、ルーンレイス、そして盗賊にされてしまったというジェシカ姫の情報を得るために王宮に来ていた――騎士団にも諜報部門があるので、何かわかるかもしれない、そういう期待を込めてここに来た。
ちなみにアゼルは戦士派遣協会の王都本部に行っていてここには来ていない――あいつには奪われた自分の体を取り戻すと言うもう一つの目的もあるからだ。
案内されたのは王宮のスミ、騎士や兵士たちの詰め所があるところだ。
「王様を見てみたかったな」
「無茶を言うな」
魔法学院に入学予定の12歳の少女二人と他国の公王族に仕えるメイドがおいそれと会えるほど、国王陛下は暇ではないだろう――
「そういやさ、私、王都に来たのは初めてなんだけど、王様ってどんな人なの?」
「うちの国の最高権力者ぐらい知っておけよ」
俺は少しあきれてアーニャを見る――まあ無理もないか。
彼女の父親はレグリーム伯爵の兵士というから、国内の貴族が王都に集まる記念祭事とかには付き添ったことがあるかもしれないが、母親は戦士派遣協会の職員だ。
公務で来ている父親に娘がついていくことはまずないし、戦士派遣協会の仕事を母親が休んで娘を王都に連れて行くというのもまず考えられない話だ。
「それに最近陛下は国内の視察も息子である王子たちにまかせて半場隠居状態だと聞いているしな」
実際に俺は陛下にも会ったことがある――魔法騎士として騎士叙勲を授けて下さったのは他ならぬ国王陛下だったのだから――
「それでも、王都で行われる重要な儀式には必ず国王陛下が参加されるし病気ってことはないはずだぞ。まぁ、リューフェス王子に子供でも産まれたらどうなるか分からないけどな」
リューフェス王子には正妻の他に何人も妾がいるそうだが、ついぞ懐妊の噂を聞いたことがない――
「え、でも第一王子様が結婚なされたのって二年ほど前でしょ? 近所のおばさんはこの間結婚七年目でやっと子供が出来たって喜んでたよ?」
「ジェシカ様がリューフェス王子の妾になられ、そして第一子をご懐妊なされれば、国母になられることも夢ではないのですね――」
アーニャとホリアはそれぞれ違った反応を示す――
「兄貴は、そういったことに関しては奥手なんだよ!」
「クイエト王子――」
やってきたクイエト王子――そして、
「あれ? シュレア王子?」
クイエト王子に続いて、この騎士の詰め所に入って来たのは第三王子のシュレア王子だった。
「――小兄殿から話は聞いていましたが、本当にこの幼き少女があの魔法騎士エルトなのですか?」
キリッとした態度で、丁寧にそういうシュレア王子。
「カッコイイ……」
隣で、アーニャがそう呟く……まあ、王子といっても軍人肌で一見粗野にも見える兄クイエト王子と比べて、魔法に明るく学者肌と言われているシュレア王子は、女の子が持つ理想の王子様のイメージに近い雰囲気を持つ――
「そういう小兄殿は、こういった幼女趣味があったのですか? 今まで軍事、戦いばかりで浮いた話は一つもないですからね」
あきれたように言うシュレア王子。そういえばクイエト王子にはこれまで結婚はおろか、婚約者がいたという話すら聞いたことがない。
「俺はいいんだよ。婚約者だのなんだのはめんどくさいだけだ。もしどこかで気に入った娘を見つければさらってくればいいだけの話だからな」
「「「…………」」」
その場にいた誰もがあきれてクイエト王子を見る。
「それに幼女趣味に関してはお前には言われたくないぞシュレア。お前の婚約者は確か、こいつらと同じくらいの年頃だろう?」
クイエト王子が俺とアーニャを指差して言う。
「あれは魔法協会の上の方から押し付けられた婚約者ですよ。私の趣味ではありません」
「そんなこと言わないでくださいまし! シュレア様!!」
バアン!!
突然、詰め所の扉が開かれ一人の少女が駆け込んでくる――今の俺、ニナと同じ位の女の子だ――
「これはこれは、ウルマ・シェル・ロックフォード公爵令嬢。こんな王宮の端に何の御用ですか?」
シュレア王子がウルマと呼ばれた少女にそう言ってくる。
「そんな言い方をしないでくださいまし、シュレア様――ウルマは婚約者としていつもあなたのそばにいたいのです――なのにいつもいつもどこかへ雲隠ればかりして――ウルマを心配させないでくださいまし!!」
「ねえ、エルト……公爵って、貴族の中では最高位なんだよね?」
アーニャが聞いてくる
「貴族のくらいは、上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵――その下には準男爵や騎士爵なんかもあるな」
「じゃあ、あのウルマって娘、レグリーム伯爵の娘であるニナより身分は上って事?」
「そうなるな……」
と、ウルマと呼ばれた娘が俺の方を見る――
「あ、あなたは!! ニナ!! レグリーム伯爵の娘、ニナね!!」
「――え? 知り合い?」
俺の記憶にはもちろんない。
レグリーム伯爵がニナを王都に連れて行ったときに会ったという可能性もあるが、俺はニナの記憶を持ってる訳じゃないのでわかるはずがない――
「二年前の事を忘れたとは言わせません!! 私の永遠のライバルニナ!!」
なんか、ややこしいことになっているような気がする――俺を指差すウルマの後ろで二人の王子が笑っていた――




