花の王都でファッションショー
『さて、みなさんお待ちかね!! ここ王都のファッションショップにて、ヴェルオーナー主催のファッションショーが開催されようとしております!!』
「って!! ヴェルがオーナーなのか!?」
レグリーム伯爵夫人やメイド姿のムヴエやトウカに引っ張られてきた王都ナンバーワンのファッションショップでいきなりそんな風なアナウンスが流れ俺は思いっきり叫んでいた!!
『その通りです!! ヴェルオーナーより連絡は来ています!! 今日の主役はニナちゃん、あなたです!!』
そのまま俺はスタッフに連れられて更衣室に引き込まれてしまう――
「さ、あなたたちも!」
「え、自分は!?」
「私も!?」
「俺もか?」
アゼルとアーニャ、そしてトウカもスタッフによって更衣室に連れていかれた。
「……私は?」
メイド姿で立つムヴエを連れて行こうとするスタッフは誰もいなかった――
『さぁ始めましょう!! 今日のトップバッターは!!』
「なぜこんな大きなステージがあるんだ? このファッションショップは……」
「それに観客も満員……」
どこから集められたのか、大量の男性たちと……何人かの女性たちがいっぱい入った観客席がステージのすそから見えた。
「よく見ると、見たことない服装の人もいるね……あの人たちがファッションショーをやればいいと思う」
「フフン、実はねえ、この世界じゃない人間たちもこのファッションショーの観客として来てもらっているよ」
「異世界人!?」
いや、確かにヴェルや師匠は異世界からきた人間……いや、魔王だと言われているのだから異世界の人間がいてもおかしくないだろう。
「異世界人……なんか、私たちとは違った能力を持った人たちみたいね……」
「よく見ると、メタリオム嬢が使っていた石板を持っている人たちもいるみたいですね……」
「あの持ってる小さな箱、ヴェルが前に使ってたやつだよな。という事は、あの観客たちも魔の物ってことか……」
確か、ヴェルはスマホとか言っていたか……確かあれは、魔力で箱の表面に現れる絵を操るものらしい……
はっきり言って俺にはちんぷんかんぷんなアイテムだ。それを使いこなしている人間が違う人間であるはずがない。
「この世界に異世界から人間をあんなに呼び込むなんて……お前はこの世界を侵略でもするつもりなのか?」
「違うよ。ただ単にこのファッションショーは私の趣味!」
俺の問いにそう答えるヴェル。
王都だろうとどこだろうと、有無を言わさず何もかも可能にしてしまう、魔王の魔法の言葉だ……
そんなものが出たら、ヒロイック小説とかじゃ主人公たちは全滅しそうだが……
「それじゃあ始めようか! レッツ・ショータイム!!」
華やかな音楽が流れ出し、会場は暗くなる――
『では、トップバッター……アーニャちゃんです!!』
「え? 私?」
「さあ、早く!!」
ヴェルがアーニャの背中を押す!
「き、きゃあ!!」
スポットライトがアーニャに降り注ぐ――
「「「「オオオオオオオオ!!!!」」」」
観客がざわめき出す――
『このたびの彼女のファッションは、なんとも可愛らしいファニードレス!!』
「あ……あう、あう……」
ステージの真ん中で顔を真っ赤にさせうろたえまくるアーニャ……
「クスクス……あれじゃダメね。ちゃんと自分とファッションをアピールしなきゃ……『影操』!」
クオン……
ほんの少しの魔力の気配とともにヴェルの影が形を変えステージの方向へと伸びていく――
暗闇の中ではわからないが、どうもアーニャの影に取り付いているらしい。
「あ。ひっ! あ、あれ? あれ? 体が、勝手に……」
大勢の視線の中、顔を真っ赤にさせ立ち尽くしていたアーニャが動き出す……
ステージを中央まで歩き、観客に自分を良く見せようとするような動きでくるりと一回転……
顔を赤らめながらも、笑顔になっている――
やがてアーニャは俺たちのステージのすそへと帰ってくる――
「うえええええん!!」
帰ってくるなり泣き出すアーニャ。しかし慰める間もなく、
「はい、次はこの衣装に着替えてね!!」
ヴェルが差し出した衣装をスタッフが受け取り、アーニャと共に更衣室へ連れていかれる――
「まだやるの~~!!」
アーニャの悲痛なが叫び声が耳に残る――
「さあ次はメタリオム、あなたの番よ。いつものパフォーマンスで観客を沸かせて来なさい!!」
そう言われてステージへとを押し出されるアゼル!!
「ちょ、ちょっと、自分は……」
『さぁお次は、このファッションショーのステージでも常連、メタリオムだ!! しかし今回はいつもと様子が違う!! 実は今の彼女の体には、別の精神が入っているのだ!!』
「「「「オオオオオオオオ!!!」」」」
観客たちの好奇の目がアゼルに向けられる――
『しかし、彼女の体に刻まれている幾度とないステージ経験が、いつものパフォーマンスを見せてくれる!!』
アナウンサーの声とともに勝手に動き出してるようなアゼルの体……ヴェルを見ると、アーニャの時のように操っているような雰囲気はない……
『さぁ、精神が違っても彼女パフォーマンスは変わらない見せてくれ、瞬間着替え!!』
「へ――」
自分の体の勝手な行動に戸惑っていたアゼルの表情が強張る――
そんな精神の戸惑いに関係なくステージ中央まで進んだアゼルはいきなり来ている服を脱ぎだした!!
「うわあああああ!!!」
真っ赤になり自分の体の勝手な行動を止めようとするアゼル――が、止まる事はない。
まあ、観客に裸を晒したのはほんの一瞬だけで、すぐさま別の衣装へとチェンジしていた――
「くう……なんか、ステージに出ると、体が勝手に動きはじめて……」
「まあ、その体はメタリオムの物だからね。あいつは何度もこのステージ出ていつものパフォーマンスをしているから、体がちゃんと覚えているのよ」
恐ろしい事を言い出すヴェル――
そう言われれば、そうなのかもしれない。いくら魂が、自分のものでも、体は他人のものなのだ……
「さ、次はいよいよ大本命、ニナちゃんの番だよ――!!」
そう言われて、俺はステージに押し出された……
『今回のファッションショー主催者ヴェルオーナー一番推しの美少女、ニナちゃんの登場です!!』
「「「「オオオオオオオオ!!!!」」」」
大歓声と、好奇心満載の多くの目――この体で、こんな服装で、自分は一体何をやっているのかとそう思ってしまう――
でも、アーニャにもかけられていたヴェルの魔法が俺にもかかっているのだろうか?
俺はステージをそつなくこなし、別の衣装へと着替えてまた次のステージへと……
ファッションショーは、俺の精神を置いてけぼりにし、ニナの体を晒し者にしながらどんどん進んでいった――




