あなたはニナじゃない!
「アーニャ!!」
完全に、油断だった――
下品男が使う虹色の防壁、レインボーカーテンでルールレイスを防げることがわかった。
それを使うことによって俺は自分と騎士たちを守った……
それを見て。わめき始める下品男――そっちに注意がいってしまっていた。
アーニャ、ウイス、好奇心旺盛な子供二人は、外で行われている戦闘に興味を示す――そして、魔女ハピレアの洗脳――つまり、俺こと、ニナの体を大切にするという命令も実行しようとしているのでなおさらのはずだ。
『マリョク……ヲチョウダイ……』
ルーンレイスは動き、今度はウイスを標的に選ぶ――
「やめろ!!」
俺はそう叫ぶと幼いニナの体を出来る限り全力で動かし、馬車のほうに戻ろうとする――
防御障壁の魔法だけあってレインボーカーテンの効果範囲は広い――まあ、あの下品男が持っていた宝玉では、自分一人を守るか、ルーンレイスの動く方向を変えるくらいの効果しかなかった。
だが、魔法に長けた人間が使うと、かなりの広範囲をカバーできる。が、馬車付近までは届いていなかった――
アーニャが倒れてしまい、ウイスも危険――いや、このままだと馬車に乗っているレグリーム伯爵夫人や、ヴェル、トウカやムヴエにまで被害が及ぶ――!!
「頑張ってるようね、ルーンレイス」
そんな呑気なことを言いながら、ヴェルが馬車から降りてくる。
と、その姿を見たらしいルーンレイスの動きが止まる――
『アナタハ……ヴェルバーンサマ!?』
明らかに動揺したように、ルーンレイスは震え出す……なんだ? ヴェルの事を知っているのか!?
「どうして、ここにいるのかな? あなたは確かメタリオムの管理下にあったはずだけど?」
『ヴェルバーンサマ……ワタシハマリョクヲ……アツメナイトイケナイ……ソウシナイト、ワタシハキエテシマウ……」
「そのために、あなたには三日に一回、魔力補給があったはずだよ? それになんで解放されてるの――さらに言うなら、解放されてからかなりの人間の魔力を奪っているわね。だから、今のもあなたの魔力値はかなり高い――」
ヴェルが、ルーンレイスを見下しながらいう。
「でも私や、ニナちゃんほどじゃ無いけどね――」
『ウ、ウ、ウ……イヤ、イヤ、イヤ~~~~!!』
バシュゥゥゥゥゥン!!
ルーンレイスが今までにないほど甲高い声を上げ、天高く舞い上がる!!
「――!?」
そしてあらぬ方向へ飛び去ってゆく!!
「……高速飛翔……あれ長時間続けたら、かなりの魔力を消費しちゃうでしょうに……」
それを見ながら、そうつぶやくヴェル――
「おい、お前……やっぱりなんか知っているだろう?」
やっと馬車の近くまで来た俺は、ヴェルをにらみながらそう言う。
「ヒ・ミ・ツ♪」
口に人差し指をあて、そう言うヴェル……怪しさ、全開である。
「ふざけるな、絶対に全て話してもらうぞ!!」
「秘密は女のアクセサリーだよ。ニナちゃんも女の子なんだからそういったアクセサリーを身につけなきゃ!」
そんなもの、身に付けるつもりはない!!
「おいごらぁ!! 逃げんなぁ!!」
そんな時、背後から叫び声が聞こえる。
下品男、名前、なんだっけ? からだ――
「お前はこのイルダ・イセリアーナ・イライザーダ様の金づるなんだぞ!! 戻って来い!!」
下品男がそう叫ぶとルーンレイスの去っていった方向へ走り出す!!
「あ、そいつ捕まえろ! どうせ犯罪者だ!」
俺の声に、騎士たちが動き出す。が、
「おいこら奴隷ども、俺を守りやがれ!!」
下品男がそう叫ぶといやいや渋々、奴隷たちが動き出す――
騎士たちが奴隷たちに阻まれ、下品男の逃亡を許してしまう!!
奴隷たちは、設定された主人に逆らえないよう、服従の魔法をかけられている――
「クイエト王子!! 奴隷たちの服従の魔法を解除できる!?」
「可能だ!!」
この国の奴隷はほとんどが犯罪奴隷――犯罪者に対し罰を与えるのは王家の役割、だから奴隷に与える服従の魔法は王家の管理――
王族であるクイエト王子が解呪法を知っていておかしくは無い。
「奴隷たちの服従魔法の解呪――そして、あの男の情報を聞き出せ。特に、あの虹色の障壁、レインボーカーテンを発現させる石について知ってることがあれば聞いてくれ!!」
俺はそう、支持する――俺の洗脳の魔法が効いているため、俺の指示があると騎士たちはそれを優先する――
十二歳の女の子に支持される王国の王子と騎士たち……なんか、とんでもない絵面のような気がする――
とりあえず、それよりも問題はアーニャだ……!!
「うう、王国め!! 王国め!!」
「なぜ、なぜ、なぜ!!」
「ぐあああああ、我が国が、ジュッテングが……」
ルーンレイスに魔力を奪われた元ジュッテングの兵隊たちは苦しんでいる――
「ルーンレイスに襲われた人間は、皆訳のわからない叫び声をあげてのたうちまわっているらしい……弟、ドレッグもピーマン、ピーマンなどと言う叫びをあげている……」
クイエト王子がそう言う――
「つまり、アーニャも……」
俺は自分と同じ体格のアーニャを抱きかかえる!
「アーニャ、大丈夫か!? しっかりしろ!!」
ゆさゆさ……とりあえずゆすってみる……
「う……?」
アーニャは、かすかに目を開ける――
「だいじょぶか!?」
アーニャも、あの兵たちと同じように、何か変なこと言いながら叫び出すのだろうか? もし暴れるようならそれなりに対処しなければいけない――
パン……!
「………?」
何かを叩く音が聞こえたと思った――軽い音だがすぐ近くで聞こえた。
それと同時に、ほんの少し痛みが走る俺の左頬……
「え?」
俺は慌てて、アーニャに向き直る――アーニャは、涙をためて目でこちらを睨みつけていた。しっかりと、意思のこもった瞳で――
そして、アーニャは口を開いた――
「あなたはニナじゃない! あなた一体、だれ!?」




