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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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街道での襲撃-2

「襲撃、だって!?」


 俺は、慌てて馬車から飛び出る――


「な、何? どうしたの、ニナお嬢ちゃん?」

「あ、アーニャちゃんおはよう!」

 出口のそばで眠っていたアーニャにちょっとぶつかって起こしてしまったらしい――

「うん、ニナ……」

 レグリーム伯爵夫人も目を覚ます。


 ウイス、トウカ、ムヴエはまだ眠っている――


 馬車から飛び出した俺は、クイエト王子の騎士団と相対している軍勢の旗印を見る――

「あの旗印は……まさか、ジュッテングのドリチ公爵じゃないか!? 一年前の戦争の際、わざわざ精鋭を割いてまで僻地に封じ込め、その間に首都陥落をおこなった、ジュッテング方の名将じゃないか――」


 だが、様子がおかしい。ドリチ公爵はどんな状況でも一気呵成に適切な攻撃を仕掛ける男だと聞いている――なのに、戦場は沈黙している。


「クイエト王子、何が起こっている!?」

 俺はクイエト王子のもとへ駆け寄る――幼い、ニナの体のままでそれは無謀な行為だったが……俺は王国の騎士として動いてしまった。


「ああ、エルトか……あれを見ろ」


 クイエト王子が敵軍の方を指差す――


 ドリチ公爵の軍勢は、皆、何かに怯え苦しんでるようだ――


「祖国が、祖国が――!!」

「父よ、母よ~~!!」

「おのれ、王国めぇ!!」

「くくくああ!! なぜだ!! なぜだぁ!!」

「やめてくれぇ!!」


「これは……」


 グリュン……


「――――!?」


『マリョク……マリョク……』


 敵陣の中から何者かが――出てくる――


「……人間じゃない……何だあれは?」

「あれは!? まさか……!?」


 人の……女性の形をしているが、人では無い。ラムグリーン色の震える輪郭を持つ謎の存在――


「ルーンレイス!」

「何!?」


 クイエト王子が叫ぶ――


「あれが、ルーンレイス!?」




「おやおや~~、あそこに見えるお嬢ちゃんはまさか、レグリーム伯爵令嬢か……? これはこれはやはり俺様は世界一の大金持ちになる運命なんだなぁ、げへらげら~~!!」


 敵陣の向こう側に、何人かの粗末な服を着た男を従えた、下品が服を着たような男がそう叫んでいる――


「さあ、伯爵令嬢ちゃん、この未来に世界一の大金持ちになる男、イルダ・イセリアーナ・イライザーダが、怪物、ルーンレイスから君を守りにきてやったよ! 君のお父さんから謝礼金をがっぽりもらうために俺と一緒にくるんだ!!」


 下品男が俺を見てそう叫んでくる!!


「さあ行け、ルーンレイス!! 王子の軍勢を倒し、伯爵令嬢も俺を下に連れて来い!!」


『マリョク……ヲアツメナキャ……』


 ゆらあ……


 ルーンレイス……クイエト王子の弟、ドレッグ王子とその学友たちを襲ったと言う王都に現れた怪物――それが今、王国軍と相対していた亡国の軍勢の中にいる――


『マリョク……』


 ゆらりと、ルーンレイスが動く――


「おいこら、そっちじゃねえ!!」


 下品男が手に持った宝玉をかざすと、ルーンレイスの前に虹色の壁が現れる――

 それがルーンレイスの行く手をはばみ誘導する。


「おいおい、あいつがルーンレイスを操っているじゃないか?」


「いけぇ! ルーンレイス!! お前に襲われ伯爵令嬢を俺が助けるんだ!!」


「自作自演、最低な男だな」


 俺は呆然とつぶやいた――


 ……………


 ゆらゆら揺れながらルーンレイスはこちらにやってくる――


「げへらげら~~!! げへらげら~~!!」


 下品男が楽しそうに笑っている。


「クイエト王子の騎士団の装備品かぁ!! 闇でうっぱらったら、いくらになるかなぁ? げへらげら~~!!」


 最低な男だ。

 それは今、自分が女の体だから思うことじゃない――男の体であったとしても俺はそう思っているのだろう――




「イケイケ、ルーンレイス!!」


 下品男が宝玉を振り回し光の壁をルーンレイスの周りに出現させる――それによって、ルーンレイスのいく方向を決定させる!!


 真っ直ぐ俺達の方向へ――!!


「げへらげら~~!! クイエト王子の方も助けておけば王家から謝礼金がもらえるかなぁ!!」


 馬鹿笑いをしている下品男――あいつの失敗は、俺にルーンレイスを拒むあの光の魔法を何度も見せたこと!!


「『虹の障壁よ……レインボーカーテン』!!」


 キイン――!!


 虹色の壁が俺やクイエト王子、騎士たちを覆い、ルーンレイスの接近を阻む――


「なんじゃぁ!?」

 下品男が叫ぶ!!


「レインボーカーテン、多数の属性を防御できる、高位魔法障壁――か。お前みたいな馬鹿がどうやってこんなものを手に入れたのか知らないが、その何度も見せられたら、どういうものかはわかってしまう。なんたってこの体の中にはヴェルによって放り込まれた魔法の知識と言う奴があるんだからな!」


 俺は堂々と言い放つ!


「げへらげら~~!! そんなの予定無いぞ!! 伯爵令嬢ちゃん、きみはルーンレイスに襲われて、俺は保護する!! そして俺はレグリーム伯爵から多大な謝礼金をもらう!! それが俺の予定だ!!」


「馬鹿なんだなあいつは……冗談はあの下品な顔だけにして欲しい」


 俺はあきれて下品男を眺める――


「クイエト王子、あいつ捕らえちゃいましょ。なんか頭いたくなってきた――」


「よし、とりあえずドリチ公爵は後回しだ! あの顔面変態男を捕らえろ!!」

 クイエト王子が騎士たちに指令を出す!!


「げへらげら~~!! そうはいくか!! 俺は世界一の大金持ちになる男、イルダ・イセリアーナ・イライザーダだぞ!!」


 何故か、下品男名前を何度聞いても全然覚えることができない――とりあえず、悪人みたいだから、捕まえてだいじょぶだろう。でも、悲惨なほど下品な顔をしている奴が、罪人奴隷として売り出されても誰も買わないだろうな……


「きゃああああああああああ!!」


「――!?」


 俺の後方で、悲鳴が上がる――


『マリョク……マリョク……』


「何!!」


 油断していた――全く状況がわかっていなかった――振り返った俺が見たのは、ルーンレイスに襲われて倒れた、アーニャの姿だった――――――

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