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見てくれ『だけ』を魔女に惚れられて  作者: すしひといちなし
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王都からの使者

 ガラガラガラガラ!!


 一台の馬車がレグリーム伯爵領の領都に入って来た――その連絡が、ニナの父、レグリーム伯爵に伝えられた。


「王家の紋章か……」


 俺――ニナの体を膝の上に乗せたまま、レグリーム伯爵が言う……


「何か問題でもあったか?」


 あんたを含め、街の人間ほぼ全員が魔女の暗示にかかっていることが、大問題だ!! ――俺がその言葉を飲み込んだ。


 あの誘拐未遂事件の後、俺は、


『俺の魂が入ったニナの体を大切にする』


 という命令を忠実に実行し、常にどちらかがそばにいるようになってしまった――


 愛娘を膝の上に載せて政務をする領主――一見微笑ましいが、その愛娘の中味が俺だと……


「物凄く複雑な気分だ……」


 多分、今の俺の顔はおよそ12歳の純真な少女の物とはかけ離れていただろう。

「あなた、王都から使者が来るならニナはこちらで面倒を見ますわ」


 伯爵夫人が俺を伯爵から受け取ろうとする。


 レグリーム伯爵は地方領主だ。

 伯爵と言う地位にいながら国政には関わらない――

 だからといって中央をないがしろにしていないというわけではない――


 魔法による相互通信で、中央とコンタクトを取り、王命や中央貴族と話し合って政治を行う――それによって、領地を持つ貴族は領地の運営と国家を中心とした政を同時に行う。国王、貴族といえど神では無い――領民と同じ人間なのだ――民と接し、民と同じ立場で政治を行わなければ、すぐさま反乱や革命が起こるだろう――すくなくとも、この国の王家と貴族はそれをわかっている――

 戦乱、混乱、侵略、防衛――数多の暗い歴史が、こういった政治システムを作り出した――


 これは、この国だけで、他国では中央集権制や絶対王政を未だに続けている国家もあるという――


 だから、どうしても必要な時以外、王都から……しかも王家から使者なんて、ありえる物では無い――


「わかった、サラ。ニナをよろしく頼む――」

「はあ、さっさと降ろしてくれ――何が悲しくて他人のおっさんの膝の上に座らせられなきゃいけないんだ?」

「どうしたのかなニナちゃん? パパにもっと抱っこして欲しいのかな? ニナ、パパとず~~っとこうしていたいのとか? パパ、ニナを離さないでとか?」

「んなわけないだろ!!」


 俺は、怒気を込めて言うが、レグリーム伯爵夫妻には通じていない。


「ほら、ニナ。お父様と離れるのは嫌かもしれないけど、次はお母様とお着替えをしましょう。かわいいお洋服がいっぱいあるわよ」

「お着替え!? なら私も参加させてもらうわ――!!」


 どこから話を聞いていたのか、いきなり乱入してくるヴェル――この魔女は、本当に油断ならない――!!


「伯爵夫人、このヴェルがニナちゃんためにものすごく多くのかわいい衣服を用意させていただきました!!」

「あら、ありがとう!」

 このままじゃ、この二人に着せ替え人形にされてしまう!!

「くそ!! なんとか逃げないと……!!」

 俺は、夫人に引き渡される前にどうにか伯爵の膝の上から逃れようとする――

「ほらほら、ニナも早くかわいいお洋服が着たくて急いでるぞ。早くこの子の部屋へ連れて行ってあげなさい」


「違う!!」


「あらニナ、そんなに慌てなくても、王都かの使者がこのヴェルさんのように突然乱入してくるなんてありえませんわ」


 夫人はのんびりと言う。

 だが、誰がそんなに早く着せ替え人形になりたいと思うか!? 俺は隙を見て逃げ出す算段を整えているだけだ!!


「邪魔させてもらうぜ!!」


 その時、大きく響く声が、領主の執務室の扉を開けて入って来た――


「「「――!?」」」


「なんだ、家族会議中か? 大切な領地運営の途中に妻や子供とほのぼのしているなんて真面目なイマト・ユゥ・レグリーム伯爵殿とは思えないな」


 何人かの騎士を連れてズカズカと領主の館に入ってきたのは――


「クイエト王子!!」


 俺は、つい叫んでしまっていた。




 クイエト・セム・ド・カイルザード――現王の次男にて、国軍の将軍の地位にいる豪快な男――


「おや? 俺様はお嬢ちゃんとは初対面だと思うが? ニナ・メゥ・レグリーム伯爵令嬢」


 王子とは思えない乱暴な声でそう言うクイエト王子――だが俺は……ニナではない……俺、エルトはこの人の事をよく知っている――!!


「クイエト王子!! 俺です、俺!!」

「ちょっと、ニナちゃん」

「ニナ、そんな言葉使いしてはいけませんよ」


 レグリーム伯爵夫人とヴェルが俺を抑えようとする――が、


「くっ……仕方ない『風よ! うずままけ! スピンウィンド』!!」


 グオン!!


 俺の起こした風の魔法が二人を……いや……


「きゃ!」


「ちょっと、ニナちゃん何やってるの!?」


 レグリーム伯爵夫人のほうは俺から手を離し尻餅をつく。が、ヴェルのほうは手を突き出しただけで俺の魔法を完全に抑えていた――


「こらこら、親を魔法で吹き飛ばすなんて悪い子だなぁ。それに、なんでその年で魔法が使えるんだ?」


 クイエト王子が俺を睨み付ける――だが、


「王子、俺です、エルトです!!」


 俺は王子向かって思いっきり叫んでいた!!


「はあ? えると? 何言ってるんだ君は?」


 王子は腰に手を当てて俺を上から見下ろす――


「騎士ごっこをしているのか? ここは君のお父さんの仕事場だろ? 遊ぶのならば他の場所で、お友達と遊びなさい」


 小さい子に……現に今俺は12歳の少女の体だが……言うように、王子は言う――


 だが、俺には千載一遇でめぐってきたチャンスだ――

 王子に信じてもらえれば、王都に行ってエルライア師匠の協力を得ることだって可能かもしれない――だから……


「『刻み付けよ――ナイトエンブレム』!! 絶対の忠誠の証をあなたに!!」


 ポウ!!


「俺はアルトム家が長、ナエスク・デア・アルトムが次子、エルト・ユティ・アルムト。このたび、国王陛下より魔法騎士叙勲を賜った事誠に光栄であります――これから先陛下に絶対の忠誠を誓い国家繁栄のために微力ながら力を尽くす所存であります――」


 国王陛下より魔法騎士としてその叙勲式に、このクイエト王子や嫡男のリューフェス王子、三男のシュレア王子も、そこにいた――だからこそ、この誓いの紋章と宣誓の言葉は知っているはず――


「ハハハ、うまいなぁお嬢ちゃん。どこでそんな言葉や魔法覚えたんだ?」

「まだ信じないのか?」


 クイエト王子は俺の同期でもある――魔法学院に通っていた時は、あるあだ名で呼ばれていた――


「ミスター・ヘラクレス!!」


「――!?」


 そのあだ名で呼んだ時、明らかにクイエト王子の顔色が変わる――


「……なぜそれを知っている? ミスター・ヘラクレス……古の英雄を俺様と同じものと捉えたかの名――久しく呼ばれたことがないゆえ知っている者は、俺様の昔からの友人のみ――お嬢ちゃんが知っている可能性は……」


「俺はあなたを昔から知っている――俺はエルトだ!!」

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