魔女っ娘、堂々推参!!
「おめえら! この魔女をぶっ倒せ!!」
魔女というのは危険な存在だ――それは、俺達に魔女ハピレアの討伐依頼があったことからもわかる――
「え~~、世間に顔向けできない盗賊なんて職業に就いている人たちなんかに言われたくないな~~」
ヴェルはとことんマイペースに言う。
「う、うるせえ!! おい、お前ら!! 全員でかかるぞ!! 魔法さえ使わせなきゃ、魔女だって恐れる必要はねぇ!!」
「「「おう!!」」」
よくまとまっている――この首領格の男が全体の指揮をとっているからこそ、この盗賊共はまとまっているんだろう――逆に言えば、この男さえ、倒してしまえば……!!
「『稲妻よ! 来たれ! サンダーアロー』!!」
ズガガガガン!!
それを確信した俺は、間髪入れずに魔法を放った!
「「「な、なにぃ!!」」」
盗賊共は、俺が見張りを氷の魔法で倒したところを見ていたはずだ――しかし、ヴェルという女の異様さにそれを忘れていた――
「ヘェ~~! やるじゃん、ニナちゃん」
「だから俺はエルトだ!」
「お、お頭ぁ!!」
首領格を倒された盗賊共が慌てふためく――
「『炎と踊れ!! ファイアダンス』!!」
ゴオオオオオオオオオオ!!!!
炎の魔法が盗賊の内二人ほど、巻き込む!!
「もう少し巻き込むつもりだったが……」
ニナの体でどれだけの魔法が使えるか、わからない――サンダーソードやサンダーアロー、ファイアダンスなどの威力を見る限り、エルトの体――俺の本来の体であった時と威力は変わっていない。だが、魔力の量はどうだ? 何発の魔法を放つことができるんだ……?
「かっこいいね! ニナちゃん、でもその格好じゃあ魅力半減かなぁ」
ヴェルが俺の隣で不満そうに言ってくる。
「何のことだ?」
「こうしたら、いいんだよ!!」
ヴェルが右手を俺に向ける。
「な――!?」
ポポン!
可愛らしい音が鳴り響き、俺の全体が煙に包まれる――
「な、何?」
煙の中で、俺は自分の着ていた服の感覚がすべてなくなってしまったのを知覚する――ってことは、俺は今煙の中で一糸まとわぬ素っ裸になっているってことか!?
「なんだよ一体!?」
俺は慌てて股間を抑える――いや、今は女の子体なんだから抑えなきゃいけないのは両胸か!?
「くそ、どうなっている!?」
これは、ニナと言う女の子の体だ! だから素っ裸を晒して恥をかくのはニナということになる……俺、エルト自身は恥にはならない……って、そんなことを考えていいわけないだろ!!
「何か、身に付けるものは……!?」
俺は焦って煙の中で手を振り回す――!!
と、その煙が俺の体に纏わりついてくる……!?
「え―――――?」
煙は俺の体に張り付いていく――それは全体では無い、要所要所だ。
「……!?」
煙の感覚が変化していく――頼りない気体からちゃんとした硬さを持った個体へと――
シュルン♪
「ひくんっ!」
煙が変化した俺の体を包むものは、ゆったりとした服のようなものだったが、何箇所かはピッチリと俺の体に張り付いてきた――
下半身が完全に何かに包まれて感じがする……腰のあたりからつま先まで一つの布で覆われている見たいだ。股間の敏感な部分やお尻は柔らかくも安心できるようなものを身につけているような……それは、たぶん女性用下着なのだろう。なんていったっけ? ……ど忘れしている。
いや、本当にど忘れしているだけだからな! パン何とか言う、男性用下着によく似た名前の女性用下着を俺も身につけされている。自分が身につけている下着の名前を忘れるなんてと思うかもしれないが、俺は本当に、忘れているのだ!!
て、思考がそれた――
いやいや、とりあえず俺が身につけている女性用下着のことなんてどうでもいい――第一、ヴェルの出した煙に包まれた瞬間、それも消え失せている……新たにそこを覆ったのは、以前身に付けていた女性用下着よりも数段着心地の良い――女性用下着、だと思う……
それよりも、胸だ――煙が変化していてものは、上半身をゆったりと包みこんでいるという感覚なのだが、胸のあたりだけは、優しく包み込むように……それでいて、力強く持ち上げてくれている様な……
そのおかげで、胸の形がいつもよりくっきりしているように感じる――
それを意識した時、俺の顔の温度はまた一段、上昇した――
そして、煙は形をどんどん整えていく――
胸元には何か紋章だろうか? キラキラと輝く飾りが出現する。どこの職人の作品だろうか? 重厚な色合いを持ちながら、まったく重さを感じられない――
そこから男の俺から見ても絶妙な感じにフリルがついた、可愛らしいピンク色の衣服が俺の体を包む――
それとセットな色合いの短いスカートが俺の腰のあたりに出現している。
足元の感覚も変わってるのは、靴を履いてるから……それも、今まで履いたことがあるどんな靴よりも履き心地が良い靴のようだ。
自分の体を見下ろしている状態だから、俺自身はどのような状態かわからない。
レグリーム伯爵家には、高価なでかい鏡があったはずだから、写して見てみたいという誘惑に駆られる。
耳元に、かすかな重みを感じる――貴族の夫人や令嬢が耳につけているイヤリングとか言うものが、ついているのか?
髪の毛にも違和感がある――髪型は変わってないと思うが、耳や胸元と同じように何かしらのアクセサリーがついているのか?
俺は、体を包み込むとろけるような気持ちよさに一瞬意識を手放しかけた……
が……
「ちょっと、待てぇ!!」
俺は、思いっきり叫ぶ――!!
「見よ! この可愛らしさを!! 魔王の紋章を胸に抱き、ピンクの魔法少女の衣服を身につけた可愛らしい乙女!! その髪を飾るは翡翠の散りばめたヘアバンド、両耳を彩るは星屑のイヤリング!! すべてはこのヴェルがコーディネートしたうるわしき最高傑作!! 刮目せよ!! そして皆に伝えよ!!」
朗々と、ヴェルが歌うように言う。
「魔女っ娘ニナちゃん、ここに堂々推参!!」
「なんだそりゃ!!」
俺はその可愛らしい格好のまま大声で叫んだ!!




