84.ためにならん
遠見で、咲耶の戦いを観戦する、俺。
「ぜえぇえええええええええええいい!」
「甘いわぁああああああああああああああああああ!」
咲耶の魔剣を、贄川の槍が受け止める。
と思ったら、贄川はぐるん、と槍を回転させる。
円運動を応用した、防御術だ。
敵の攻撃を受けるのではなく、いなす動き。
咲耶は真正面から攻撃を叩き込み、そのまま押し潰そうとした。
が、贄川によって力のベクトルをずらされる。
結果、咲耶は体勢を崩してしまう。
「もらったわぁ……!!!!!」
贄川は凶悪な笑みを浮かべると、槍を短く持ち、穂先で突く。
狙いは、咲耶の延髄。すなわち急所だ。……おい、ふざけんな。
「ぶげあぁあああああああああああああああああああああああああ!」
『贄川が吹っ飛んでいくのー』
贄川は背後にぶっ飛んで、壁に激突する。
「な、なんやの……い、い、今の……」
「……お兄ちゃん?」
あ、やべ。後方で見守ろうと思っていたんだが。
『妹を殺す動きをされて、つい怒ってしまった。結果、その怒りの波動が魔力とともに発せられ、贄川をぶっ飛ばしてしまったわけじゃな』
……魔王は今のやりとりを完全に見抜いていたらしい。
いかんいかん。
じゃれ合いで、心を乱してしまった。まだまだ、俺も未熟だな。
『大事な妹が殺されそうになって、怒らないほうがどうかしておる』
そうか……そうだよなぁ。
「……お兄ちゃん、手出し無用って、言ったのに……」
むすっ、としながら咲耶がつぶやく。
そして……壁に埋まった贄川を見やる。
「……な、なんや……い、今の……とんでもない……一撃……。まさか……命懸けの、究極の……一撃……なん……?」
咲耶は呆れたようにため息をつく。
「今のは……うちのシスコン兄貴が、ちょびっと怒っただけだよ、贄川さん」
「……信じ、られへん……。怒っただけで……この、パワー……。なんや、い、いったい……なんなん? あんたの……お兄ちゃん……」
「そんなの、言わなくてもわかるでしょ? 化け物だよ」
ガクンッ、と贄川は意識を失う。あちゃー。
しまったー。
『結局、主がやっつけてしまったのう』
「うーむ、妹のためにならんことをしてしまった。反省」
【おしらせ】
※12/5
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