81.関西の女・贄川
新宿地下。遠見の魔法で、妹が妖刀使いと戦う姿を見ている。
「あなたは……贄川さん」
……贄川……?
『この水の妖刀使いの名じゃろうな』
なるほど……。
槍の形をした妖刀を、手に持った女……。
それが、贄川らしい。
「久しぶりどすなぁ。裏切り者さん♡」
はんなりとした、京都弁か。
贄川さんとやらは。
改めて、贄川を見やる。
背は高い。すらっとした体つき。
青い和服に羽織り。そして……長槍を手に持っている。
目は細く……まるで、狐のようだ。
まあ美人だが……裏切り者だと?
「……どういうことですか、贄川さん」
「それはこっちの台詞え♡ 妖刀使いのくせに、悪魔側につくやなんてなぁ~」
「……悪魔?」
悪魔……。悪魔だって?
「そんな敵いたかなぁ?」
『……勇者よ。文脈から察するに、おそらくは主のことじゃろうな』
と、魔王が見解を述べる。いやいや。
「何を言ってるんすか、魔王さん。悪魔っていうのは、多分異世界からやってきた新しい脅威の……」
「悪魔いうたら、咲耶ちゃんのお兄さんのことに決まってますやろ♡」
…………。俺のことでした……。
『まあ、異世界から来た新しい脅威という点は間違っておらんがの』
……ぐっ。
咲耶が贄川を睨みつける。
「お兄ちゃんは、悪魔じゃあないです」
「あー、そうなんやねぇ。なるほどなぁ……。妖術総監部を潰しはったのに?」
「そ、それは……! 妖術総監部が、妖魔どもの手に落ちていたから!」
「へえー……なるほどねぇ。そうかそうかぁ」
……贄川の野郎、全く信じてねえな。
「悪いんやけど、咲耶ちゃん、ももかちゃん、そんで玉姫ちゃんの三人は、うちら残りの妖刀使いで討つようにと……命令が下っとりますのえ」
「!? 残り全員で……私たちを?」
「ええ。正確に言えば、あんたら三人プラス悪魔を討ち滅ぼせ、てな」
「……一体誰がそんなことを。総監部はもうないのに」
「関西・妖術総監部の決定どす」
……関西・総監部?
え、総監部って関西にもあるのか……?
『みたいじゃな。そういえば妖魔が出るのは、東京、長野、京都と言っておった。京都の管理を行うのが関西支部、東京・長野は関東支部が取り仕切る……みたいなものなのではないかの』
……魔王の考察は、当たってるような気がした。あとで、咲耶に確かめるけども。
しかしあの狂った組織が、まだ残っていたとは……。
「今まで関東の総監部が、長野・東京をまとめてるからいうて、威張ってはりましたけど、それももう滅びましたやろ? せやから、今後は関西の総監部が仕切らせてもらいます♡ で、総監部は、霧ヶ峰 悠仁を抹殺せよ、いうのが今の大方針なんよ」
なるほどなー。
「俺、好かれてるなー」
『大人気者のぅ』
妖術師連中から命を狙われようが、俺は別に危機感を覚えない。
あいつら、全員雑魚だしなー。
「……お兄ちゃんを、殺させはしない」
咲耶は魔剣を、贄川に向ける。
「え、咲耶ちゃん……もしかして悪魔側につく気ぃなん? こっちは九人おるんよ? 阿呆なん?」
「……馬鹿はそっち。こっちには、お兄ちゃんが……霧ヶ峰 悠仁がいるんだよ?」
咲耶は不敵に笑う。
「負けるのは、そっち。降伏するほうが賢明。それがわからない貴方たちは……ちょっとおつむが足りてないんじゃあない?」
「……忠告は、しましたえ」




