71.悲しきモンスター
うちに玉姫とももかが遊びに来た。
「……遊びじゃあないでしょ」
「え、そう?」
俺んちのリビングに、みんなそろっている。
んで、テーブルの上にはカセットコンロ。
そして……肉。
今日はすき焼きなのだ。
「あんたんちって貧乏なんじゃなかったんだっけ? あいたっ」
ももかの頭を、玉姫がはたく。
「失礼だろうが」
「純粋に疑問を口に出しただけだし……。殴ることないでしょっ?」
「それでも、失礼だろうが。全くもう……」
玉姫にはたかれて、ももかがブーッと頬を膨らませる。
「……まあ、お兄ちゃんのおかげで、今潤ってるから」
「悠仁の?」
ぴくぴくっ、と咲耶のこめかみが動く。どうしたんだろ……。
「……ええ」
「そうか。悠仁は凄いんだな。まだ高校生なのに、家計を支えて」
「あの……玉姫さん」
「ん? なんだい、咲耶ちゃん」
マイシスターが、じろりと玉姫をにらみつけて尋ねる。
「……なんで、お兄ちゃんのこと悠仁って呼ぶの? 嫌ってたんじゃあなかったの?」
「え!? え、えっと……べ、別にっ、その、き、嫌いだし!」
「……じゃあなんで悠仁なんて下の名前で呼んでるの?」
「そ、それは……ほ、ほら! 霧ヶ峰だと、咲耶ちゃんとかぶるだろっ? うんうん、そういうことさっ」
なるほど、そういうことだったのか。
「……お兄ちゃん、ちょっと」
咲耶が立ち上がり、俺のそばへとやってくる。
俺の腕を引っ張ってきた。殺気を感じなかったので、避けなかった。
ぐいぐい、と咲耶が俺を引っ張って、部屋の外へ。
「……いつの間にこんなに仲良くなってるの?」
「さあ……」
「……さぁって」
「なんか知らんが、知らん間にこうなってた。あとうちに転校してきてたぞ」
「はぁ……!?」
ぎょっ、と咲耶が目をむく。
あれ……?
「咲耶……知らなかったのか?」
「……知らないわっ。え、いつの間に……?」
「今日」
「今日!?」
そーいや、玉姫は俺らの一個上だからな。学年が違うため教室が異なる。
だから、玉姫が転校してきたことを、咲耶は知らなかったんだろう。
上級生の転校事情なんて普通知らんもんな。
咲耶が「信じられない……」とつぶやく。
「いや、マジなんだって。嘘じゃあないよ」
「……そういうことを言ってるんじゃあないっ」
じゃあどういうこと言ってるのん……?
咲耶は部屋の中へと戻る。そして、玉姫の前に仁立ちする。
「玉姫さん。うちに転校してきたの?」
「え!? そうなの!?」
とももかも驚いてる。どうやら情報は共有されていなかったらしい。
すると、玉姫は気まずそうに目をそらす。
「まあ」
「……なんでうちにきたの?」
「た、偶々だよ。偶々。別に他意は無いし」
「……嘘でしょ」
ぎろり、と咲耶が玉姫を静かににらみつける。
「……お兄ちゃんが居るからでしょ?」
「あ、いや……別にそういうわけじゃ……」
「そうなんでしょ?」
「……あ、あの……」
なんかすげえ困ってるなぁ、玉姫。
「我が妹よ。なんでそんな問い詰めるようなことをするのん?」
「黙れ」
「きゃいーん」
こわいよぉ。妹が怖いよぉ~。
「別にいいじゃあないのよ。ゆーじが居るとこに、玉姫が引っ越してきても」
「良くないわよ」
「どーして?」
「そ、それは……」
玉姫がたじろぐ。
そうだよなぁ。
「なんで良くないんだよ。戦力が多い方がよくない? 東京に妖魔が出るんだしさ」
「そうそう!」
と玉姫が何度もうなずく。ほら、やっぱそういうことなんじゃん。
すると咲耶は歯ぎしりしたあと、部屋を出て行ってしまった。
「ばかっ」
「えー……」
去り際、俺を罵倒していった……。どうしてオコなのぉ?
「お兄ちゃん何自分から女増やしてるのよ。咲耶が一人居ればいいでしょ。なんでそんないっぱい女の子囲うようなことするの。ばかばかばか、お兄ちゃんのばか」
「え、なんだって?」
「うるさいバカお兄ちゃん!」
完全に咲耶の気配が消えてしまった。
バカバカって言うわりに、殺気がまるで感じられなかった。
俺を殺したいとは思っていないらしい。
だが、じゃあどうしてあんなに怒ってるのかわからん……。
『殺意に敏感になりすぎた結果……それ以外わからぬとは。……魔物よりも悲しきモンスターと成り果ててしまったのぅ、勇者よ』




