70.怒ってるやん
そんなこんなで、玉姫がうちに転校してきたのだった。
「くあー……ねむ……」
夜、俺は自宅でゴロゴロしていた。
いつもなら、夜の妖魔討伐に向かうんだけど……。
「なんじゃ、勇者よ。暇そうじゃのう」
人間姿の魔王アンラ・マンユが、俺の前に現れる。
「まあね」
「くく……妖魔どもは魔剣使いたちが相手しておるからのぅ」
魔剣使いとなった妹の咲耶、同級生のももかに加え、そして今は玉姫も参加して、東京の妖魔を倒してるんだそうだ。
さらに、ももかの式神たちも加わり、今まで以上に効率よく妖魔を倒せているらしい。
よって、俺(兄ちゃん)の出番はないってわけだ。
「暇は嫌いか?」
「まさか。暇さいこー。暇人ばんざい」
俺が望むのは平穏な生活だからね。
「はー、こんな平和な日々が毎日つづけばいいのに~」
「それは難しいのでは? 近く、妖刀集会があるんじゃろうて」
「あー……それもあったね」
なんでも、日本の妖刀使い達が近く集まるらしい。
議題は、妖術総監部をぶっ潰した俺について、だとか。
「みんな玉姫みたいに、話せばわかる連中だと助かるんだけどねー」
「難しいじゃろうな。おぬしは、組織を一つ潰したしのう」
まあでも、総監部連中は逆異世界転生者に乗っ取られてたんだけどね。
……あ、そうだ。
「あの逆異世界転生者連中、なんか全然動き見せないな」
もっと大量に攻めてくるもんだとばかり思ってたんだけど。
「何か企んでおるのではないかの」
「ほぉん……」
何か、ね。なんだろうか。わからん……。
が、まあ、何かしてきたら、そんときにどうにかすりゃいいか。
「泰然としておるの。さすが勇者じゃ」
そのときだった。
「悠仁くーん。お客さんだよ~」
親父が下の階から俺を呼んできた。お客さん……?
誰だろう……。
俺は立ち上がって部屋を出て、玄関へと向かう。
「ゆーじっ♡ ただいま~♡」
「ももか……と、玉姫も」
魔剣使いが勢揃いしていた。
ももかがぴょんっ、とジャンプして俺に飛びかかってくる。
その首根っこを、玉姫がガシッ、とつかむ。
「なによ、離しなさいよ!」
「まだ上がって良いって言われてないでしょ……?」
「ふん! 良いに決まってるんじゃあないの。ゆーじは未来のだーりん……つまりあたしは悠仁の家族だもの♡」
自称だけどもね。
咲耶が先んじて家に上がると、俺の腕にひっついてきた。
「なに?」
「別に」
「あ、そう」
咲耶はももかたちに「フッ……」と笑いかける。
「あー! 咲耶あんたねえ! 勝ち誇った笑みを浮かべてるんじゃあないわよぉ!」
「……別に浮かべてない。フッ」
「ほら浮かべてるー! 自分がゆーじの家族だからってー!」
何ナノマジでこれ……。
「ももかたちはなんでうちにきたんだ?」
「今夜の妖魔退治終わったからねっ。暇だから遊びに来たのっ!」
「あ、そう」
しっかし、もう終わったのか……。
妖魔が出る時間は、18時以降だ。で、今は19時。
たった1時間で東京中の妖魔を倒したってことになる。
前は一晩中出張らないといけなかった、って言っていたっけ。それと比べると、ずいぶんと成長したもんだ。
「遊びにって……違うだろう」
「アレ、違うの?」
玉姫がうなずく。
「妖刀集会が開かれるからな。作戦会議を、と思って」
「ほぉーん……? 作戦会議? 何で作戦なんて立てるの?」
「そりゃ……だって、君が危ないから……」
「え? なに?」
「なんでもない、ばかっ」
なんなのん……?
「あれ、悠仁君。何してるの?」
ひょっこり、と親父が顔をのぞかせる。
「あ、いや。友達が遊びにきてさ」
「そっかそっか! ちょうど晩ご飯の時間だから、お夕飯たべてきなさい」
「はーい!」
ももかが喜んで家にあがり、玉姫も「まあせっかくだから……」とあがる。
咲耶がじろっ、と俺をにらんで足を踏んづけてきたが、俺はそれを避けた。
「なに?」
「……別に」
「え、怒ってる?」
「怒ってない」
絶対怒ってるじゃーん……。




