68.転校生、玉姫
事故物件での妖刀退治を終え、日常に戻ってきた俺……。ふぃ~。
「しばらくのんびりしますかな」
場所は学校の屋上。俺は一人、ぽかぽかとした日差しの中で寝転がっていた。
『くくく……勇者よ……いかんぞ。サボりは』
うちの魔王は、魔の王のくせに本当に真面目なやつだ。俺が授業をサボってごろ寝しているのが、許せないらしい。
『くく……ちゃんと勉強しないといい大学にいけず、就職もできず、路頭に迷うことになるぞ……。それはいかんぞ……』
「おめーは俺の母ちゃんかよぉ~……。それに、ちゃんと授業は受けてるから。もう一人の俺が」
魔法で作り出した、もう一人の俺 (コピーロボット的な存在) が、ちゃんと授業を受けてるから問題ない。
『くっく……。問題は起きてるようだぞ』
「ああん……? どういうこと……?」
『くく……我は忠告したぞ……。きちんと授業を受けておくようにとな』
なんじゃらほい……?
まあいいか。殺気も感じないし。大丈夫っしょ。
どれ、一休み一休み~……。
…………。
………………。
……………………んが。
「やば、寝過ぎちゃったや」
がちゃっ。
「ん? 屋上に誰か来た……? 誰だ……?」
俺は給水塔の上に身を隠す。こっそりと、今入ってきた連中を見た。
「あれ……? あれって……」
どこか見覚えがあった。高身長。イケメン。そして、すらっと長い手足……。
「玉姫じゃあねえか……」
あいつ、俺の学校で何してるんだ……?
玉姫は男の制服に身を包んでいた。
「なあ……悠仁。ぼく……君に言っておきたいことが、あるんだ……」
って、玉姫の隣にいるの、魔法で作り出された俺の分身じゃあねえか。
あいつ、分身相手に何やってるんだ……?
「ぼく……転校してきたんだ。君が……ここにいるって聞いて」
なぬ?
玉姫が、うちに転校してきたぁ……?
聞いてないぞ。いや、まあ、授業をサボったから知なくて当然か。
「ぼく……ぼくね……君が……その……す、すk」
「うん、なに?」
「ぎゃぁあああああああああああああああああああああ!?」
玉姫がその場に尻餅をついた。
「なんだよ」
「ななななな、なんで二人!? なんで!?」
「なんでって……こっちは魔法で作った偽物」
「に、にせ……? え、なんでそんな……」
「授業サボり用。こいつ、コピーロボみたいなもんなのよ」
「は、はぁ~?」
なんかよくわかってないらしい。
「てか、おまえ情けないぞ。魔法で作られた偽物と本物の区別つかないなんて」
「…………」
「こんなの魔力を感知すれば……って、なに?」
玉姫は顔を真っ赤にして、俺をにらみつけてきた。
「ばか! ばか! せっかく勇気出して告白しようとしたのに……だますだなんてひどい!」
「ええー……だましてねえし。おまえ、自分の未熟さを他人のせいにするなよ」
「うるさいうるさいっ」
「てか告白? 何か隠し事でもしてたの?」
「うるさい! もう知らない!」
玉姫が俺ともう一人の俺を置いて、勝手に去って行った。
てか。
「おーい、おまえなんでうちに転校してきたんだよぉう」
「知らない……!」
「ええー……」
何あの子、ずっと怒ってたわ。なに、カルシウム不足?
『くく……勇者よ。ぬしに足らぬのは……【乙女心】じゃな。あまりに知らなすぎる』
「いやいや、魔王さんよ。知ってますよ。乙女心」
『ほぅ……? たとえば』
「女子は甘い物が……好き」
『ほんとに主は、あれじゃな。人の心ないな』
えー……。またそれぇ。俺ちゃんと人の心在るぞ?




