61.式神作ろう
人妖を気絶させてしまった。
まあ問題ないだろうよ。
「んじゃ、さくっと滅してしまいますかね」
「ちょ、ちょっと待ってくれない……?」
と、玉姫が俺を止める。
「どったの?」
「なんか……かわいそうに思えてこの人が……」
「人妖のこと?」
「うん……バケモノの恐怖に、ずっと怯えてて……最後は殺されるのなんか不憫で」
なにぃい……?
「バケモノ……どこだ? まだいやがるのか?」
「いや君だから、君以外にいないでしょうが」
「あ、そう」
なんか前からバケモノに怯えているのかと思った。
いや、でもなぁ。
「おい人妖。おきろ」
『…………』
「小回復」
『ぶぎゃぁああああああああああああああああああああああ!』
人妖が飛び起きる。
おお、やっぱか。
「なんで痛がってるのこの子?」
「アンデッド系の魔物って、逆に治癒術がダメージになるんだよ」
「わかってやってるとか……ひどすぎない……?」
「いや、わかってなかったけど。ほら、人間だから、回復きくかなーって」
そしたら、アンデッド系だったってわけ。
「やっぱなんか……かわいそう過ぎる……」
『ひぃん! おやぶーん! 助けてぇ!』
「お、親分て……ぼくのことかい?」
『ひぃいん! その通りですぅう!』
人妖が、ガタガタ震えながら、玉姫にくっついてる。
『邪気は感じぬの』
「ほぉん……」
人への敵意はなくなったようだ。なんでだろね。
『恐ろしい物を体感すると、人は性格が変わるというしの』
「なるほど……。で、怖い物って?」
『そりゃおぬしに決まっておるじゃろうが』
ええー……まじか。俺かいな……。
「敵からすれば君ほど恐ろしいものはないと思うよ」
と、玉姫はあきれ顔。そうかな?
俺、人類を救う勇者なんすけどね(元だけど)。
そんな凶悪な存在じゃあないんですけどね。
「で、どうする?」
『親分のもとで働きます! なので命だけはどうかご勘弁を!』
「玉姫の元で働くか……ふぅむ……」
なるほど。それは良いアイディアかもしれん。
「なあ、玉姫。おまえの式神は? 早太郎だっけ」
「……壊されたよ。人妖に」
『ひ……! すみませんすみません!』
人妖が玉姫の前で土下座してる。そりゃこれから仕えようとしている相棒を、ぶっ壊したらそうなるわな。
「あ、いや。式神はそういうもんだから。戦って、壊れてもしょうがない」
そういうもん……ねえ。まあ、錬金術師でいうところの、人工生命体みたいなもんなのかもしれんな。
目的のために作り出された命。
主人を守れたならそれでいいのかもしれん。……まあ、普通に守れてないけども。
まあ、それはさておきだ。
「んじゃ、人妖に玉姫の式神の役割を与えるのはどう?」
「可能だけど……。人の式神ってできるのかな?」
ほぉん?
「どゆこと?」
「式神って人の形をしてないでしょ? 君のとこの妹の」
たしかに、帰蝶は元々蝶々だったな。
ももかの葛葉も狐だったし。早太郎は犬だったし。
「人型の式神って、扱うのが凄く難しいんだ」
「へー……そういうもんなんだ」
「うん。現に人の妖魔のほうが、強いでしょ?」
そりゃそうか。
「君と違ってぼくは弱いし」
「そーだな」
「ぐ……。だから、扱えるか不安で」
「なるほどね……」
こいつが人妖、強すぎるゆえに、玉姫の手に余るかもしれんか。
なるほど。
「じゃあ、こうしよう。式神の残骸ってあるか?」
「え、あるけど……」
玉姫が、握っていたくしゃくしゃのお札を、俺に渡す。どうやら、この空間で早太郎が、人妖に壊されてしまったようだ。
で、壊れたこの札を、握ってもっていたと。
「んじゃ、このお札と、月刀【芒】と、そんでそこの人妖を使って、魔剣を作っちゃるよ」
元々、白馬 玉姫にかかっていた妖刀の呪い(18で死ぬ)を、解くつもりだったのだ。
「早太郎のお札を直し、そこに人妖を突っ込む。早太郎というハードに、人妖って言うソフトを突っ込む」
そうすりゃ、人妖の強さを抑えられる……とかも。
「新しい式神を作るのか? 無茶だ。式神は、長い年月をかけて、呪具師が作る物。そう簡単に……」
「【錬成】」
俺は錬成の魔法を使う。壊れたお札が、一瞬で……元に戻る。
「………………」
「どうした、玉姫?」
「なんかこう……なんかさあ……! 君、ずるってよく言われない!?」
「うん、よく言われる。なんでわかるの?」
「わかるわ……! ああもぉお! やだぁ……! 君を見てるとぼくら妖術師が矮小なもんに見えてくる!?」
「え? 事実じゃん?」
「きぃいいいいいいいいいいいいいい!」




