51.人の妖魔
心霊スポットでの撮影は進んでいる。……順調に。
でも、これってカメラにはどう映ってるんだろうな。
俺たちは寮の中を歩いていく。
『いいいいらっしゃぁああああああい』
『おいでええええええええ』
『こっちへおいでぇえええええええええええええええ』
……わー、なんか、いかにもな人間霊がいるよ。
俺らと同世代くらいか? ゾンビみたいな見た目してるし、目が取れたり、腕がちぎれたりしてる。
何があったんだろうな。そんで――。
「君ら、アレ見えないの……?」
「「…………」」こくん。
「まじか……」
白馬はともかく、咲耶すら見えていないらしい。
ということは、魚妖とか鎌鼬よりも、こいつらは上のランクの妖魔ってことか。
「なんで鎌鼬とかより、人間霊の方がランク高いの?」
「……人間の方が、陰の気が強いから」
ほーん……?
「人が人を恨む力。それが最もつよく……そして恐ろしいのだ」
「ふぅん……人から生まれる妖魔が、つよいんだな」
こくん、と白馬がうなずく。
「鎌鼬や魚妖は、人が自然を畏れる気持ちが形になったもの。
でも、人と人の恨みの方が、ずっと強いんだ」
……裏を返すと、自然への畏怖より、人間の恨みの方が重いってことか。
たしかに、幽霊っていうと人間を想像する。動物の幽霊もいるけどさ。
でも悪霊といえば、ほぼ人間の霊だもんな。
『『『おいでぇええええええええええええええええ!』』』
あ、子供の霊が襲いかかってきた。が、入ってこれない。
「お兄ちゃん、今どういう状況?」
「あ、なんか悪霊が俺らをあっち側に連れてこうとしてる……って、なんでカメラ寄ってくんの!? やめろ近付くな!」
御嶽山監督は、どうやら俺の声を電波に乗せて拡散しようとしてるらしい。
「いいねぇ……いいよぉ。霧ヶ峰兄くん! 君の語りにはリアリティがある!」
リアリティっていうか、マジでいるんだけどな……。
つか、やっぱり咲耶たちには見えてないらしい、この悪霊。
「さ、解説を……」
この監督の声、放映のときどうするんだろう。カットするのかな。
そもそも俺は、このロケの内容あんま発信して欲しくないんだよなぁ……。
「……お兄ちゃん、妖魔は!?」
ん?
「どうした妹よ。そんな焦って」
「あせるでしょっ! いるんでしょ? 悪霊妖魔がっ!」
「ん、いるよ。そこに」
「なんで余裕ぶってるのっ?」
「いやぁまあ、入ってこれてないしな。俺の障壁内に」
結界魔法を発動させてるのだ。しかも死霊系に効果的な、神聖属性付きのやつを。
「障壁なんて張られてるのかっ」
「え!? うそぉ!? それすら認識できないの!?」
「ぐぬう……悪かったなっ」
白馬……妖刀使いって、ほんとレベル低いなぁ。
「咲耶は?」
「ぎり……感じられる」
魔剣使いな分、咲耶の方がまだレベルが上らしい。
つーか、それでも“感じられる”程度なのか。
『魔法の適正のない人間にとっては、魔法の発動も気配も、本来なら感知できぬのじゃ』
と、魔王さん。なるほどね。
――あれ?
でも俺が魔法使ったとき、咲耶が反応したことあったよな?
『あれは魔法そのものを感じたのではなく、副次的な現象――火の音、風の音などを感じ取ったにすぎぬ。今回の障壁は環境音が出ないゆえ、適正のない者には見えんのじゃ』
はーん……なるほど。
つくづく思う。魔法使いって、現代じゃ無敵だな。




