49.大丈夫?
心霊スポットにやってきている俺たち。寮の中に入った途端だ。
『ち、ちこ、ちこちこ、ちこくは、ゆゆゆゆ、ゆるしませんよぉおおおおおおおおおおおおおおおおお』
「わ~……」
人の五倍くらいある、人間の悪霊がそこにはいた。ただし、その「五倍」というのは頭のサイズの話だ。
頭だけが異様にでかい。風船みたいな頭をした女の悪霊型妖魔が、俺たちを出迎えている。
「……お兄ちゃん?」
「どうした、君?」
うーん……。新旧妖刀使いさんたち? 見えてないのか?
『見えてないようじゃな』
「まーじ……?」
え、君ら……? なんで見えてないの……? そんなにランクの高い妖魔なのかよ、このやつ……?
『サクヤも見えてないということは、そういうことじゃろうな』
まじかよぉ……。
『ちちちち、ちこくしてるややややや、やつわわわわわわあ……あ、ああたしのぉおおおおお! 中にぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!』
風船頭の霊が近づいてくる。……いや、違うな。俺じゃない。
「ほえ? どうしたの……?」
ユリアに引き寄せられている。圧倒的な陽の気を放つユリアを取り込もうとしているらしい。
風船頭の霊が、その巨大な頭でユリアにくっつく。ずぶぶぶぶ……とユリアが沈んでいく。
「あ……なんか……体調悪くなってきて……」
「フッ……! この僕に任せろ! 月刀【芒】!」
白馬が妖刀を抜く。巨大な鎌で風船頭を攻撃。
スカッ……!
「ふぅ……もう安心だよ、ユリア」
「うう……苦しい……」
「なっ!? なに?! たしかに倒したはずなのに……」
はぁ……ったく、何やってんだか。
「……おい。妖魔が見えてないなら、式神に見てもらったらどうだ?」
「っ! うるさい! おいで、早太郎!」
「はやたろー?」
なんじゃそら……。ぼんっ、と白馬の隣に一匹の──。
「犬だな」
『拙者、妖犬・早太郎と申す!』
ちっこい子犬が俺たちの前に現れた。こいつが白馬の式神らしい。なんだか弱そうだ。
「悪いね、早太郎。妖魔を追い払ってくれないかな?」
『お任せあれでござる! どれ……』
早太郎が顔を上げ、風船頭の妖魔と目が合う。
『きゃい~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん』
ドサッ……!
「『えー……』」
早太郎、颯爽と登場して即気絶したんですが……?
「は、早太郎ぉおお! どうしたんだいぃ!?」
『ご、ご主人……駄目で、ござる……はやく……にげ……かくん』
「早太郎ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
……なんだこの茶番。もういいか。
「ユリア。そい」
ぺんっ、と俺はユリアの頭をたたく。ユリアを取り込もうとしていた風船頭の妖魔が、俺にビンタされる。
『ぷぎゃぁあああああああああああああああああああ!』
妖魔の頭が破裂し、とんでもないスピードで飛んでいった。滅された。うん……
「よええ……」
妖魔もだが、早太郎って式神も、たいしたことないぞ……。改めて、妖刀使いたちのレベルの低さを実感する。
『くく……勇者よ。それはおぬしが強すぎるだけだぞ? さっきのやつも、まあ……妖刀使いたちからすれば、強い妖魔だったのかもしれぬ。自分の物差しだけで物事を測るのはよくないぞ』
魔王さん、やっぱ常識人だな。
「あ、なんか元気になった! ありがとー! ゆーじくーん!」
ユリアが俺に抱きつく。やめてくれ……。
「あの監督さん? なんでカメラで撮ってるんすか、俺たち?」
「そりゃもちろん、番組だから……!」
「……あの、これは使わないですよね? 今のシーン?」
さっき妖魔を払ったシーンならともかく、大人気アイドルに抱きつかれる場面なんて……お茶の間に流さないよね?
「…………」にやり。
「にやりじゃあないっすよ! 本気でやめてください! 俺、外歩けなくなっちゃいますから!」
「…………」にやり。
「だからにやりじゃなくてさー! もー!」
一方、白馬は「……あいつ、なんてレベルが高いんだ」とつぶやいている。
「早太郎……すまない……僕が弱いばかりに」
『ご主人は悪くないでござる! 拙者がふがいないから……わぅん……』
早太郎の遠吠えでも払えないどころか、早太郎を昏倒させるレベルの妖魔を、俺はビンタ一発で払った。白馬が悔しがるのも無理はない。
「って、あれ? 咲耶は?」
さっきから咲耶が一言も発してない。見ると、咲耶は固まっていた。
「え、どったの?」
「…………」
『どうやら風船頭の妖気に当てられ、気を失ってしまってたようじゃの……』
まじかよ……。現実世界、大丈夫かこの子たち? ちょっとレベル低くないか、この世界を守ってる人たち……。




