48.続行だ
……小石で校舎の壁を破壊してしまった。当然、事故である。
「か、監督……どうします? 番組は中止にすべきです……」
御嶽山監督に、部下らしい人が助言する。
まあそうだろう。事故だし。普通なら放送中止だ。
「続行だ、やーはー!」
ぞ、続行ぅ……?
「か、監督! 事故が起きたんですよ!?」
「事故ぉ? 違うねぇ~!」
にやりと御嶽山監督が笑う。
「出たんだよ……悪霊が……!」
……。
…………。
………………えっと。
「……咲耶。あの監督、妖刀使い?」
「……違う。妖刀使いは若い女しかなれないし」
そらそうか。
『魔法使いか?』
『そんなわけなかろうが』
魔王も否定する。つまり、ただの勘違いだ。
あの監督は、妖魔(※悪霊)が壁を壊したと思い込んでいるらしい。
「いいねえいいねえ……! 盛り上がってきたねぇ……!」
御嶽山監督がギラついた目で俺たちを見る。
「近頃のテレビは、やらせやらせでうんざりしていたんだ……!
欲しいのは……リアリティ! 本物の恐怖! 本物の悪霊が出る番組なんて――やーはー!
ハラハラドキドキわっくわくのエンタメショー! これこそが! お茶の間に届けるべきものなんだよぉ!」
……普通にやべえ人だった。
「よぉし、じゃあ次は建物の中のシーンだ! 野郎ども!」
番組はどうやら続行らしい。大丈夫なのか……この監督。
「君」
と、白馬が俺に声をかけてくる。
「なに?」
「君だろ? 僕を助けたのは」
「はぁん?」
……自分が助けられたって思ってるらしい。
「勘違いも甚だしいな。助けたのは咲耶だ。お前はついでだ」
『くっくっく……ツンデレというやつだな』
イラン知識を仕入れるな魔王。
「……そうか。まあ、礼は言っておくさ。だが僕は、その程度じゃ心を開かない!」
「はぁ?」
何言ってんだこいつ。
「それに、僕はまだ本気を出していない。この幻惑の妖刀――月刀【芒】の能力を、まだ使ってない」
「刀の形を変形させてただろ」
「あれは型ですらない。この妖刀にデフォで備わっている機能さ」
「あ、そ……。まああれだ、弱いんだから無理すんな」
「!?」
ぴきっ、と白馬のこめかみに血管が浮く。
「……僕が、弱い?」
「弱いじゃん。雑魚妖魔が見えなかったんだろ?」
「くっ……!」
咲耶が「いや、お兄ちゃん……わたしも気付かなかったから、あれはなかなか強い妖魔だったよ……」とかフォローしてるが……俺からすれば雑魚だ。
「あれは……たまたま見えなかっただけだ」
「あ、そ」
「次は助けなくていいからな!」
「それはお前が決めることじゃない」
……てか、この白馬。妖刀使いだから女のはずなんだよな。
なのにどう見ても男にしか見えないのはなぜだ。
『幻惑の妖刀と言っておったな。能力で幻を見せているのではないか?』
なるほど。さすが魔王さん。長生きしてるだけある。
『それより勇者よ。感じるだろう?』
『ああ、寮の中にいる妖魔のことか』
さっきの人間霊クラスのやつが、寮の中にはゴロゴロいる。
「まあ、俺がいればなんとかなる」
『倒せるだろうが……あのカントクとやら、放っておいてよいのか?』
「御嶽山監督も当然守るけど?」
それがどうした。
『いや、そういう意味ではなく……』
「それじゃ次のシーン撮るぞぉ! みんな中に入ってぇ! やーはー!」
……まあ、俺がいればなんとかなる。
ギリッ、と白馬が歯噛みする。
「これで勝ったと思うな……! 僕は……負けないぞ……!」




