45.新しい妖刀使い
西東京、八王子。
初めて来たけど、駅前は思ったより栄えてるなーって感じた。駅からちょっと離れると緑が増えてきて、ここ本当に東京かよって気分になる(個人の感想です)。
今回の収録場所は、八王子にある廃校の学生寮だ。
「いますわー」
『いるのー』
巨大な学生寮の前に立つ俺。嫌な気配がする。妖魔の、陰湿な匂いだ。
「……いる」
咲耶でも感じ取れるほどの妖魔の気配。強さ自体はそこまででもなさそうだが、居心地は良くない。
「わー! おっきー!」
ユリアが寮を見上げてはしゃぐ。いやおっきいのはわかるが、もっとこう――嫌な予感とか悪寒とか言ってくれよ。
『まあユリアは、そもそも妖術師でもないしな』
この子、そもそも妖魔の気配に鈍いんだよな。てか。
「人、多いな……!」
テレビのスタッフっぽい人がやたらいる。スタッフって画面に映る人以上に大勢が裏にいるんだなあ。
「ユリア。監督さんに挨拶行くわよ」
ユリアのマネージャーが促す。
「そだ! いこいこー! 二人ともっ」
「いや俺らは付き添いだし……」
『くっくく、リーダーに一声入れるのが礼儀ってもんだぞ、勇者よ』
魔王に常識を説かれる。ああ、まあ、そうだよな。
咲耶、ユリア、そして俺は、寮の外側で椅子にふんぞり返っている監督のもとへ向かう。小太りで眼鏡――性別が判別しづらい御嶽山監督だ。年は五十前後か。
「御嶽山監督! おつかれさまです!」
「やーはー、ユリアちゃーん☆ おひさしぶりだねぇ~」
声も性別の判別がつかない。高めで、少し掠れてる。
「今日はよろしくね。で、そちらの少年少女は?」
「あたしのだー……」「高校の友達っす!」
ユリアが勝手にダーリン呼びしそうになったのを慌てて制す。影響力を考えてくれ。
「ふぅん……」
監督が咲耶と俺をじろりと見る。どうやら咲耶に興味があるらしい。
「君、良い……!」
「……はい?」
「やーはー! キャスト二人追加!」
「ちょっと?」
咲耶は困惑してぷるぷるしてる。いや勝手に決めんのやめてくれ。
「君、可愛いね。ぜひ出て欲しい」
「え? え? ……え?」
監督の猛烈プッシュで咲耶がごり押しにされる。俺は完全に付き添いなのに、勝手にモブ決定扱いだ。
「俺はいやっすよ!」
テレビに映ったら、妖魔退治のシーンまで晒されるだろ。マズいって。
「ギャラ弾むよん?」
「金には困ってないんで……!」
「そーお? ざーんねん。で、そっちの彼は?」
「ついでっすか……」
「モブっぽい見た目が実に良い! 引き立て役として期待してるよ!」
「いやいやいやいや……」
「咲耶はともかく、俺は断るって!」
そこへ――上空から轟音が降ってきた。
ババババババ……!
「ん……? なんだ、うるせえな」
見上げると、真っ白なヘリコプターが舞い降りてきた。
「へ、ヘリコプター!?」
ヘリから白いスーツの人物が飛び出し、くるんと回って着地する。長身、短髪、白いスーツにバラをくわえた美青年だ。
「これはこれは、玉子くん……!」
「たまご……?」
白スーツの美青年がひらひら手を振る。いや、誰だよお前。
「やぁ御嶽山監督。おひさ」
「ん? そこの庶民は誰だい?」
「君だよ、君。明らかにモブキャラまるだしの君」
「俺……?」
「そう、君さ。新しいテレビクルーの子かい?」
「いや違うけど……あんただれ?」
白スーツが得意げに前髪を払う。
「僕の名は【白馬玉子】! 白馬製薬の御曹司で、スーパーインフルエンサーさ!」
「馬鹿みたいな肩書きだな」
「ふっ……馬鹿は君だよ。エックシのフォロワー五十万、ユーチューブ登録者二百万の超大物を知らぬとは嘆かわしい」
「へー、凄いんだ、それ」
SNSやってない俺にはピンと来ない。
「僕は白馬の王子様だからね! どんな戯言も笑って流すさ!」
「あ、そ……」
玉子が咲耶を見つけると、ぱっと近づきウインクしてきた。
「君――咲耶ちゃんじゃないか!」
「……そうね、久しぶり」
え、咲耶と面識があるのか。玉子はしゃがみ込み、咲耶の手を取って――。
チュッ。
「お、おま、おまおま……ううう、うちの咲耶の手にキスしやがったぁああああ!」
な、何やってんだこいつぅうううう!
『……勇者よ。こやつから妖刀の気配がするぞ。って、勇者よ? 聞いておるか? 勇者?』




