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44.いざ心霊番組



 大人気アイドル、ユリアが心霊番組に出演することになった。

 番組名は「ほんビリ」。

 ユリアは八王子にある事故物件に泊まることになったのだった。


「おっはよー! ゆーじくんっ!」

「……今夜なんすけど……」


 サングラスをかけた駒ヶ根ユリアが、俺んちの前に現れた。

 多分、人目につかないための配慮だろう。そこはちゃんとアイドルしてるんだな。


「知らない? この業界では夜でも朝でもおはよーなんだよー!」

「あ、そうっすか……」


 この子、マジで陽キャの塊。陽のオーラを夜でも放っている。

 ……で、その光に誘われるように、大気中の雑魚妖魔たちをおびき寄せていた。

 が、妖魔どもは近付いてこない。俺が張ってある結界に阻まれてるからな。


「ここなんだか、いいね! 身体が軽いよ! パワースポット的な?」


 ……それはおまえに引き寄せられた妖魔が、結界に阻まれて離れてるからだ。

 とは言わない。めんどくさい。俺が望むのは平穏な生活。だから本当はこんな番組、参加したくもない。だるい……はぁ……。


『ならどうして参加するのだ? 断ればよいではないか?』


 魔王が至極当然の疑問をぶつけてくる。

『妖魔を引き寄せる体質のユリアが心霊スポットに行けば、確実に妖魔がらみの事件が起きる。夜中に咲耶たちがかり出されるようなことは、したくないんだよ』


 咲耶は妖刀の鎖から解き放たれた今も、妖魔を倒すために戦っている。

 花のJKが、自分の時間を削ってまでだ。かわいそうすぎるだろ。


 だから、こんなくだらないことに咲耶を動員したくない。


『だから代わりにおぬしが行くと』

『そういうことだ』

『そうか。感心したよ。我はてっきり……』

『てっきり?』

『芸能人と知り合ってウハウハハーレムを築くために行くのかと』


 しねえよ……。


「さ、れっつごー! ゆーじくんっ!」

「はいはい……」


 俺はユリアのマネージャーが運転する車に乗り込む。

 すると――とととっ、と誰かが駆け足でこっちに来て、車に乗り込んだ。


「あ! さくやちゃーん!」


 アイエエエエエ!? サクヤナンデ!?


「どうしたの?」

「お兄ちゃん一人だと、心配だから」


 なんすかそれ……。


「咲耶……? なんでついてくるん?」


 そもそも君がこうして出張らなくていいように、兄ちゃん仕方なく心霊スポット行くんすよ?

 なんでついて来ちゃうのん……?


「お兄ちゃんが芸能人とウハウハハーレム作ろうとしてるって、魔王さんが」


 おいィィィィィ!? 魔王! なんで誤情報を妹に流すんだ!?


『くく……誤情報ではない。どうせおぬしがトラブル先で女を助け、その女に好かれるではないか』


 そんなこと……………………………………………。


『図星だろう?』

『ふぐぅう……』

『まあ無駄だとは思うが、しかしサクヤがいないところで女を増やされては、サクヤが不憫だと思ったのだ』


 なんでそこで妹が不憫になるん……?


「咲耶ちゃんも番組見学したいってことー?」

「……ええ、まあ、そんなとこ」

「ん! いいよー! じゃ、みんなでレッツらゴーしよー!」


 ということで、咲耶、俺、ユリアの三人は八王子へ向かうことになった。

 車が西東京を目指して進んでいく。


「……咲耶。いいのかよ、妖魔退治は」


 俺は小声で尋ねた。


「……最近式神が頑張ってくれるから、わたしの出番はないの」


 あ、そう……。

 そういえば最近は鎌鼬みたいな雑魚も出てこない。魚妖や虫怪くらいだ。

 あれなら妖術師だけで対処できる。


「ねー、前から気になってたんだけど~」


 ユリアが俺に尋ねてくる。


「なんだよ?」

「ふたりって……もしかして付き合ってるの?」

「「はぁ~?」」


 何言っちゃってんの?


「か、か、か、勘違いもは、はなはなはなだしいわ!」


 はなが多いぞ妹よ……。


「わ、わたしがお兄ちゃんと付き合うわけないでしょ!? ねえ!?」

「そうだぞ。俺と妹は兄妹なんだ。兄妹で付き合うなんていたたたたたたた……!」


 ぎゅぅうう! 咲耶が俺の脇腹をつまんでいる。


「なんすか咲耶さん……」

「べつに」

「いや怒ってるじゃん。どうしたの?」

「べ! つ! に……!」


 わからん……。


『くく……勇者よ。人の心がないのか貴様は……?』


 ありますけど!?


「じゃああたしゆーじくんと付き合っても、いいよね?」


 なんだって!? アイドルと、付き合う……?


「「それはない……!」」


 俺……となぜか咲耶も否定していた。


「えー、なんで?」

「アイドルなんかと付き合えるかよ……めんどくせえ」


 俺が望む平穏から離れてしまうだろうが。


「めんどくさくないよ? ファンに粘着されたり、嫉妬の視線向けられたり、嫌がらせポストインがくるだけだよ?」

「それがめんどくさいってわからないのかなぁ!?」


「大丈夫! 愛があれば乗り越えられるんで!」


 ……俺の周り、変な女しかいないの?


『くく……勇者よ。それは女性に対して失礼だぞ? 我はともかく、ももかやサクヤなど、おまえの親しい女どもに失礼だ』


 魔王さん、どうしてそんな常識人なのに魔王やってたんすかね……。


「ともかく、アイドルとは付き合いません」

「わかった!」

「よしわかったな……」

「じゃああたしと付き合ってください!」

「話聞いてましたかぁ!?」


 断ったよね!?


「うん、断られたよ。でもでもっ。あたしがゆーじくんのこと好きなことと、ゆーじくんがあたしのこと好きかどうかって、別問題だからっ!」


 やだよぉ~……ちょーめんどくさいよぉ~……。


「……ふふっ。お兄ちゃん、アイドルとは付き合わないって。ふふっ、やった♡ やった♡」

『くく……サクヤよ。だからといって勇者がおまえと付き合うとは言ってないぞ?』


 妹が魔王と内緒話していた。お兄ちゃん疎外感……。

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★新連載です★



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『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

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