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43.妹達を鍛える



 ユリアが心霊番組に出ることになった。……なぜか俺も出ることになった。いやいやいや。


「ダメだろ、それ……」


 場所は西東京、浅間ももかの屋敷。

 妖術師の名家だけあってデカい。もっとも当主であるももかの親父は、もういないが。


 ここんちの道場は広いので、よく訓練に使わせてもらっている。


「はぁ……はぁ……」

「まるで歯が立たないわ……」


 俺の前には、魔剣使いのももかと、妹の咲耶。

 俺はというと、あぐらをかいてスマホをいじっている。


「いくわよ、梅鶯!」


 ももかの妖刀・緋刀【梅】は進化して、いまは魔剣・梅鶯。

 彼女の異能は熱操作。


「氷天雪地!」


 道場の床に剣を突き立てた瞬間、地面から熱が奪われ、周囲が一気に凍りつく。

 妖刀の頃は自分の周囲しか凍らせられなかったが、魔剣に進化した今は、体育館並みに広いこの道場の床全部を一瞬で凍結させられる。


「ずず……マンゴーフラペチーノ、うめ~」

「ぜんっぜん効いてないんですけど!?」

「まあな」


 ももかがグヌヌと歯噛みする。


「また反則剣チート・キャンセラーの力!?」

「いや、使ってない」

「じゃあなんで凍らないの! 魔法無効の結界は解いてるんでしょ!?」

「おう」


 あれがあると本当に訓練にならんからな。


「これは……シバリングだ」

「しば……なによそれ?」


 幼卒には難しかったらしい。


「寒いと身体が震えるだろ?」

「……そうね」

「それ」

「はぁ!? つまり“寒っ”て感じて、ぶるっとしただけで、私の氷を溶かしたってこと!?」

「そゆこと」


「どんな身体の構造してんの! でも、やっぱダーリンすごい……! それでこそ!」


 まあ俺の身体、異世界でレベルMAXだしな。

 デコピン一発で壁に穴が開くレベル。シバリングで、ももかレベルの氷なら溶かせる。


「ならこれはどう!? 気炎万丈……!」


 氷天雪地で奪った熱を炎に変えて、俺めがけて放つ。凍っていた床が一瞬で融ける。ったく……。


「建物で火は使うなっての」


 ぶわっ――。


「あ、あたしの炎が消えた!? なにがどうなってんの!?」

「え? ただ喋っただけだけど?」


「しゃべ……え!? どういうことよ!」


 ふむ、と魔王(人間姿)がうなずく。


「勇者が会話するときの“声”に魔力を乗せたのだ。声は音の波。それが魔力で強化され、猛火を吹き払うほどの威力になった」

「幼稚園卒の私にも分かるように言いなさい!」


「つまり、おぬしの炎は勇者の身体に届きもしない、ということだ」

「むきー! なんて強いの! 素敵ー!」


 怒ってるのか褒めてるのか、どっちだ。


「…………」


 一方で咲耶は、魔剣・桜幕を構えたまま。

「どうした、来ないのか?」

「……一の型――血湧肉躍!」


 身体強化の異能。桜の枝のような痣が走る。それは浮き上がった血管だ。

 咲耶が地面をドンッと蹴る。――消えた。次の瞬間、俺の目前に咲耶の拳。


 パァンッ!


「さ、咲耶……いま消えた!?」

「ほう……サクヤの拳が音を置き去りにしたか。見事な身体強化じゃ。まあ――」


 その拳は、俺が片手で持っているフラペチーノの“プラ容器”で止まっていた。


「なんでこんなプラ容器に! 私の渾身の一撃が防がれるのよ!」

「真の達人は刃物を選ばない。お箸でも物を斬るってよ」


「だから!?」

「そういうことだ」

「どういうことよっ!?」


 説明不足だったか。ええと――


「つまり、剣を極めれば、別の物でも刃物同然に扱えるってこと」

「ぐっ! この……!」


「今の咲耶じゃ、猫に小判、豚に真珠。だからこのフラペ容器で簡単に捌かれる。――ほい」


 プラ容器をくるっと回す。咲耶の体勢が崩れて、すとんと倒れる。


「いっつぅ……」

「強くはなってるけど、まだ力任せ。もっと熟練度を上げないとな」


「このぉ……!」


 血湧肉躍でさらに強化して襲いかかってくる。やれやれ、血が上ってる。

 俺はしゃがんだままフラペを吸い、片手でスマホ。足は一歩も動かさず、上半身だけで攻撃をかわす。


「あたらない……! なんで!?」

「サクヤよ。この勇者は“殺気”を感じ取るのに長けておる。おぬしの殺気だだ漏れの攻撃は、目をつぶっても避けられるぞ」


 しかし――はぁ……。


「どうしたのよ、悠仁?」


 休憩に入ったのか、ももかが寄ってくる。


「いや、今度テレビ出ることになってさ……」

「テレビ! すごいじゃない! なんて番組?」

「『ほんとにあった世にも恐ろしい事故物件アンビリーバボー』」

「それ知ってるー! “ほんビリ”でしょ! 私も見てる!」


 “ほんビリ”って略すのか。


「実在の事故物件にタレントが泊まるやつだろ?」

「らしいな」


 ネットで軽く調べた。


「ほんビリって、やらせだよな?」


 心霊番組は大抵やらせ。そうなら助かるが――


「? 本物でしょ。妖魔、出るときあるし」

「あるんかい……!」


 マジか。


「てか、それ放置してんの?」

「まさか。放映後にちゃんと滅しに行くわよ」

「あ、そう……」

「助かるのよねー、この番組。妖魔が出る場所を教えてくれるから」


 番組の楽しみ方、違わない?


 まあ、昔のももか程度でも“見える”妖魔が出るってことは、極端にレベルの高い個体は選ばれにくい、ということでもある。

(妖術師は、自分のレベルが低いか、妖魔のレベルが高すぎると、そもそも視認できない)


「まあ、大丈夫か」

「ぜえ……はあ……それは、どうかしらね……」


 咲耶がその場に崩れ落ちた。どうやら体力の限界。


「SNSに情報出てる。次の“ほんビリ”のロケ地」

「マジ? どこ?」

「八王子城近くの、学生寮」


「はちおうじじょう……?」

「うん。昔、全寮制の学校があって、廃校になって。その学生寮」

「へえ……」


 八王子城を調べる。――都内有数の心霊スポット、と。


 OH……。


 ついでに学校名も調べてみる。えーっと、なになに?


「野球部でいじめがあって、いじめられたやつが仕返しに、部員全員をバットで皆殺しにした――と」


 ふぅぅ……。


「ば~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~かじゃねえの!?」


 それもう“事故物件”の域じゃないだろ!


「飛んで火に入る夏の虫、どころじゃねぇ……!」

「まあでも、悠仁が同行するなら大丈夫でしょ?」

「……どうせお兄ちゃんが無双するだけ」


 いやじゃ~。行きたくな~~い……。

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★新連載です★



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『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

― 新着の感想 ―
野球部なら、いじめや事件が有りそうだから割と現実味ある。
作者様野球部に恨みでもあるんw
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