42.アイドルとテレビ出演
ゲータ・ニィガの連中は軽く脅しておいた。
これでしばらくは手を出してこないだろう。うんうん。
「ふぁー……ねむ」
異世界から戻ったあと、咲耶はちゃんと授業を受けていた。うちの妹、ほんと真面目だわ……。
俺はというと屋上でサボり。分身に授業は受けさせてあるから、内容は頭に入ってる。
『くく……勇者よ。サボるのも一興だが、学校は知識だけの場ではないぞ。友をつくり、青春を謳歌する――それも学校じゃ』
「おまえ本当に魔王かよ……」
ゲータ・ニィガの王族より、よほど“善”属性。
「友達って言っても、俺、男子からめちゃくちゃ恨まれてるし……」
『ふむ。友はおらんのか』
「まあ、ももかは友達だけど」
『くく……安心せい。我が友よ。皆に嫌われようと、我はおぬしの生涯の友である』
……なんでこの人が魔王なんだろうな。
「帰るか」
転移魔法で一瞬で帰宅。学生服から私服に着替える。
腹が減ったので一階へ。
「あれ、悠仁くん!? いつ帰ってたの?」
眼鏡の優しそうなおっさん――親父、霧ヶ峰倫太郎だ。
「さっき。ただいま」
「おかえり。あ、悠仁くんにお客さん」
「客ぁ……?」
「そう。すっごく可愛い女の子」
……誰だ?
『心当たりが多すぎるの』
「それな……」
咲耶か、ももかか、別の誰かか。リビングへ行くと――
「やっほー! おかえり、ゆーじくん!」
「ゆ、ユリア……」
人気アイドル、駒ヶ根ユリアがいた。ぶんぶん手を振っている。
その隣には見知らぬ女。
「誰、おばさん?」
「おば……失礼ね。ユリアのマネージャーです」
「あ、そう」
まあアイドルにマネージャーはいる。問題は、なんでウチに?
「実はね、今日はお願いがあって来たの!」
……嫌な予感しかしない。
「今度、テレビの企画で“事故物件”に泊まることになって!」
「お、おう……」
『なんじゃ、事故物件とは?』
『過去に事故があった部屋。首吊り自殺とか』
『ふむ……妖魔が寄っとるのではないか?』
『……いるだろうな』
陰の気が溜まる場所に妖魔は集まる。そんな所に“妖魔ホイホイ体質”の陽キャが行けば、結果は見えている。
「でね、ゆーじくんに、ついてきて欲しいの!」
「……ホワイ?」
なんで俺?
「前に体調治してくれたでしょ? ももかちゃんから聞いたよ。あたし、よーま? 妖怪みたいなのに憑かれてたんだって」
おぉぉぉい幼卒ぅぅ! なにバラしてんだよ!!
「事故物件なんて行ったら、また憑かれちゃう。だから、一緒に来て!」
「いや、そもそも番組出なきゃよくない……?」
なんで火に飛び込む虫ムーブを……。
「マネちゃんが、出ろって……」
「当たり前よ。ゴールデンの人気心霊番組よ? 断れるわけないでしょ」
番組名を聞く。たしかに有名。活動休止明けのユリアにとってはビッグチャンスだろう。
「それに……ふん。妖怪? そんなものいるわけないでしょ」
「…………」
……その“おば……マネージャー”の背後に、いるんだよなぁ。
亡霊じみた妖魔が、右肩にべったり。
「おばさん、最近右肩こってない?」
「な……!? なんで……」
ぺい、と軽く払う。
右肩の妖魔がバシュッと霧散した。
『ただの手刀で妖魔を一撃とは……くく、さすがじゃ』
「な!? 右肩のコリが……嘘みたいに消えた……!」
マネさん、蒼白。
「ね? ゆーじくんは本物の霊能力者なんだよ!」
霊能者じゃなく異世界帰りの勇者なんだけどな。
「……信じられない……本当に“そういうの”が……」
「妖怪って言い方は違うけど、目に見えない連中はいますね」
「ぐ……」
実体験の前に沈黙。
「ね、お願い。一緒に来て」
「うーん……」
たしかにこの陽キャ、事故物件でデカいのを引き寄せる可能性大。そうなれば咲耶やももかが駆り出される。妹たちに面倒はかけたくない。
「OK」
「やったー! ありがと!」
ユリアが腕にむぎゅ。
「じゃ、テレビ出演OKってことで!」
「おう……………………………お、おぅ?」
今、なんて?
テレビ……出演?
「え、俺も番組出るの? ……はは、まさかね?」
「出るに決まってるよ?」
「なんでだよ!?」
カメラの外で待機して、出たら祓う――それだと思ってたんだが!?
「“ついてく”とは言ったけど、“出る”とは言ってねえ!」
「“おう”って言ったじゃん!」
「まさか出演のほうだとは思わねえだろ! 出ない! 付き添いだけ!」
「えー……」
「えー、じゃねぇ」
「びー」
――こうして、成り行きで心霊番組に出るユリアの“付き添い”をすることになった。
あくまで、付き添い。絶っ対に出演なんかしないからな……!
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