41.異世界のバカに呼び出された、ボコった
昼食をとったあと……俺は分身に後を任せ、昼寝をすることにした。
ももかと咲耶はちゃんと授業に出るらしい。偉い。
「む……?」
「どうしたー、魔王?」
「なんだか、妙な気配を感じての」
「妙な気配ぃ……?」
魔王が周囲を見渡す。
殺気は……感じない。
「妖魔?」
「いや……違う……これは……どっちかというと……勇者の気配じゃ」
「はぁ~……? 勇者の気配だぁ~?」
何を言ってるんだろう……。
勇者《俺》はここにいるじゃあないかよ。
そのときだった。
パァア……!
「え……?」
俺の尻の下に、魔方陣が展開したのだ。
「こ、これは……! 勇者召喚の魔方陣!」
「ちょ……勇者召喚って……まじか……!」
五年前、俺を異世界に召喚したときの、召喚魔方陣じゃあねえか……!
パアァアアア……! と強く、魔方陣が輝き出す。
「【時間停止】!」
魔王が、古代魔法を発動させた。
世界の時間が、停止する。
当然、召喚が途中でストップした。
「ふぃ~……助かったぜ魔王」
「気にするな。主を守るのも従魔の仕事じゃからの……。それより……」
「ああ……」
俺らは、勇者召喚の魔方陣を見やる。
「これってさ、俺を召喚しようとしたってことだよな……?」
「うむ。ピンポイントで勇者のいた場所に、魔方陣が展開してるしの」
勇者召喚。俺を召喚しようとした。
誰が?
「異世界のやつらが、だろうな」
「うむ……。おそらくな。勇者召喚の儀式は、ゲータ・ニィガに伝わりし秘術」
「つーことは……またあの、ゲータ・ニィガのクソ王族が俺を呼び出そうってしたかよか……けっ!」
あー、腹立つ。
「お兄ちゃん!」
バッ……! と、咲耶が俺の元へとやってきた。
カノジョは、血湧肉躍の異能を発動させているようだ。
「はぁ……! はぁ……! 何があったの!? 敵!?」
咲耶は魔剣・桜幕を構え、周囲を見渡す。ああ、なるほど……。
「俺が襲われたって思ったんだな?」
「うん……どこ? どこに敵がいるのっ?」
「落ち着け咲耶。敵は……まあ、ここにいないんだよ」
「? どういうこと……?」
俺は、床を指さす。
「これ……なに? 魔方陣?」
「そう、勇者である俺を異世界に召喚する魔方陣さ」
「!? お兄ちゃんを異世界に!? って、前にもそんなのあったような……」
「おう。で、異世界から現実に帰ってきた勇者を、もう一回異世界に呼び出そうってしてるらしいぜ」
「はぁ!? なにそれっ!」
咲耶がぶち切れていた。
咲耶には、俺が異世界の勇者として召喚されてから、魔王を倒し、現実へと戻ってくるまでのストーリーを共有してる。
「お兄ちゃんに世界を救ってもらっておいて、また呼び出すって、なにそれ!? 厚かましいにもほどがある!」
「咲耶……」
俺のために、咲耶は怒ってくれてるらしい。いい妹だぜ、ほんとによぉ。
「てゆーか、なんなの? 召喚しようとしてる連中って」
「ゲータ・ニィガって国の連中が俺を呼び出そうとしてるんだ」
「げーた……に?」
「ゲータ・ニィガ。人間が納める国でさ。王族や貴族がいて、長い歴史があるんだよ」
うむ、と魔王がうなずく。
「何度も滅亡と再興を繰り返す、ゴキブリ並みに生命力のある国じゃ。あと、王族が総じてクソという特徴がある」
「クソじゃない……!」
はい、クソなんです……。
そもそも、こっちの事情をかんがみず、異世界に呼び出してる時点で、ゲータ・ニィガはおかしな連中しかいないわけだ。
「お兄ちゃん……どうするの? この魔方陣」
「どーもせんわ。魔王が時間を止めて、俺が呼び出されるのを阻止したしよ」
魔王が魔法を解く。
魔方陣が展開してる。そして、魔方陣が強く輝くと……。
しゅうぅ……と消えてしまった。うん。
「本来なら、あの魔方陣にとらわれた勇者は動けなくなり、異世界に拉致される仕組みになってるんだ」
「今回は失敗に終わったようじゃがな……。くくく! 召喚主らの阿呆な顔が目に浮かぶわい」
召喚成功! って思ったら、誰もいないんだからな。
きっと驚いてることだろう。
「でも……なんで異世界は、また勇者召喚しようとしてるんだろう?」
魔王が答える。
「自分の言うことを聞く、強力な駒がほしいんじゃろう。魔王がいなくなっても、あの世界には魔物がおるし。それらに対抗する強力な奴隷兵器として、勇者を運用しようって魂胆じゃろうて」
「………………くそすぎる! なんなのあいつら!」
「くく……我も同じ気持ちだ……。む! また来たぞ! 時間停止!」
また俺の足下に、魔方陣が展開する。
魔王が時間を止める。っかー!
「あいつら……どんだけ俺が欲しいんだよ……」
「これは一言文句を言っておく必要があるのぉ」
にやぁ……と魔王が邪悪な笑みを浮かべる。
「それって……」
「カチコミじゃ!」
「おいおい……カチコミって……出向いてやるってことか? 向こうに?」
「うむ。勇者には世界扉という、異世界を行き来できる魔道具があるじゃろう? だから、召喚に応じてやり、力を見せつけ、そして帰ることも可能じゃ」
たしかーに。
「よし……」
「やるわよ、お兄ちゃん!」
「さ、咲耶さん……?」
ふがふが、と咲耶が鼻息荒く言う。
「ゲータ・ニィガとかいうクソどもに、うちの大事なお兄ちゃんを渡すもんですか!」
「お、おう……」
なんか……咲耶さん怒ってます……?
「目にもの見せてやろうじゃないの……」
「ほ、ほどほどにな……よし、じゃあいくか」
俺は召喚魔方陣……を使わず、世界扉を発動させる。
俺たちの目の前に、人が通り抜けられるくらいの姿見が現れた。
これ使わないと、俺以外、異世界にいけないからな。
「じゃ、先いってるわ」
「「おう!」」
俺は召喚魔方陣の上に乗ってやる。すると俺の意識がホワイトアウト。
……んで、目を覚ますと……。
「やった! 勇者召喚に、やっと成功したぞ……!」
目の前には、ひげのおっさんが居た。
あー……見たくなかったわ、その顔。
五年前、俺をこの世界に呼び出した、現ゲータ・ニィガ国王だ。
「おお! 勇者どのぉ! 会いたかったぞぉ!」
国王が笑顔で、俺を出迎える。
が。
ずどぉおんんんんんんんん!
「ふげぁああああああああああああああああああああああああ!」
俺の前の前に、黒龍にのった……咲耶が現れる。
「な、なぁ!? ま、魔王アンラ・マンユだとぉ……!?」
『くく……久しいな、愚王よ』
「ば、ばばばば、ばかなぁ……! な、ななな、なぁぜ貴様がここにぃ! 勇者が倒したはずではぁあああああああああああああああああああああ!」
俺は魔王の隣に立ち、ぶっとい腕をなでる。
「こいつ、今では俺のダチなんだ」
「だ、だ、ダチぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
国王が仰天してらっしゃる。
「はっ! そ、そうか! 魔王きさまぁ……! 勇者に洗脳の魔法をかけたのだなぁ……!」
「……はぁ」
「勇者を呪いで洗脳し、言うことを聞かせるなど言語道断! なんたる非道!」
「「『どの口が言ってるんじゃぼけぇええええええええええええええええ!』」」
俺、魔王、咲耶の絶叫。
感情の高ぶりにより、魔力が周囲にほとばしる。
愚王は部下共々、ぶっ飛んでいく。壁に激突し、倒れる。
「いいか、お前ら。俺はもうおまえらの言うことは聞かん……!」
「そんなぁ! どうして!?」
魔王が、がるるるるる……と唸る。
『勇者を呼び出し、聖武具なしの屑と決めつけ捨てたのは、貴様らだろうが!!!!!』
「しかも……家に帰れない呪いをお兄ちゃんにかけて……!」
俺より怒ってる美女二人。
『「天誅……!」』
魔王はブレスの準備を、咲耶は魔剣に魔力を貯める。
『竜閃光!』「桜花爛漫……!」
ビゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
……魔王の放った竜のブレス。
咲耶の放った、血を刃にまとわせ、それを斬撃にして飛ばした一撃。
それらが、ゲータ・ニィガの王城の壁を、ぶっ飛ばした。
「あば……あばばばば……」
愚王は尻餅ついて、小便たれていた。
「えーっと、国王さんよ。これでわかったろ?」
怒り心頭な二人を見ていたからか、俺の方が逆に冷静になっちまった。
だから、ま、最後に忠告しておく。
「俺を呼び出そうとしたら、この二人が黙ってないから」
『次は殺す』「ボコボコにする」
本気の殺意をこめて、二人がにらみつける。
国王は「ひぃいいいいいい……!」とおびえた声を上げながら、失神した。
ま、ちょっと胸がすっとしたね。
『ここまで脅せば、いくら馬鹿でも、もう勇者にちょっかいかけることはないじゃろうな。絶対。もう二度と。100%確実に』
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タイトルは、
『地味な支援職【重力使い】の俺、追放されたけど美少女たちと最強パーティを作って無双する~重力の概念がないせいで、俺を役立たずと決めつけた元メンバーが土下座して「戻ってこい」とか言ってきたけど、もう遅い~』
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