31.総監部の暗殺者を、返り討ちにする
異世界で稼いだ金を、家に入れることにした。
これで当面の生活費は問題なさそうだ。……税金とか大丈夫かな。贈与税とかあるんだっけ? 税理士でも雇った方がいいかもしれん……。
「ん?」
ふと、嫌な気配を感じた。べったりと張り付くような……いやーな感じだ。
俺はベッドにゴロゴロしながら、遠見の魔法を発動。
家の正面にある屋根へと視線を送る。
『おるな、なんか』
「いるな、なんか」
黒装束に口元をマスクで隠した、怪しい奴が屋根の上にいた。
しかも、こっちを見ていやがる。
「なんだろうな」
『わからんが、大したことないことだけは確かじゃ。おそらく姿を隠す術を使っておるが、バレバレじゃの』
「んー……どっすかなぁ」
コンコン……
「あいよー」
「お兄ちゃん、ちょっと」
「おう。なんだ?」
咲耶が俺の部屋へやってきた。なにか話があるようだ。ちょうどいい。
「なぁ、咲耶。ちょっと聞きたいんだけど」
遠見で見た映像を、咲耶にも見せる。
「こいつ知ってる?」
「……? 何も見えないわ」
あらまあ。咲耶には見えないらしい。
『高位の妖魔と同じか、それ以上の姿隠しをしとるようじゃな』
俺は見張られていること、黒装束の男がいることを咲耶に伝える。彼女は目を見開き、小声で言った。
「……それは、懲罰部隊だよ」
「なんか聞いたことあんな、それ」
「総監部直属の組織。総監部に逆らう異能者を罰したり、野良の異能者が悪さをすれば捕まえて処罰するのが仕事」
なるほど、総監部の犬ってわけだ。
「なんで総監部が犬を放ってきたのかね」
咲耶がじっと俺を見る。ああ、俺のせいか。
「派手にやったもんな。色々」
「街中では隠蔽魔法ちゃんと使ってたんだがなぁ」
すると咲耶が俯いてしまった。おや?
「どうした?」
「……ごめん、たぶん、わたしのせいだ」
「咲耶の? なんでだよ」
「……わたしが急激に強くなったせいだよ」
うーん……?
『なるほどな。サクヤは今まで四級の虫怪にすら手こずっていた。それが急に特級の妖魔を倒したとなれば……誰かが昨夜を強くしたと考えるのが自然』
なるほど。そこから俺の存在に気づいたってわけか。
で、責任感の強い妹が自分を責めてると。
ぽん、と妹の頭を撫でる。
「おまえのせいじゃねえよ。俺が派手にやったせいでバレたんだ。気にすんな」
「……お兄ちゃん」
さて、と。どーすっかな。
「ん……? なんだ……」
ぷかぷか……宙を漂う何か。俺はひょいと掴む。
「ビギィイイ!」
「うわ、なんだこれ。きしょ……魚?」
「! 魚妖。低級の妖魔よ。それに……兄さん、それ離して! 起爆札が貼ってある!」
かっ。
どごぉおおおおおおおおおおおおん!
「ふひゅぅ、始末してやったぜぇ。総監部に楯突く愚か者をよぉ」
「始末されてねえよ」
「ふひゅ!? ば、バカな!」
部屋が木っ端微塵に吹っ飛んだ。くそが。
懲罰部隊の男を睨みつける。
俺たちの周りには結界魔法が張ってある。だから俺と咲耶は無傷だ。
だが……妹は、こんなのでも傷を負う可能性がある。くそが!
「てめえ……ふざけんなよ」
気づけば俺は男を睨みつけていた。
「ば、ばかな。魚妖は空間に潜航し、敵に近づける。相手に気づかず起爆札で仕留めるのが俺の得意技! だというのに、なんなんだ貴様は!?」
飛翔の魔法で男の前へ。
「咲耶の兄貴だよ。てめえ……よくも咲耶を殺そうとしたな」
本気で睨むと、男はガクガクと震えだした。
「ぎょ、魚妖どもぉ!」
空中に無数の魚が現れる。札が二種類貼られていた。
一つは起爆札。もう一つは妖魔を操る札だろう。
「こいつをぶち殺せぇ!」
魚の群れが迫る。俺が腕を振ると、消えた。
「ふひゃはは! 無駄だ! 別空間に潜航できる魚妖を、お前ごときに倒せるか!」
魚妖の群れが消え、ふいを突こうとしている。
俺は結界を展開する。
「結界で守るか? なら簡単だ。内側から魚妖を出して爆破すりゃいい!」
やつは魚妖を結界内へ出す。
「ひゃっはー! 爆殺だぁー!」
しーん……。
「なぁ!? なぜ爆発しねえ!」
「起爆札ってやつを回収させてもらったからよ」
「な!? き、霧ヶ峰兄ぃ!?」
懲罰部隊の背後に立つ俺。右手には大量の札。
「あの魚は厄介だ。でも爆発は妖魔の能力じゃねえ。結界で囲い、顔を出した瞬間に札を回収すりゃいいだけだ」
結界内は魚妖でみちみちだ。
『あの結界は身を守るためではなく、網だったのじゃな。さすがじゃ勇者よ』
男が狼狽える。
「く、くそ! 魚妖ども! 再び殺せぇ!」
しーん……
「なぜだ! なぜ言うことを聞かない!」
俺は左手を見せる。そこには操り札。
「まさか……あの刹那で全ての札を回収したというのか!?」
「ああ。俺にとっちゃ、あくびが出るくらい遅かったぜ?」
つまり、こいつは札がないと何もできない。言いたいことはひとつ。
「てめえは雑魚の分際で、雑魚どもを操ってただけだ」
「ぐ、ぐぬぬぬ!」
「で、どーすんの? まだやる?」
にまぁ、と笑った男。
「ふひゃははは! 総監部さまぁ! ばんざぁい!」
奴がマスクをちぎり、口を開く。舌には札。
自爆か。総監部ってやつは本当にクソだな。
ドガァアアアアアアアアアアアン!
「お兄ちゃん! おにぃちゃあああああん!」
「どうした咲耶?」
「ええええええ?! 直撃受けたのに、なんで無事なの?! しかも至近距離で!」
「ああ、まあ一枚だけだしな。何十何百何千枚もあったら、ちょっとはダメージあったろうがな」
「何千枚で、ちょっと……?」
青ざめる咲耶を見て、申し訳なく思う。
「心配させてすまんな」
「……別に」
ふるふると首を振る。
「ほんとだよ、ばか……。わたしのために傷つかないでよ」
妹は責任感が強すぎる。だからこそ俺は、この子を守りたい。
「咲耶。ちょっくら出てくるわ」
「出てくるって……どこへ?」
「皇居」
咲耶が目を向く。
「ま、まさか……」
「おう。総監部に文句言ってくる」
妹を狙ったこいつらを、野放しにはできねえ。ラインを超えた。
「危険だよ! 懲罰部隊も隊長も……」
「隊長? 雑魚集団の隊長なんてたかが知れてるだろ」
「いや雑魚じゃないんだけど……あ、まって!」
飛ぼうとすると、咲耶が手を握る。
『止めるな、サクヤ。この男は根っからの勇者なのだ』
魔王が誇らしげに言う。
『弱者を踏みにじる巨悪を許さない。それが勇者よ』
「そーゆーこと」
咲耶の目に涙。
「……頼って、いいの?」
本当は強くない妹。弱さを言えないまま戦わされてきた女子高生に、刃を持たせる組織……そんなゴミは許せねえ。
「おう!」
「ありがとう……でも一人で危ないとこ行かせたくない。わたしのせいなら、なおさら」
咲耶が俺を見る。
「わたしもついていく」
「おう。じゃあ二人で乗り込むか」
そのとき、青紫の光点が現れる。
『なんじゃ、我を仲間はずれにする気か?』
ごぉお! 黒い龍――異世界魔王の真の姿が現れた。
『我の背に乗れ。サクヤは飛べぬのだろう?』
「お、さんきゅ」
俺が背に乗ると、咲耶はため息をついた。
「お兄ちゃん……こんな化け物倒したんだね……」
倒したじゃなく「倒したんだね」と言った。もう理解したんだろう。俺が異世界帰りの勇者だって。
「よし、いくぞ。魔王」
『おうよ! くく……勇者と魔王が共闘とは! 長生きはするもんだな!』
【☆★おしらせ★☆】
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