表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/85

30.家族に四〇億わたす

 だいだらぼっちを咲耶さくやたちがあっさり倒した――で、その日の夜。俺は咲耶と一緒に家へ帰ってきた。


「ただいまー」

「あ、おかえり~」


 作家である親父が出迎えてくれる。


「ん~……」


 じろじろと俺を……いや、俺たちを見ている。


「どうしたんだよ?」

「いや、ふふ、一緒にお出かけかい?」

「え、まあ……」


 親父はにこにこと笑い、「そっかそっかー」と言う。なんだ……?


「咲耶ちゃん、お風呂わいてるよ」

「…………」


 咲耶はちらっと親父を見て、軽く頭を下げてから風呂場へ向かった。


『なんじゃ、あやつ。普段と態度がちがうのぅ』と魔王。

『親父とはまだ壁があんだよ』

『そういえばおぬしとあの男と、咲耶とは血がつながってなかったのだったな』


 そう。親父は俺を連れて咲耶たちの家に「婿入り」してきたのだ。だから咲耶はまだ、親父を本当の父親と思えていないのかもしれない。


「夕飯できてるよー」

「ありがと」


 俺はリビングへ。親父はにこにこと俺を見ている。


「どうしたんだよ、親父」

「いやぁ、悠二君と咲耶ちゃんが仲良くなっててさ。お父さん嬉しいよ」


 ……仲良く、か。まあ、転移前はほとんど口をきかなかったからな。思春期になってから特に。あの頃と比べれば――たしかに仲良くなってるのかもしれん。


「はい、ご飯」


 テーブルに並ぶのは、野菜炒めと魚、そして具なしの味噌汁。二人分だけだ。


『質素な食事じゃのう~』

「…………」


 親父の前には茶碗と味噌汁だけ。


「親父、おかずは?」

「ごめんね、足りなかったかな?」

「そうじゃなくて。親父の分は?」


 あー……と親父は気まずそうに顔をそらす。

「その、あれだ。ぼくダイエット中でね! だからこれくらいで十分なんだよっ」


 ……そんな言い訳を鵜呑みにできるほど、俺は子供じゃない。


「あはは……ごめんね。出版社の編集と連絡がつかなくてさ。印税が振り込まれなくなったんだ」


『印税? なんじゃそれ』

『親父は作家なんだよ』

『ほう、物書きか。すごいな』

『いや……今は売れてないみたいでさ。出版も厳しいし』


 しかも出版社が潰れて、未払いのままらしい。


「それやばいじゃん。裁判とか起こせないのか」

「うん……でも潰れちゃったからね」

「まじかよ……」


 訴える相手すら消えてしまえばどうしようもない。


「大丈夫! すぐ次の仕事見つけるから。君たちは気にしなくていいんだよ」


『……優しい親父殿じゃの』


 本当に。自分が一番辛いはずなのに、子供に気を遣う余裕を見せるなんて。


『ところで妖術師って金もらえんのか?』

 ……たしかに。ギルドなら魔物を倒せば報酬が出る。咲耶も金もらってないんだろうか。


「あ、悠二君。石けんなくなったろ。これ持っていってあげて」


 親父に渡された石けんを持って、俺は脱衣所へ。


 がちゃっ。


「「あ……」」


 ――そこに居たのは、全裸の咲耶だった。


 白い肌、濡れた黒髪、そして……胸の成長具合。小さい頃に一緒に風呂に入った記憶と比べてしまい、思わず見入ってしまう。


「さ、咲耶……」

「きゃあああああああ!」


 咲耶が悲鳴を上げ、うずくまった。


「す、すまん!」


 慌てて飛び出す俺。


『お兄ちゃんの変態!』

「違うって!」

『のぞき魔!』

「誤解だから!」


 その後もしばらく罵られ続けた。


『かっかっか。仲良いのぅ』


 どこがだよ……。


「石けん届けに来ただけだ。なかったろ?」


 ドアの隙間から咲耶の手が伸びてきて、石けんを素早く引っ込める。やっぱり必要だったらしい。


 やがてシャワーの音が止み、咲耶が出てきた。


「咲耶」

『まだいたの……?』

「おう。誤解、解けたかなって」

『……うん。ごめんね』


 悪意がないことに気づいてくれたようだ。ほっとする。


 そこで、前から気になっていたことを聞いた。


「妖魔退治って、金もらえないの?」

『……もらえないよ』


 やはり。


「なんでだよ。総監部って日本政府と繋がってるんだろ? 妖魔退治って日本の安全保障じゃん」

『一応、給料は出るよ。月額手取り十八万円』

「やっす!!」


『しかも何体倒しても一定』

「ざっけんなよ!」


 命がけで戦って手取り十八万? 冗談だろ。


「日本政府ケチりすぎだろ……」

『給料は総監部から出てるの。政府に言っても無駄』


 ……中抜きしてるんじゃないのかと疑いたくなる。


「よく今までモチベ保ってたな」

『……だって。お兄ちゃんと、お父さんを守らないと、だから』

「…………咲耶」


 命がけで働いて、わずかな給料。それでも戦い続けた理由は――俺たちを守るため。


 ……バカだな俺。妹が壁を作ってるなんて思ってたけど、違うだろ。家族のために必死だったんだ。


 なら――俺も家族のために戦おう。


 俺はアイテムボックスから札束を取り出し、テーブルに置く。


「親父、これ使ってくれ」


 どんっ、と音を立てて。


「な、なんだい……悠二君……?」

「実は宝くじに当たったんだ。四十億」

「た、宝くじ!? 四十億!?」


 もちろん嘘。異世界で得た財宝を換金した金だ。


「これ、家計に回してくれ」


 親父は目を丸くした後、ぶんぶんと首を振る。


「できないよ! これは君のお金だ。ちゃんと貯金して、自分のために使いなさい!」


 まったく……親父も咲耶と同じで家族思いだ。


「なら今使うんだよ。家族が困ってる。それを助けるために、俺は金を出す。駄目か?」

「いや、しかし……」

「咲耶にも親父にも、俺は幸せになってもらいたいんだ。だから使ってくれ」


 親父は札束と俺を見比べ、ついに頷いた。


「……わかったよ。ありがとう悠二君。正直助かる。でも! 使った分は全部記録する。小説が売れたときに、必ず返すからな!」

「そんなのいいって」

「良くない!」


 やれやれ……。


 すると――。


「…………」

「うぉ、咲耶……いたのかよ」


 いつの間にか後ろに立っていた。気配を殺してたな。


「…………ありがと。お兄ちゃん……かっこよかった」


 小さな声で呟く。


「え、なんだって?」

「~~っ! なんでもないっ、ばかっ!」


 顔を真っ赤にした咲耶は、テーブルにつき、親父の用意した飯を頬張るのだった。

【★☆大切なお願いがあります☆★】


少しでも、

「面白そう!」

「続きが気になる!」


と思っていただけましたら、

広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、

ポイントを入れてくださると嬉しいです!


★の数は皆さんの判断ですが、

★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、

最高の応援になります!


なにとぞ、ご協力お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★新連載です★



↓タイトル押すと作品サイトに飛びます↓



『捨てられ聖女は万能スキル【キャンピングカー】で快適な一人旅を楽しんでる』

― 新着の感想 ―
多分政府内に、妖怪ザイゲンガーがいる。
12人しか国を守れるのがいないのに薄給でこき使うとか腐ってるなぁ お兄ちゃんの梃子入れが始まるかな?
咲耶、家に金入れてないのかなと思ってたが、直帰してバイトしてる様子ないから渡してたら、パパ活とかしてるのかと疑われるか?心開いてないみたいだし。 潰れた出版社ってタカナワかな?岡谷辞めさせた十二兼はこ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ