30.家族に四〇億わたす
だいだらぼっちを咲耶たちがあっさり倒した――で、その日の夜。俺は咲耶と一緒に家へ帰ってきた。
「ただいまー」
「あ、おかえり~」
作家である親父が出迎えてくれる。
「ん~……」
じろじろと俺を……いや、俺たちを見ている。
「どうしたんだよ?」
「いや、ふふ、一緒にお出かけかい?」
「え、まあ……」
親父はにこにこと笑い、「そっかそっかー」と言う。なんだ……?
「咲耶ちゃん、お風呂わいてるよ」
「…………」
咲耶はちらっと親父を見て、軽く頭を下げてから風呂場へ向かった。
『なんじゃ、あやつ。普段と態度がちがうのぅ』と魔王。
『親父とはまだ壁があんだよ』
『そういえばおぬしとあの男と、咲耶とは血がつながってなかったのだったな』
そう。親父は俺を連れて咲耶たちの家に「婿入り」してきたのだ。だから咲耶はまだ、親父を本当の父親と思えていないのかもしれない。
「夕飯できてるよー」
「ありがと」
俺はリビングへ。親父はにこにこと俺を見ている。
「どうしたんだよ、親父」
「いやぁ、悠二君と咲耶ちゃんが仲良くなっててさ。お父さん嬉しいよ」
……仲良く、か。まあ、転移前はほとんど口をきかなかったからな。思春期になってから特に。あの頃と比べれば――たしかに仲良くなってるのかもしれん。
「はい、ご飯」
テーブルに並ぶのは、野菜炒めと魚、そして具なしの味噌汁。二人分だけだ。
『質素な食事じゃのう~』
「…………」
親父の前には茶碗と味噌汁だけ。
「親父、おかずは?」
「ごめんね、足りなかったかな?」
「そうじゃなくて。親父の分は?」
あー……と親父は気まずそうに顔をそらす。
「その、あれだ。ぼくダイエット中でね! だからこれくらいで十分なんだよっ」
……そんな言い訳を鵜呑みにできるほど、俺は子供じゃない。
「あはは……ごめんね。出版社の編集と連絡がつかなくてさ。印税が振り込まれなくなったんだ」
『印税? なんじゃそれ』
『親父は作家なんだよ』
『ほう、物書きか。すごいな』
『いや……今は売れてないみたいでさ。出版も厳しいし』
しかも出版社が潰れて、未払いのままらしい。
「それやばいじゃん。裁判とか起こせないのか」
「うん……でも潰れちゃったからね」
「まじかよ……」
訴える相手すら消えてしまえばどうしようもない。
「大丈夫! すぐ次の仕事見つけるから。君たちは気にしなくていいんだよ」
『……優しい親父殿じゃの』
本当に。自分が一番辛いはずなのに、子供に気を遣う余裕を見せるなんて。
『ところで妖術師って金もらえんのか?』
……たしかに。ギルドなら魔物を倒せば報酬が出る。咲耶も金もらってないんだろうか。
「あ、悠二君。石けんなくなったろ。これ持っていってあげて」
親父に渡された石けんを持って、俺は脱衣所へ。
がちゃっ。
「「あ……」」
――そこに居たのは、全裸の咲耶だった。
白い肌、濡れた黒髪、そして……胸の成長具合。小さい頃に一緒に風呂に入った記憶と比べてしまい、思わず見入ってしまう。
「さ、咲耶……」
「きゃあああああああ!」
咲耶が悲鳴を上げ、うずくまった。
「す、すまん!」
慌てて飛び出す俺。
『お兄ちゃんの変態!』
「違うって!」
『のぞき魔!』
「誤解だから!」
その後もしばらく罵られ続けた。
『かっかっか。仲良いのぅ』
どこがだよ……。
「石けん届けに来ただけだ。なかったろ?」
ドアの隙間から咲耶の手が伸びてきて、石けんを素早く引っ込める。やっぱり必要だったらしい。
やがてシャワーの音が止み、咲耶が出てきた。
「咲耶」
『まだいたの……?』
「おう。誤解、解けたかなって」
『……うん。ごめんね』
悪意がないことに気づいてくれたようだ。ほっとする。
そこで、前から気になっていたことを聞いた。
「妖魔退治って、金もらえないの?」
『……もらえないよ』
やはり。
「なんでだよ。総監部って日本政府と繋がってるんだろ? 妖魔退治って日本の安全保障じゃん」
『一応、給料は出るよ。月額手取り十八万円』
「やっす!!」
『しかも何体倒しても一定』
「ざっけんなよ!」
命がけで戦って手取り十八万? 冗談だろ。
「日本政府ケチりすぎだろ……」
『給料は総監部から出てるの。政府に言っても無駄』
……中抜きしてるんじゃないのかと疑いたくなる。
「よく今までモチベ保ってたな」
『……だって。お兄ちゃんと、お父さんを守らないと、だから』
「…………咲耶」
命がけで働いて、わずかな給料。それでも戦い続けた理由は――俺たちを守るため。
……バカだな俺。妹が壁を作ってるなんて思ってたけど、違うだろ。家族のために必死だったんだ。
なら――俺も家族のために戦おう。
俺はアイテムボックスから札束を取り出し、テーブルに置く。
「親父、これ使ってくれ」
どんっ、と音を立てて。
「な、なんだい……悠二君……?」
「実は宝くじに当たったんだ。四十億」
「た、宝くじ!? 四十億!?」
もちろん嘘。異世界で得た財宝を換金した金だ。
「これ、家計に回してくれ」
親父は目を丸くした後、ぶんぶんと首を振る。
「できないよ! これは君のお金だ。ちゃんと貯金して、自分のために使いなさい!」
まったく……親父も咲耶と同じで家族思いだ。
「なら今使うんだよ。家族が困ってる。それを助けるために、俺は金を出す。駄目か?」
「いや、しかし……」
「咲耶にも親父にも、俺は幸せになってもらいたいんだ。だから使ってくれ」
親父は札束と俺を見比べ、ついに頷いた。
「……わかったよ。ありがとう悠二君。正直助かる。でも! 使った分は全部記録する。小説が売れたときに、必ず返すからな!」
「そんなのいいって」
「良くない!」
やれやれ……。
すると――。
「…………」
「うぉ、咲耶……いたのかよ」
いつの間にか後ろに立っていた。気配を殺してたな。
「…………ありがと。お兄ちゃん……かっこよかった」
小さな声で呟く。
「え、なんだって?」
「~~っ! なんでもないっ、ばかっ!」
顔を真っ赤にした咲耶は、テーブルにつき、親父の用意した飯を頬張るのだった。
【★☆大切なお願いがあります☆★】
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】から、
ポイントを入れてくださると嬉しいです!
★の数は皆さんの判断ですが、
★5をつけてもらえるとモチベがめちゃくちゃあがって、
最高の応援になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!




