29.妖刀使いたちも、強化してた
魔銀を現代で大量にゲットした俺。
魔銀武器を装備した四十八人の式神たちは、森の妖魔を次々と倒していった。
そして高尾山の山頂に到着する。
展望台からは西東京を一望でき、観光客も多い。
「神兄様!」
桃三ちゃんが抱きついてくる。ももかもそうだが、この式神たちも揃いも揃って美少女で、スタイルまで抜群だ。
「なにあれ……美少女だらけの中に男が一人……?」
「新しいアイドルユニットか?」
「ちくしょう、美人揃いだ……羨ましいぞあの男……」
観光地なだけに視線が痛い。頼むから目立つのはやめてくれ……。
「どうだ、咲耶、ももか。楽できただろ?」
魔銀装備の式神たちは妖魔と普通に渡り合い、二級妖魔程度なら任せておける。
「そうね、一度も戦闘しなかったし」
「……正直、かなり楽。ありがとう、お兄ちゃん」
「あんがとね悠仁!」
その時だった。
ごごごご……と大地が揺れる。
「な、なにごと……?」「地震!?」
桃三ちゃんたちは状況がわかっていない。だが咲耶とももかは妖刀を抜いていた。高位の妖魔の気配に気づいたのだ。
「もしかして……」
「ええ、妖魔よ。それも名持ち……」
視線を向けると、遠くに巨人が一体。
『だいだらぼっち、ですわ』と帰蝶が告げる。
『山に棲む巨人の妖魔。特級に分類されます』
「ほーん……特級妖魔ね」
鎌鼬と同格らしい。あれが妖魔の頂点と言われても、どうにも釈然としないが。
「わたしたちが開けた場所に出たせいで、特定されたのね」
「あたしたち狙いってわけか! 上等じゃない!」
妖刀使いたちは戦う構えを見せる。
一方、桃三ちゃんたちは巨人の姿すら見えていない(高レベルの妖魔は、弱い異能者には視認できないのだ)。
「桃三たちは、封絶界を張って」
「「「はい!」」」
四十八人で封絶界を展開。展望台からだいだらぼっちのいる山まで結界が広がる。やるじゃないか。
『まあ勇者なら一人でやるがの』
そう言うなって、魔王よ。
「じゃ、いってくるわね悠仁!」
「おう、頑張れ」
ももかと咲耶が展望台から飛び降りる。俺は遠見で鳥の視点を展開し、観戦することにした。
二人がたどり着いた先にそびえる巨人は五十メートル級。
『そういや勇者よ。桃三たちは強化したが、妖刀使いたちは何もしておらんのでは……?』
「そう思うだろ?」
『む? 何かあるのか?』
「ああ、ちょっと仕込んである。見てな」
二人は震えながらも構えた。
『逃げる……?』
『はっ、まさか! 一の型――氷天雪地!』
ももかの妖刀が氷を撒き散らす。ずお……と広範囲が凍り、だいだらぼっちの下半身すら一瞬で氷漬けになった。
『な、なにこの出力!? 今までこんなの無理だったのに!?』
咲耶も一の型、血湧肉躍を発動。妖刀が赤く輝き、彼女は巨人の顔面めがけて跳躍――五十メートルを一気に飛ぶ。
『な、なにこのジャンプ力!?』
二人とも明らかに力が上がっている。
巨人の攻撃を避けた咲耶は、空中で向きを変えた。
『はぁ!? 今、何したの!?』
『わ、わかんない……。相手の動きがすごくゆっくりに見えて……近くの破片を蹴って方向転換したの』
なるほど、出力が大幅に強化されている。
『お兄ちゃんでしょ! なにかしたの!?』
咲耶が気づいたらしい。俺は念話で答えた。
『妖刀に魔銀を食わせたんだ』
『『妖刀に魔銀を……!?』』
桃三たちが狩りをしている間、彼女らの妖刀を借り、魔銀インゴットを近づけてみた。結果、妖刀はそれを吸収したのだ。
「魔銀は妖魔に有効だろ? で、妖刀も妖魔を斬れる。つまり、妖刀にも魔銀が含まれているんじゃないかと鑑定したら……ビンゴだった」
妖刀の成分には確かに魔銀が含まれており、それが増えれば力も増す。
『咲耶……今ならいけるわ』
『わたしもそう思ってた』
ももかが妖刀を構える。
『緋刀【梅】――二の型! 【気炎万丈】!』
刀身から炎が奔流のように噴き出し、巨体を絡め取る。
『すごい! 妖刀が二の型を覚えたのよ! 本来なら死ぬ思いの修練を積んで、ようやく習得できる技が……!』
一方、咲耶も刀を振る。
『血刀【桜】――二の型【桜花爛漫】!』
刀身が血のように赤く染まり、ぱきん、と砕け散った。
破片は花びらとなって舞い、だいだらぼっちを切り裂く。
血の桜吹雪。敵の出血はさらに花弁となり、連鎖的に攻撃が加速する。
『とどめぇ!』
ももかの炎刃が振り下ろされ、ざんっ――五十メートルの巨体が真っ二つに裂けた。
『すごい! 悠仁、あなたのおかげでここまで強くなれたわ!』
『お兄ちゃん……やっぱチートだよ……』
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