28.大量のミスリルげっと
俺たちは高尾山で、48人の式神たちの訓練をつけている。
「てい!」「やぁ!」「とぉ……!」
全員、俺の魔力で身体を強化しているから、妖魔を素手でボコれるようになった……が。
「まだ火力不足は否めないな」
ももかたち妖刀使いは、二級の妖魔を一撃で仕留める。
一方、桃三ちゃんたちは、素手でダメージは通せるが、とどめを刺すには何発も必要だ。
『攻撃力で言えば、勇者>>>>>超えられない壁×∞>>>>>>妖刀使い>>>式神、くらいの差じゃの』
「まあ、実際お兄ちゃんと比べればそんなもんだろうけど……。改めて、お兄ちゃん火力高すぎない……?」
咲耶があきれ顔で言う。
『魔法による火力は、物理攻撃の何倍も大きいからの』
「なるほど……。ねえお兄ちゃん、式神に魔法を覚えさせないの?」
至極もっともな疑問を投げかける咲耶。
桃三ちゃんたちが魔法を使えれば、戦闘はぐっと楽になるはずだが――。
「試したんだけど、どうにも無理みたいでな」
「? どういうこと」
「おーい、桃三ちゃん。こっち来てみ」
ももみちゃんがやってきて、アイテムボックスから杖を取り出す。
「これは火竜の杖。魔導書がなくても魔力を通せば【火球】が打てる魔道具だ」
魔王が落とした戦利品の一つだ。
「! それなら魔法を習得させなくても――」
「ところがな」
ももみちゃんが杖を握り、力を込める。
「ぐぬ……ぐぬぬぬ! ……でません」
「? どういうこと……お兄ちゃん?」
俺は咲耶に説明した。
「どうやら妖術師(異能者)は、魔法が使えないらしい」
さっき魔王と話した見解を述べる。
「妖刀に使う霊力が、魔力と反発するんだ。魔法をアウトプットする時に、霊力が邪魔してしまうらしい」
火竜の杖に魔力を送るとき、妖術師は霊力も一緒に流し込んでしまう。
結果、霊力が変換を阻害し、魔法は発動できない。
「そう……残念ね。使えたら楽なのに」
「まあ、しゃーないな」
式神たちが妖魔を狩っていく。攻撃は通るようになったが、依然として討伐に時間がかかる。
高尾山を登っていくと――。
巨大な岩が鎮座する場所にたどり着いた。休憩することにする。
「どうしたの、悠仁?」
「なんかこの岩……見覚えがあるような……」
ぺたりと岩に触れる。……魔力だ。
岩に魔力が込められてる……? まさか……!
「【鑑定】」
~~~~~~
魔銀
→極めて希少な魔力鉱石。伝導効率は異世界最高。魔法付与武器の素材。
~~~~~~
「やっぱり! これ魔銀だ!」
「? なぁに魔銀って……?」
「超レア鉱石だよ!」
異世界でも滅多に見つからない代物だ。
「手のひらサイズでも売れば家が建つ」
「!? そ、そんなに貴重なの!?」
ももかが絶句する。
「ああ……。こんなバカでかい魔銀が、山の中に無造作に……」
なんでこんなレア鉱石が放置されてるんだ……?
『勇者よ、こっちの人間はこれを魔銀と知らぬのでは?』
魔王が推論を述べる。
『加工しなきゃ真価を発揮せんしの』
「なるほど……加工できる者がいない。だから価値も理解されず、放置されてるのか」
魔銀を加工できるのは山小人だけ。
もちろん現実世界にそんな存在はいない。
つまり、超レア鉱石が未加工のまま大量に眠っている――。
『で、どうする勇者よ?』
「決まってるだろ。回収だ」
「でも、こんな大きい岩どうやって……?」
咲耶が不思議そうにする。
俺はアイテムボックスを開き、すっぽり収納。
「……改めて思うけど、アイテムボックスずるいよね。異世界に行くだけで、こんな便利スキルがもらえるなんて」
その代わり勇者として働かされるんだがな。
「魔王。他にも魔銀ってあるんじゃないか?」
『ふむ……感知してみよう』
魔王が周囲を探る。
『ビンゴ! 川原にゴロゴロあるぞ!』
「おーし、回収に行くぞ。みんなー!」
川原に移動し、桃三ちゃんたちに回収させる。
やっぱ人数が多いと楽だわ。
俺は魔銀の欠片を手に取る。
「でもお兄ちゃん、それどうするの? ドワーフしか加工できないんでしょ?」
「【素材化】」
魔物の死体から素材を抽出する魔法を使うと――。
「ほい、魔銀インゴット、ゲット」
青紫に輝く美しいインゴットが手の中に現れた。
「あとは、【武器作成】」
インゴットが槍へと変わる。
『剣じゃないのか?』
「素人には槍のほうが扱いやすいって聞いた」
リーチもあるし、剣より汎用性が高い。
「……魔法って何でもありなの!?」
「おう、そうだな」
「すごすぎる……」
桃三ちゃんに槍を持たせる。
「魔力を流してみろ」
「はいっ!」
槍が紫色に輝いた。
「よし、それで猩猩とやり合ってみろ」
「はい!」
二級妖魔・猩猩は、木の上からこちらを警戒していた。額に汗すら浮かべながら。
「すごい……妖魔が臆してます」
「武器のヤバさを本能で察したんだろ」
ももみちゃんが跳躍し、槍を突き出す。
「はっ!」
猩猩の身体が崩れ落ちた。
「す、すごいです! 二級妖魔を一撃で倒せました!」
魔銀武器によって攻撃力が飛躍的に上がった。
「よーし、じゃんじゃん作るぞ!」
槍、弓……次々と作り、まだ余るほど魔銀は山ほどある。
いやぁ、現代にこんなに埋まってるとはな。
異世界に持ち込めば、せどりで大儲けできそうだ。
「…………」
咲耶は呆然と魔銀武器を見つめていた。
「悠仁さっすがー! 超強い武器をこんなに作るなんて! すごぉい!」
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