27.めちゃくちゃ強くなってる異能少女たち
で、翌日。今日は土曜日。
俺、咲耶、ももか、そして浅間の式神48人で、高尾山へやってきた。
「なんで高尾山……?」
「山の中には、朝でも妖魔が居るからね」
と、ももかが言う。ほぉ……。
「そうなんだ」
「うん」
「なんで?」
「そういうもんだから!」
ざっくりしてるなぁ……。
俺は咲耶を見る。
「……妖魔は、基本夜にしか現れない。でも山や森は影が多い。陰の気がたまりやすいの。だから昼でも妖魔が現れるの」
「なーるほど……」
さすが我が妹、博識だ。
「あれ? 山の中の妖魔って、昼間も出るなら放置してたらやばくない?」
「ううん、大丈夫。森や山からは出てこれないから」
と咲耶。なるほど、森の外に出れば日の光で消えてしまう。
奴らも馬鹿じゃないから、出ないのか。
「それで、神兄様。今日は何しに来たのですか? ピクニックです?」
と桃三ちゃんが尋ねてきた。
高尾山の入口には、土曜ということもあり観光客がちらほら。
「ナンダあの集団……?」「修学旅行かしら……?」「引率の先生いないし、男ばっかりだけど……」
ああ、目立ってるな……。
「今日は、強くなった桃三ちゃんたちがどれくらいやれるか試したいんだ」
式神の戦力を把握するために、山へ来たのだ。
「なるほど! では、僭越ながら我ら48人で封絶界を張らせていただきます!」
ん……?
「なんで48人?」
俺やももか、咲耶は一人で張れるけど。
『前に言ったじゃろ。封絶界は妖術の奥義だと』
あ、そういえば……。
「一般妖術師は、一人じゃ封絶界を張れないの。複数人で、しかも時間をかけてやっと構築できるものなのよ」
「ほぉん。ま、でも一人で大丈夫だと思うぞ?」
ももかが首をかしげる。
「なんでそう思うの?」
「勘」
「なるほど! 勇者の勘ってやつね! さすが!」
いや何がさすがなんだ……。
咲耶は首をひねる。
「妖刀使いでもない一般術師が封絶界なんて張れるのかしら……」
「ま、悠仁ができるって言うなら任せましょう!」
ということで、桃三ちゃん一人で封絶界を張ってもらう。
「【此の地、此の時、此の空を隔つ。外界の目と耳、声と足を退け、我らが戦場を――理で封ぜよ】」
ずぉお……! と桃三ちゃんを中心に封絶界が展開された。
「お、ちゃんとできてるな」
「!? し、信じられない……ほんとに妖術師ひとりで、しかも一瞬で……!」
複数人で時間をかけてやるものを、一瞬で。咲耶は驚愕していた。
「ほんとにできましたっ。でも……なんででしょう?」
桃三ちゃんが俺に尋ねる。本人も理由はわかってないらしい。
「魔力の性質だよ。言ったろ? 魔力には強化の性質があるって」
肉体を強化するように、結界もまた魔力で強化される。
「つまり、神兄様の式神になったことで我らは力を得て、結界を張る力も上がったのですね!」
「ま、そういうこと」
「すごいです! さすが神兄様っ!」
咲耶がため息をつく。
「お兄ちゃんが何やっても『すごいです! さすが!』って言うわねこの子ら……ロボットかしら」
「よし、じゃあ入るぞー」
封絶界を張った山へ進むと――
「うききっ!」
枝の上にでかいサルが何体も乗っていた。
「なんだありゃ?」
「猩猩ね。森に出る妖魔よ」
「猩猩……強さは?」
「三級妖魔の虫怪より上、二級妖魔」
「三級? 二級? なにそれ」
子狐の葛葉が説明する。
『妖魔の強さを表した等級よ。四級が最弱で、そこから三級、二級、一級……そして特級』
なるほど、ランク付けされてるわけか。漢検みたいだな。
「特級って?」
『特別に強い妖魔よ』
まだ上がいるのか。
「どんくらい強いの?」
「……お兄ちゃんもう倒したじゃない」
「はぁ!? いつ!?」
「鎌鼬よ」
……え。
「あんな雑魚が特級!?」
初級魔法の風刃一発で倒したんだけど!?
「だから雑魚じゃないってば! 人間に化けて知性を持つ妖魔は強いのよ」
ももかに言われ、俺は思い出す。
確かに普段戦うのは、しゃべらない虫型(虫怪)ばかりだったな。
「……マジであれが強さの天井……?」
「「だから雑魚じゃないの!」」
妖刀使いたちがキレ散らかす。すんません……。
『それはどうかのぅ』
と魔王。
『強者が現れると、必ずより強い者も出てくる。我がそうであったようにの。勇者が現代に来た以上、今まで潜んでいた強者が動き出す可能性は高い。じゃが勇者なら大丈夫じゃろうて』
随分と信頼されてるな、俺。
まあ魔王もいるし、大丈夫か。
「神兄様っ! 見てください!」
桃三ちゃんが笑顔で近付いてきた。
「猩猩を倒しましたっ」
「えー!? うそ!?」
ももかが驚く。どうやら見てなかったらしい。
「ごめん、見てなかった」
「しゅん……」
「うぅ、ごめんねぇももみ~」
よしよし、と頭を撫でるももか。
「……うそでしょ」
咲耶は戦いを見ていたらしい。
「前代未聞よ。妖刀使いでもない一般術師が、妖魔を倒すなんて……」
「あー、そういや妖刀使いしか妖魔倒せないんだっけ」
咲耶がこくりとうなずく。
一般術師はあくまでサポート役……のはずだった。
「ももみ、もっかいやってみせて!」
新たな猩猩が現れる。
「わかりました! 次はちゃんと見ててくださいねっ!」
ももみちゃんが構えを取る。素手だ。
俺の魔力を供給されている身体は満ちていた。
「うききゃー!!」
猩猩が木を蹴って飛び出す。大樹が揺れ、倒れかけるほどの威力。
「おー」
まあまあ速いな。
「は、速い……! 桃三ぃ! 逃げなさい!」
ももかは目で追えてない。身体強化の異能がないからだ。
だがももみは逃げず――
パシィ……!
「うきゃ!?」
「なっ!? 猩猩の蹴りを真正面から受け止めた!?」
ちゃんと見切れている。
「ど、どうなってんの!?」
「魔力で動体視力が強化されてるんだろ」
攻撃を目で捉えられるほどになっていた。
「せいはぁっ!」
掌底が猩猩の腹を打つ。妖魔は吹き飛び、木々をなぎ倒して転がる。
「う……ぎ……き、き……」
がくん、と意識を失った。
「やったっ! やりました、神兄様!」
桃三が抱きついてくる。
「甘い」
「え?」
俺が指摘すると――
「ウキャアアアアアアアアアア!」
別の猩猩二体が襲いかかってきた。
ボッ……!
俺のデコピンで、二体とも消滅する。
「か、神兄様……今、何を……?」
「ん? デコピンしただけだが。強化した動体視力でも見えなかったか?」
「は、はい……」
「まだまだだなぁ」
その様子に、ももかたちがため息をつく。
「……次元が違いすぎるわ」
「……一般術師が妖魔にダメージを与える。もう前代未聞のバーゲンセールね……」
「ん? お前らも、ももみが弱すぎてため息ついた感じか?」
「「違うわよ!」」
「え、じゃあ?」
「ももみが強くなりすぎなのよ! 一般術師が妖魔にダメージ与えるなんてあり得ないことなのに、それをお兄ちゃんが可能にしてるのがやばいの!」
「ああ、なるほど……」
『しかもゆーくんは、魔力で強化した式神よりもさらに上の強化を使える。すごいわ……』
『さすが勇者じゃ!』
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