22.転移魔法で、驚かれる
魔石で、式神達が存在進化した。
どうやら異世界のモンスターは、こっちの異能者に強さをもたらすようである。
夜。虫怪たちを前に、人間姿の式神たちが立つ。
「わたくしがやりますの! 止まれぇ……!」
人間姿の帰蝶が、ぐっと拳を握りしめる。
すると、虫怪が空中で動けなくなる。
「【念力】能力じゃな」
「そうだな」
念力。石の力で物体を動かす能力だ。
……俺は知ってる。あの能力ってやつを。
「あれって……魔物が持つ能力だよな」
「そうじゃ。人間がスキルを持つように、魔物もまた能力と呼ばれる特殊能力を持つ。式神達は、魔物の能力を吸収したようじゃ」
「魔石を食らうことで、レベルが上がり、能力を得るってことか」
「うむ」
帰蝶は念力で相手をぐしゃりと潰す。
一方……。
人間姿となった葛葉というと……。
「【影分身】」
葛葉が、三体に分裂する。そして、素手で虫怪をぶち抜いた。
「「…………」」
俺の隣にいる妖刀使いたちが、目をむいている。
そりゃそうだ。今まで、妖刀を使える彼女らしか妖魔を滅することができなかったのだ。
「やっぱ……すごいわ、悠仁って」
ももかが俺を見てつぶやく。
「俺? すごいのは帰蝶らだろ」
「たしかにそうだけど……。式神に、妖刀使い並の力を与えたんだもん。本当に、凄い……」
「つっても、俺がやったのは、魔石を与えただけなんだけどな」
式神たちは元の姿に戻り、こちらへ戻ってきた。
「魔石の効果が切れたんじゃろう」
彼女らのレベルアップは時間制限つきなのだ。
魔石を取り込むことで一時的に進化し、ああして戦えるのである。
「ありがとう、帰蝶。助かった」
「すごいじゃないの! 葛葉ぁ!」
二人が笑顔で、式神達を迎える。
『お兄様』
と帰蝶がこちらに近付いてきた。
どうやら「お兄様」で呼び方が固定したようだ。咲耶のお兄様ってことだろう。
「このたびも、魔石を分けていただき、ありがとうございますわ」
帰蝶を強くしてから、彼女の俺への態度は軟化したように思える。
「どーいたしましてだ」
妹の負担を減らすことは俺の望んだこと。式神を強くすることで、咲耶たちはかなり楽になってる。
「すごいわ……妖魔の気配が消えた。0時前よ!」
普段、彼女らは夜が明けるまで妖魔と戦っていたらしい。
おかげで慢性的に寝不足だったようだ。
『これなら帰って、学校が始まるまでぐっすり眠れるわね』
と葛葉が、ももかの肩の上に乗っかって言う。
「帰るのめんどくさいなあ」
「めんどい?」
「うん。アタシんち、調布のほうにあるから」
俺たちがいるのは23区だ。調布だと、なるほど結構遠いな。
「普段移動は?」
「浅間の家の人に車出してもらってる」
夜遅くまで咲耶の妖魔退治に付き合ってもらったしな。
「俺が送ってくよ」
「え!? いいのっ?」
ももかが俺の腕に抱きついてくる。……小柄だけど、デカいなマジ……。
「……お兄ちゃん」
咲耶さん、なんでそんな冷たいまなざしを向けてくるんすか……?
「夜のデート? そこからお泊まりってことねー!」
「ちげえよ。魔法でおまえを送ってくだけ」
すると……咲耶が近付いてきて、ぎゅっ、と抱きしめてきた。
「咲耶?」
「わたしもついてく」
咲耶も……?
「あんたがついてくる必要なくない?」
「……いいから。お兄ちゃん、送って」
じろり、と咲耶ににらまれてしまった。こわ……。
お兄ちゃんどうしてそんなに君が不機嫌なのか、わからないよ。
「え、っと……じゃあ送るな」
『でもゆーくん、どうやって? まさか空を飛んでいくとか?』
と葛葉が俺に尋ねる。
「それよりもっと速いよ。あー、ももか。目を閉じて」
「はい♡」
目を閉じて、手を胸の前で握り、そして唇を近づけてくる……。
これじゃまるで、キスを待ってるみたいじゃあないか!
ももかの綺麗に整った顔が……ち、近いっ!
むぎゅ!
「痛いっ!」
咲耶が俺の足を思いっきり踏んづけた。
「いたいよぉ……」
「お兄ちゃんが破廉恥なことするからですっ」
「違うって……。記憶を読むだけだから」
俺はももかの頭に手を乗っけて、記憶読取という魔法を発動。
瞬間、俺の脳裏にももかの家の場所が流れ込んでくる。
「座標は特定した。大転移!」
俺たちはその場から一瞬で消える。
……そして、調布にある、ももかの家へと到着した。
「で、っか……」
調布の住宅街の奥、鬱蒼とした木々に囲まれて、それはひっそりと建っていた。
高い塀と格子の門の向こうには、黒塗りの屋根が幾重にも連なる巨大な屋敷。
夜風に揺れる竹林のざわめきと、石畳に落ちる影が、どこか現実離れした空気をまとわせている。
まるで別世界に足を踏み入れたかのように、背筋がひやりとした。
「…………」
ももかが唖然としていた。まあ、そりゃそうか。
こっちのやつは転移魔法なんて知らんもんな。いきなりパッと違う場所へ飛んだら、そりゃびびるだろう。
「いま、今のって……なに?」
「転移魔法。行った場所に一瞬で飛べるってやつ」
ももかが驚愕する。一方で咲耶もまた目をむいていた。
『こんな便利な魔法があるのに、普段から使わないのって、どうしてですの?』
と帰蝶がもっともなことを言う。
「何もない空間に急に出てきたら、びっくりどころの騒ぎじゃあないだろ?」
特に東京は人の目が多いのだ。だから日中、この魔法を使う訳にはいかない。
『ゆーくんって……ほんとに凄すぎるわ。行動全部が規格外過ぎる』
と葛葉。
「こういうこと、妖術じゃできないの?」
ふるふる、と妖刀使い二人が首を横に振る。
「妖術って……不便だな」
妖刀使い以外妖魔倒せないし。封絶界くらいか、すごいのって。
『そうね。基本妖術って、妖刀使いをサポートする術だから。なにせ、封絶界が一般妖術師の最終奥義だもの』
「は……?」
嘘だろ……。結界が、最終奥義……?
え、結界なんて、全然難しい魔法じゃあないだろう。光魔法の初歩だぜ……?
『異世界の基準だとそうじゃが、こっちはちがうんじゃろうな』
と魔王。
『封絶界は、一般人から認識されなくなる亜空間を作る……と意外と高度な魔法のように見える。こっちの技術力に乏しい妖術師たちにとっては、封絶界ひとつ張るのも相当苦労するのじゃろう』
なるほど。たしかに封絶界はただの結界じゃあない。
それを習得するのは、こっちの人間にはむずそうだ。
「……お兄ちゃんはその最終奥義を、一発で簡単に模倣できてるんだけども。はぁ……」
「普通、習得するのに、妖刀使いであるアタシ達だって、めっちゃ苦労したのよ、まったくもう! 悠仁ってばほんとすごいんだからっ!」
ま、何はともあれ、ももかを送り届けることができた。
「んじゃ、俺らは帰るよ……って、ももかさん?」
むぎゅー、とももかが俺をつかんだまま、離さない。
「なんすかね?」
「泊まってって♡」
「は………………?」
「ほら、もう今夜は遅いし。しゅうでん? ってのももうないし。だから……泊まってきなさい♡」
……美少女転校生の家に泊まってく、だと……!?
そんなことクラスの連中にばれたら、殺される……!
「…………おーにーいーちゃーん?」
……ばれずとも、咲耶に殺されちゃうぅ!
「帰ります!」
「やだ、泊まるの! 悠仁泊まって! 一緒にお風呂入って、一緒のお布団入って、元気な男の子産んで♡」
ああもぉお! だから男は子供産めないだってばもぉお!
これだから幼卒さんはよぉ!
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