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20.式神まで強くする、俺



 石喰いっていう妖魔をぶっ倒した後……夜。妖術師たちは、妖魔狩りをしていた。


「一の型……血湧肉躍!」


 場所は夜の東京。虫怪を、咲耶さくやが妖刀でズババババッ……! と倒していく。


「…………」


 ぽっかーんとしているのは、ももかだ。妖刀を手に、呆然と咲耶さくやの活躍を見ている。


「な、なに……あれ? 動きが……まるで別人だわ!」


 がくんがくんっと、ももかが俺の肩を揺する。


「なにあれ、どういうことなの!?」

「どういうことって……」


「あの凡骨、前はもっと動きがとろかったし! それに一の型には回数制限があった! でも今……何度も血湧肉躍を使ってるわ!」


 空に浮かぶ虫怪たちを、咲耶さくやがズババッ! と斬っていく。身体強化術である血湧肉躍が切れると、また新しく術をかけて夜の街を駆ける。


『あの強さは……尋常じゃあないわ。ゆーくんが何かしてあげたんでしょう?』


 葛葉、鋭いな。


「ああ。咲耶さくやのレベルを上げてやったんだ」

「れべる……? なぁに、レベルって……」


「えっと、ほら、ゲームとかであるだろ?」

「げぇむ……?」


 ………………あかん。ももか、ゲームやったことないんだろうか……。


『ごめんなさい、この子、生粋の妖術師だから……』


 ああ、ゲームもやったことないのね……。大変な家に生まれたみたいだなぁ。


 さて……どうするか。異世界のこと、話してもいいか……?


 まあ、ももかは秘密にしろって言えば、秘密にしてくれるだろう(素直だから)。葛葉くずのはは俺に恩義を感じてるし、妖術総監部に俺の秘密(異世界関連)はしゃべらないだろう。


「実は……」


 ややあって。


「なにそれ! 敵を倒したら強くなれるなんて! ズルじゃないのよズルズル!」


 ぷんすこっと、ももかが頬を膨らませる。帰ってきた咲耶さくやは、魔法袋からタオルを取り出して汗を拭っていた。使いこなしてるなぁ。


「それに、異世界のアイテムもずるいわ!」

「……まあ、正直わたしもそれは思ってる。わたしたち妖術師から見れば、お兄ちゃんはチート存在」


 妖術師は、いくら妖魔てきを倒してもレベルアップしない(ずっと初期レベル)。妖術師には異世界の魔道具マジックアイテムといった便利アイテムを作る技術力もない。


 妖術界のすべてのものは、異世界のものに劣っている。


咲耶さくやが強くなったのは悠仁のおかげだったのね」

「うん……お兄ちゃんが異世界から魔物を出してくれるの」


 じ~~~~~~っと、ももかが俺を見てきた。


「お願い悠仁! アタシにも咲耶さくやと同じことしてほしいの!」


 どうやら咲耶さくや同様、俺に修行をつけてほしいらしい。まあ、ももかが強化されれば咲耶さくやの負担も減るか……。


「条件がある」

「なぁに?」

「二度と咲耶さくやのことを凡骨って呼ぶな」


 ももかは、咲耶さくやを下に見るような発言をしていた。兄貴として、それは見過ごせない。


「そんなことだけでいいの?」

「ああ。それを守ってくれるなら、俺はおまえの面倒も見てやるよ」

「ん。わかったわ」


 ももかは咲耶さくやの元へ向かう。咲耶さくやはなぜか俺の後ろに隠れた(マジでなんでなん……)。


「ごめんね、咲耶さくや。あんたのこと凡骨って呼んで。これからはそう呼ばないわ」

「…………」


 咲耶さくやが、気色の悪いものを見る目をももかに向ける。


「やめなさい。一緒に戦う仲間でしょ? 仲良くしなさい」

「……仲良くは無理。だってライバルだし」

「ライバル?」


 なんのだろう……? 妖魔退治のライバル? 競うもクソもないだろうに。


「……だって、ももか、お兄ちゃんのこと狙ってるし」

「え、なんだって?」

「なんでもない。お兄ちゃんのばか」


 咲耶さくやがそっぽを向いてしまった。まあまあ長い付き合いだが、まだ妹のことはわからないことが多い。


「はい、これでいいでしょ? ね、ね、アタシのことも鍛えて!」

「はいはい」


 俺は世界扉ワールド・ドアを開いてスライムをつかみ、現実世界へ持ってくる。


 かわいらしい、ぷるぷるのモンスター。いかにも雑魚っぽい見た目……。


「な……!?」

「なんだ?」

「か、」

「か?」

「可愛い~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡」


 ももかが目に♡を浮かべてスライムに突っ込んでいく。


「なにこいつ! ちょー可愛いんですけどっ」


 むぎゅうう! とももかがスライムを抱きしめる。


「ああん♡ 可愛いわ~! ちょーかわいいわ~!」

「お、おう……」


 ……魔物スライムを可愛いなんて思ったことなかったな……。


「で、このかわいこちゃんをどうするの?」

「今からお前にこいつを倒してもらいます」


 すると、ももかがクワッと目を見開く。


「こ、殺すってこと!? そんな残酷なことできるわけないでしょっ!?」

「いやでも倒さないとレベル上がらない……強くなれないぞ」

「ぴぎゅ吉を倒すなんて無理よ無理!」


 名前までつけてらっしゃる……。


『変わった感性をしておるようじゃな』

『ももかちゃん、世間知らずお嬢様だから……』


「てか、あんまスライム抱きしめるのやめといたほうがいいぞ」

「? なんでよ」


 ジュウウウ……。


「スライムって酸使うからさ。服とか溶けちゃうから」


 ももかの制服がどんどんと溶けていく……。


「ぎゃぁああああああああああああ!」


 ももかはパッとスライムを離す。服だけが溶け、ブラジャーとパンツ姿になった。


 ……咲耶さくややアイラほどじゃあないが、胸は立派だ。それに肌は真っ白で、すげえきれいだ。彫刻って言われても遜色ないくらい。


「…………」


 咲耶さくやが俺の脇腹をつまんできた。イタタタタタ……


「死ねこんのぉおお!」


 ももかは妖刀を使ってスライムに一撃入れる。だが、ぷにょんっと妖刀の一撃がはじかれる。


「あー、妖刀とモンスターって相性悪いんだ」

「だったら素手でやればいいんでしょ!」


 ももかがスライムに正拳突きを食らわす。ぱぁん! という音とともに、スライムが消し飛ぶ。


 ころん……とスライムの体から、小さな結晶が落ちる。


『おお、最弱モンスターとは言え、スライムを素手で倒すとは。ももかは素のスペックが咲耶さくやよりも高いの』


 なんか幼い頃から特別な訓練がどうとか言っていたしな。


「これでいいの?」


~~~~~~

【名前】浅間ももか

【種族】人間

【レベル】6

~~~~~~


 これがスライム倒す前のももかのステータス。まあ、普通に弱い。しかし咲耶さくやがレベル1だったことを考えると、六倍の強さがあったってことだ。


「スライム1匹じゃレベル上がらないみたいだぞ」


 俺は着ているブレザーを脱いで、ももかにかけてやる。


「悠仁……♡ 優しい……♡ ありがとうっ! だいすき!」


 ももかが俺の腕にひっついてくる。やめて……咲耶さくやさんがなぜか急激に不機嫌になってるんで。


「えっと……お前の場合、1匹倒しただけじゃレベル上がらないみたいだ。だから何匹か倒せ」

「OK! うりゃりゃりゃりゃ!」


 世界扉ワールド・ドアからスライムを出し、それをももかが倒す。さっきまで倒せないとか言ってたくせになぁ……。服を溶かされたことで、明確に敵と思うようになったんだろう。


『あら、なぁにこれ?』


 スライムからドロップした小さな石を、葛葉くずのはがつつく。


「ああ、それは魔石」

『魔石……?』


「魔物の体内で生成される石のことだよ。魔道具マジックアイテム作りに必要なアイテムで、売ればまあまあな値段で買い取ってもらえる」


 じっ……と葛葉くずのはが魔石を見つめる。


「どうした?」

『……凄く、その、オイシソウなの』

『……わかりますの、葛葉。それ……とっても美味しそう……』


 帰蝶も同じこと言ってる。美味しそうってどういうことだ……?


『ねえ、ゆーくん。これ……ちょうだい? 食べたいの』

「たべ……ええ……そんな、ただの石だぜ? 食べてもうまくねえよ」


 異世界では売れる魔石だけど、こっちの世界じゃただの石っころだ。使い道もないし、別にあげても問題ない。


「まあ、いいよ」


 ぱくっと葛葉くずのはが食べる。すると……くわっ! と目を見開く。


『なにこれ……! 力が……すごく……みなぎる……!』


 カッ……! と葛葉くずのはの体が突如として光り出した!?


 そして……葛葉くずのはの体がどんどんと大きくなっていき……そこには背の高い爆乳の姉ちゃんがいた。狐耳と尻尾をはやしてる……!


「なんだこりゃ!?」

「す、すごいわ……変化したわ!」


「へ、変化……?」

「にんげんに化けれるようになったの!」


『式神は基本、肉体を持ちませんの。でも……気の遠くなるくらい長い年月と修練を積んだ式神は、受肉し、にんげんに変化できるようになりますの!』


 なるほど……つまり、式神くずのはは魔石を食べ、進化したってこと?


「すごいわ、ゆーくん! あなたのおかげよ!」


 全裸爆乳狐耳美女が俺に抱きついてきた! む、胸が……おぶ……くるしい……息できねえ……。


「離してぇええ……」

『魔石は魔物からドロップした。魔物を呼び寄せられるのは勇者のみ。よって、勇者のおかげってことになるの』

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