18.手加減したのに野球で無双してしまう
再び体育の授業である。いやぁ、さっきは危なかった……。
とりあえず、頭への玉はたまたま避けられたってことに、みんな思ってくれたようだ(まあ考えてみりゃ、陰キャの平凡男子が玉の軌道を完全に見切って避けるなんて芸当、できるわけないしな)。
で、だ。
今度は俺たちの守り。俺は外野を守っている。
「わかってるぜ」
『急にどうしたよ、勇者よ』
頭の中で、魔王が話しかけてくる。
「なぁ、魔王。俺はさ、現実ではあんまり面倒ごとに関わりたくないんだ。平穏に過ごしたいんだよ」
『すでに平穏から遠いところにいると思うがの……?』
ま、まあ……。咲耶、アイラ、そしてももか。超絶美少女たちから、なぜか求められてる。そのせいで、めっちゃ注目浴びてるわけで……。
魔王の言うとおり、平穏からは遠い……。
『そっちもそうじゃが、妖刀使いたちと妖魔との戦いのこともじゃ』
『いや、そっちは別にたいしたことないだろ』
今んとこ雑魚しかいないし。
妖刀使いも驚異とは感じない。異世界での地獄のような日々と比べたら、現実世界での異能バトルなんてお遊戯みたいなもんだ。
『さすが、地獄の五年間を過ごしただけあるの』
『まあな。で、話を戻すんだが……俺は平穏に暮らしたい。平穏に過ごすためには目立っちゃいけないんだ』
『ほぅ……なぜだ?』
『目立つと注目を浴びる。いらん敵を招き、諍いを生む』
『なるほどのぉ……つまり勇者は、目立ちたくないと』
『そーゆーこと。だから、体育の授業でも悪目立ちしたくないわけだ。だから……手を抜く』
さっきは失敗しちまったが、今度はちゃんとやる。
キンッ……!
ボールがバットに当たる音がした。
「いったぞ陰キャぁ……!」
たしかに今、バッターがボールを打った。そのボールが俺のいるライトに向かって飛んできている。
フッ……。
俺は理解してるぜ。ここでボールを取ったら目立ってしまう。飛翔を使えば、ノーバンキャッチからのアウトなんて楽勝だ。
だが、それをするとまた悪目立ちしてしまう。
なら……やることは一つ。
「わー……とれないよー」
「ばか! 何バンザイしてんだよ!」
俺は両手を挙げ、無様なポーズをとる。ボールは俺の後方へと飛んでバウンド。よし、狙い通りだ。
「はやく取ってバックホームだ!」
さて……あとはボールを取って……。
「てやー」
ちょー力を抜いて、ホームに向かって投げる。無論ボールは……。
ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
「…………」
あ、あれぇ? おっかしいなぁ。
ほんとに、ほんっっっっっっとぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~に軽く投げたつもりだったんだけど?
俺のボールはキャッチャーのグローブに収まっていた。
しかしキャッチャーは衝撃で審判ごと吹っ飛ばされた。
三塁ランナーはぽっかーん。そりゃそうだよね!? こんなボールが飛んできたらね!?
誰もが固まっていた。俺の投げたボール……じゃなく、ボールを投げた俺に注目していた。
『ど、どないなっとんねん……?』
『元勇者が超手加減したところで、現実世界では十分な威力があったということじゃろ? おぬし、自分のレベル、MAXじゃろうて』
しまった、【攻撃】の数値がとんでもなく高いんだった。
いやでも、まじでほんっとぉ~に手加減して投げたつもりだぞ……?
そんだけ手加減しても、あの威力かよ……。
「きゃー! すごいじゃあないの悠仁~!」
唯一、ももかだけがきゃあきゃあと騒いでいた。
誰もが固まってる中……である。
「すごいパワー! かっこよすぎよぉ~! きゃー!」
ももかの声がむなしく響く。こ、これは……さすがに……。
「おいどうなってんだありゃ……?」
「陰キャのやろう、いつの間にあんなすげー玉投げられるようになってんだ!?」「オリンピック選手かよ!」
ああ、やっぱり目立っちまった……。くそぉ……。
こぼれたボールをサードが拾ってタッチアウト。
攻守交代となった。
ベンチで座っていると、葛葉が近づいてきた。
『ゆーくんって、改めて凄いのねぇ』
葛葉の姿は俺と妖刀使い以外には見えていない。
俺の声は聞こえてしまうので、念話で話す。
『嫌みか……?』
『ううん、純粋にすごいなぁって。一般人とは肉体の作りが全く異なってるのね。レベルアップってやつの影響なのかしら』
肉体の作り……。
『てか、そういうなら異能者……妖刀使いもそうじゃねえの? 一般人と肉体の作りが違うんじゃ?』
でなきゃ妖魔と戦えないだろうし。
『妖刀使いは、妖刀を握ってない時は一般人と肉体スペックは一緒よ』
『え、そうなん?』
『ええ。妖刀がないときの妖刀使い達は普通の女の子なの。でも……』
キィンッ……!
「はっはー! ねえ悠仁っ。見た見たっ? アタシのスーパーホームランっ!」
ももかが無邪気な笑みを浮かべる。
ももかの打球は、完全にホームランしていた。
『ありゃどういうことだよ』
『……ももかは特別なの。生まれたときから……ううん、生まれる前から、妖刀使いになることを運命づけられてたの。だから……』
それ以上、葛葉は言わなかった。
でも……言いたくなさそうだった。
生まれる前から運命づけられていた。だから……なんなんだろうな。
「おいクソ陰キャ」
クラスメイトが話しかけてきた。
俺、さっき凄いレーザービーム放ってたのに、まだその態度なのね……。まあいいけど……。
「次のバッター、てめえだぞ」
「あ、ああ……」
俺はヘルメットをかぶり、バットを握ってバッターボックスに立つ。
……OK。もう二度と、同じ過ちは繰り返さない。
さっきはボールを投げる動作をしてしまった。結果、目立ってしまった。
しかし、次はバッター。そして、バッターならアレができる。
そう! 見逃し三振!
『またやらかしてしまうのではないか?』
『大丈夫。俺も馬鹿じゃあない。同じ過ちは繰り返さない』
『盛大な前振りにしか聞こえぬがの……』
『大丈夫。絶対。今度こそ目立たないように振る舞うからよ。バッターボックスに立つ。バットを振らない。これで仕舞いよ。赤ちゃんでもできるぜ』
俺はバッターボックスに立つ。
相手ピッチャーが俺をにらみつけてくる。ソンナ顔すんなよ……。
「死ね陰キャぁ……!」
だー! またデッドボール狙いの球!
もういい加減にしてくれよ!
避けても当たっても面倒くせえじゃあねえか!
……って、ん? んんっ!?
なんか……ボールの軌道が変だ?
ぐにゃぐにゃと……まるで蛇のように動いてる。
『! 妖魔の気配じゃ……!』
と、魔王。なぬ……?
『あのボールが妖魔の変化ってことか?』
『というか、あのピッチャーの男に妖魔が憑いておる!』
なるほど……。って、
妖魔憑きピッチャーから放たれたボールは俺を本気で殺す気らしい。
殺気を読める俺は余裕で回避できる……。
パキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!
「ほへ……?」
思わず間の抜けた声が漏れた。ボールが……はじき返されたのだ。なんで!?
俺、バット振ってないぞ!?
『対物理障壁が自動展開されたのじゃろう。殺す気できた攻撃、と判定されたのじゃろうなぁ』
あー……。だから障壁が展開され、それにボールがぶつかったと。
で、バウンドした……と。
その結果、すさまじい速さでぶっ飛んでいき……。
ボールは妖魔憑きピッチャーのグラブをはじき……。
そのまま遥か彼方へとぶっ飛んでいった……と。
『ちなみに今の障壁に反射したボールで、あのピッチャーの体にくっついていた妖魔を滅しておったぞおぬし……』
……ついでに妖魔退治もしちゃってたってわけか……。
「すごーい! すごーい! 悠仁! すごいわー!」
……ももかは無邪気に俺を褒めてくれる。
「なんなんだよあいつ……」「さっきの返球といい、今のバッティングといい……」「まじで、どうしちまったんだあいつ……」
……ああ、視線が痛い。くそぉ。
まさか異世界帰りにとって、現実世界で普通を演じることがここまで難しいとは~。とほほぉ~……。
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